スズ 語源

スズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/05 15:25 UTC 版)

語源

元素記号のSnは、ラテン語stannumに由来する。元来この単語はの合金を意味していたが、4世紀にはスズを意味するようになった[2]。それ以前にはスズのことはplumbum candidum(白い鉛)と呼んでいた。Stannumは、ロマンシュ語ケルト語においてスズを意味する語の語源[3][4]であるstāgnumに由来しているものと見られる[3]stannumおよびstāgnumの起源は不明である。印欧語以前のものかもしれない[5]

『マイヤー百科事典』では、stannumコーンウォール語(の祖語)のsteanに由来するものであるとし、紀元後の最初の数世紀においてコーンウォールがスズの主な産地であったことをその根拠としている。

英語のtinという語はゲルマン諸語の間で共有されており、再構されたゲルマン祖語*tin-omにまで遡ることができる。同源の語に、ドイツ語Zinnスウェーデン語tennオランダ語tinがある。この語は、ゲルマン語からの借用(英語からアイルランド語に借用されたtinneなど)を除いて、他の印欧語には見られない[3]

中国語の錫という語は放浪語で、モン・ミエン語などいくつかの周辺言語にも借用されているが、詳細な起源は不明である。[6]

字源

漢字の「錫」は、音を表す「易」と意味を示す「金」からなる形声文字である。なお、かつて会意文字や「会意形声文字」として解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である。

性質

物理的性質

スズは軟らかく展延性を有した結晶性の高い白銀色の金属である。金属スズに力をかけて変形させると、「スズ鳴き」と呼ばれる双晶変形による亀裂音を発する[7]第14族元素中で最も低い232 °Cの融点を持ち、粒径11 nmの微細粒子ではさらに低温(177 °C)で溶融する[8]

常温常圧では展延性を有する正方晶のβスズ (beta-tin) 構造が安定であり、この状態の金属スズをβスズ(白色スズ)と言う。一方で、13.2 °C以下で安定なαスズは脆く灰色の非金属物質である。αスズはダイヤモンドケイ素ゲルマニウムなどに類似したダイヤモンド型結晶構造を取る。αスズは共有結合によって形成されているため自由電子を持たず、金属的な性質を有さない。αスズには一般的な用途は無いが、いくつかの特殊な半導体用途に用いられる[7]。スズにはさらに2つの同素体があり、161 °C以上の温度ではγスズ、数GPa以上の高圧下ではσスズとなる[9]

一般に流通している金属スズの純度は99.8%であり、不純物として少量のビスマスアンチモンおよびが含まれている。これらの不純物元素はβスズがαスズへと転移するのを抑制する働きがある。また、、アンチモン、ビスマス、カドミウムなどと合金を形成し、スズの硬度を向上させる。スズは硬く脆い金属間化合物相を容易に形成する傾向があり、それらはしばしば望ましくないものとされる。スズは一般的な金属と比べて固溶体を形成する範囲が狭く、スズに対して高い固溶度を示す元素はほとんど無い。一方でビスマス、ガリウム、鉛、タリウム亜鉛との間では単純共晶系を示す[10]

超伝導転移温度は3.72Kである[11]。超伝導スズは超伝導の研究において最も初期に発見された超伝導体の一つであり、超伝導体の持つ性質の一つであるマイスナー効果も超伝導スズから発見された[12]

同素変態

スズには常温に近い温度にβスズとαスズの転移点が存在する。αスズへの転移では展性が失われ、同時に大幅に体積が増加する。この転移温度は13.2 °Cであるが、アルミニウムや亜鉛などの不純物が含まれると転移温度は0 °Cを下回る[10]。通常の温度範囲では不純物などの影響によりこの転移はほとんど進まないが、極地方のような酷寒の環境では転移が進行する場合があり、スズ製品が膨らんでぼろぼろになってしまう現象が生じる。この現象はスズ製品の一部分から始まりやがて全体に広がるため、伝染病に喩えてスズペストと呼ばれる[13]。アンチモンやビスマスを添加することで同素変態を防ぎスズの耐久性を向上させることができる[10]

スズに限らず金属にはこういった、温度や圧力に応じて結晶構造が変わる同素変態をみせるものがある。スズではこの同素変態によってその物性が大きく変化する。βスズからαスズには熱力学的には13.2 °Cで変態するが、実際に反応が進行するのは−10 °Cの低温領域からであり、−45 °Cでその反応速度は最大になるが、それでも1 mm進むのに約500時間も掛かる。スズは結晶構造の違いによってさらに161 °C以上でのγスズがあり、これらの異なる単体は同素体と呼ばれ、変態する温度は変態点と呼ばれる[14]

化学的性質

スズは両性を示し酸ともアルカリとも反応するが、中性領域においてはある程度の耐食性を示す[15]。濃硝酸に対しては加水分解により不溶性の二酸化スズ水和物を形成して沈殿を生じる[16][15]。アルカリとの反応では対応するスズ酸塩を形成する[17]

スズは通常+2価および+4価の酸化数を取る。+2価のスズ化合物はイオン結合性の強い物質で還元性を有しており、+4価のスズ化合物は共有結合性の強い物質である[18]単原子イオンのSn4+は存在しないと考えられており、+4価のスズイオンはSn(OH)62-やSnCl62-等の錯イオンの形で存在している[19]。第14族元素は軽い元素ほど+4価が安定で、重い元素になるほど+2価が安定となる周期性を有しており、その周期性を反映して+2価のスズは比較的安定であるが、それでも+2価のスズイオンは容易に空気酸化を受けて+4価に酸化される[20]。また、+3価の化合物としては、Sn[(Me3Si)2N]3のような配位化合物が知られている。通常スズの+3価の化合物は不安定で単離が困難だが、この化合物は分子サイズの大きな配位子に囲まれていることによる立体障害の大きさに守られているため、数ヶ月から1年程度は安定に存在できる。Sn3F8のような化合物は形式的には+2.7価であるが、これは2個のSnF2と1個のSnF4からなる混合原子価化合物である[21]

スズは他の第14族元素と同様にカテネーションを起こすことが知られており、例えばアンモニア中でアルカリ金属元素と反応してNa2Sn5のようなスズクラスター構造を含む化合物を形成する[22]。また有機金属化合物ではスズが直鎖もしくは環状にカテネーションした化合物が多く存在しており、例えば[Sn(CH3)2]nではn=12から20のスズの直鎖構造を持ち、(C2H5)2Snはスズが環状にカテネーションした6量体や9量体の構造を取る[23]


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