スズメバチ
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食性
成虫の餌は、主として終齢幼虫の巨大に発達した唾液腺から分泌される栄養液である[10]。この液には5-20パーセントの糖分、1.3-1.8パーセントの可溶性タンパク質が含まれており、この点では人乳の組成に近い。この栄養液の不足分や終齢幼虫がまだ育っていない時期には糖質を多く含む花蜜、樹液などを摂取している。エサが不足すると、幼虫を臨時の食糧とすることもある[4]:179。また、成虫同士で口移しで体内のエサのやり取りをすることもあり、狩りの際の重要なエネルギー源となっている[4]:184。
また、秋には担子菌類のキノコの一種であるシラタマタケの子実体内部の胞子を含んだ液化部分(グレバ)を好んで摂取する。これは終齢幼虫減少期における炭水化物もしくは蛋白質源として重要な餌となっていると考えられている[11]。
幼虫の餌は種類により違いはあるが、基本的には他の昆虫類であり、成虫が捕獲した昆虫などの小動物や、場合によっては新鮮な脊椎動物の死体から筋肉の多い部分を切り取ってかみ砕き、肉団子にして与えることが多い。ただし後述するように、アシナガバチのさなぎ・幼虫専食のヒメスズメバチでは肉団子ではなく、獲物をかみ砕いて体液を素嚢(そのう)にため、それを幼虫に与える。成虫は幼虫からの口移しにより、栄養分を摂取する。
オオスズメバチは、捕獲する昆虫が減少し、また大量の雄蜂と新女王蜂を養育しなければならない秋口には攻撃性が非常に高まり、スズメバチ類としては例外的に、集団でミツバチやキイロスズメバチといった巨大なコロニーを形成する社会性の蜂の巣を襲撃する。
オオスズメバチがニホンミツバチ (Apis cerana) の巣を襲撃した場合、集団攻撃前に蜂球によって撃退されなければ、巣を占拠出来る。この種に対抗する術をほとんど持たないセイヨウミツバチ (A. mellifera) の場合は攻防の関係は一方的で、養蜂家による庇護がなければ必ずといっていいほど全滅を余儀なくされる(数十匹ほどのオオスズメバチがいれば4万匹のセイヨウミツバチを2時間ほどで全滅させられる[12])。このことが、飼育群からの分蜂による野生化が毎年あちこちで発生しているにもかかわらず、セイヨウミツバチが日本で勢力拡大するのを防ぐ要因になっている。実際、オオスズメバチの生息しない小笠原諸島ではセイヨウミツバチの野生化群が増加し、在来のハナバチ類を圧迫して減少させていることが確認されており、これらのハナバチ類と共進化して受粉を依存している固有植物への悪影響が懸念されている。
キイロスズメバチもオオスズメバチと同様にニホンミツバチなどの巣を襲撃する。主に帰巣する個体や集団から偶然離れた個体を狙って巣の周囲を滞空飛行していることが多い。このような巣では、ニホンミツバチが巣口周辺に多数集まって警戒態勢をとり、キイロスズメバチがおよそ15cm以内に近づくと、最も近くの個体を始点として、腹部をそり上げながら翅を震わすウェーブが起こり、集団全体がブーン、ブーンという断続的な羽音をたてる。このような大集団のすぐ近くでの狩りは、キイロスズメバチにとっても大変危険なものであるため、必要以上に集団に近づかないよう非常に注意深く行動するのが観察される[要出典]。首尾よく働き蜂を捕獲出来ると、次の瞬間には獲物を抱えたまま非常な速さでその場を飛び去り、高い木の枝など、集団から十分に離れた場所まで運んでから改めて噛み砕く。逆に、ほんのわずかでも捕獲に手間取った場合には、それに気付いたニホンミツバチの集団に一斉に襲いかかられ、蜂球の内部で蒸し殺されてしまうことも多い。
クロスズメバチは生きた昆虫だけでなく、カエルやヘビ、さらには人間が食べる焼魚やゆで卵も巣に持ち帰ることが知られている[4]:160。
- ニホンミツバチの巣を襲うキイロスズメバチと、防衛するニホンミツバチ
注釈
出典
- ^ “住宅地を襲うスズメバチから身を守るには?”. SAFETY JAPAN BPnet. 2013年7月29日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2013年9月17日閲覧。
- ^ a b c d “スズメバチにご注意!”. 福岡県森林林業技術センター. 2013年7月2日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2013年5月22日閲覧。
- ^ 小川原辰雄『人を襲うハチ 4482件の事例からの報告』山と渓谷社、2019年6月、190頁。ISBN 978-4-635-23010-0。NCID BB28243939。
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- ^ 寺澤芳雄編「英語語源辞典」、研究社、1997年のwasp, hornetの項
- ^ 山中元編著「英語-日本語-ラテン語 語源辞典」、国際語学社、2009年
- ^ 理化学研究所広報室 (2005-11-07). “スズメバチに学んだスポーツ飲料VAAM”. 理研ニュース 293: 2-4 .
- ^ 相良直彦 1989.
- ^ オオスズメバチの「警報フェロモン」の成分を突き止めた、小野正人、MATSUNAGA Waki、環境goo、2010/04/17閲覧
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 『スズメバチ 都会進出と生き残り戦略 増補改訂版』
- ^ 『身近なムシのびっくり新常識100』
- ^ ハチの豆知識千葉中央博物館
- ^ 井上秀雄、萩原健一、中嶋暉躬「パターン分析によるチャイロスズメバチとキイロスズメバチ及びモンスズメバチの毒嚢抽出成分の比較」『衞生動物』第44巻第4号、日本衛生動物学会、1993年12月15日、 307-313頁、 NAID 110003818256。
- ^ 学んで安心 スズメバチ
- ^ 特願2015-221379、特開2017-088548、スズメバチ科ハチ忌避剤、金ら
- ^ “スズメバチ!!どう対処? 自治体で異なる「対応」”. 産経ニュース. 産経新聞社 (2017年9月20日). 2019年5月23日閲覧。
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- ^ “ハチに刺されたときの応急処置”. 北海道オホーツク総合振興局 (2014年6月25日). 2017年7月4日閲覧。
- ^ 凶暴なオオスズメバチを虫網で捕まえてはちみつ漬をつくる! ただし、「虫網での捕獲は危険」との注意書きがある。
- ^ スズメバチも蜂蜜をつくる?
- ^ スズメバチ酒製造法
- ^ 生きたスズメバチで作った焼酎を飲んでみた→塩っぽい味がした→「その毒成分です」
- ^ “串原にへぼミュージアム 恵那農高生が整備”. 岐阜新聞Web. 岐阜新聞社 (2017年11月2日). 2017年11月7日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2017年11月2日閲覧。
スズメバチと同じ種類の言葉
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