スズメバチ
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巣の構造
スズメバチの巣は、基本的にはアシナガバチのそれに似たものである。材料は枯れ木からかじり取った木の繊維を唾液のタンパク質などで固めたもので、一種の紙のようなものである。この材料を使って管を作ったものが巣の構成単位で、その中に卵を産み、幼虫が孵化し成長するにつれ部屋を拡大延長する。幼虫がさなぎになると蓋をされ、羽化して成虫が脱出すると巣の役目は終了する。
このような巣を平面的に外側へ追加して、円盤状になったものを柄をもって木の枝などからぶら下げたものがアシナガバチの巣であるが、スズメバチの場合、この巣の周りを同じ材質でできた外被と呼ばれるもので覆う[4]:52。外被は保温材としての働きの他、アリなどを防ぐ防壁としての機能がある。外被を作らないアシナガバチでは、巣の柄の部分にアリが避ける物質を塗りこれを防ぐ。このように外被のある構造なので、スズメバチの巣は出入り口が一つであり、巣の形からも他のハチと見分けることが可能である。
女王蜂が最初に作る巣には、働き蜂が誕生して大きく成長した巣には見られない特徴が見られることがしばしばある。例えばコガタスズメバチの初期巣はトックリを逆さにぶら下げたような形をしており、口の部分が出入り口になっていたり、クロスズメバチ類などでは巣の基質への付着部がねじれた三角形の板になっていて弾力で衝撃を吸収するようになっている。こうした初期の巣固有の特徴も、働きバチの誕生に伴い巣が拡張されると失われていく。
巣盤はアシナガバチのような1段ではなく、その下に新たに追加され、数段の巣盤が互いに柱で結びついた形となり、外被も球形になってゆく。囲いは巣材を採集する働き蜂の個体ごとに、異なる枯れ木や朽木、樹皮などの採取場所を持つ。同じ個体は同じ場所から繰り返し材料を持ち帰ることが多い。材料はアゴで食いちぎり、唾液と混ぜて数ミリメートルのボールにして持ち帰ると、ボールを一部ずつを魚のうろこが成長するように塗ってゆく。作業をする個体ごとに持ち帰る材料が異なるため、巣は色違いのうろこ模様に彩られる[13]:51。
大きなものでは一抱えもあるようなサイズとなる。この外被は働き蜂の造巣活動によって次第に皿状に湾曲したうろこを重ねたように空隙を抱えながら厚くなっていき、優れた保温効果を持つようになる。さらに、働き蜂は、ある程度厚くなった外被の内側の巣材を削り取ってさらにタンパク質などを含んだ唾液で練り直し、より強靭な巣盤の材料として内部の営巣部の拡張を行う。
多段式に重なる巣盤を結合する支柱はさらに強度を要する。幼虫がさなぎになるときに口から絹糸を吐いて巣室をふさぎ、繭を形成するが、支柱の建設に携わる働き蜂は、さなぎが羽化した後に不用になったこの繭の絹糸をかみ砕いてほぐし、内側から削り取った外被と唾液と練り混ぜて、支柱の素材とする。
こうして次世代の新女王蜂や雄蜂が養育される時期には巣は巨大なものに成長するが、日本のような温帯では、秋の終わりになると巣外で交尾し越冬する新女王蜂を除き全てのハチが死に絶えるので、巣は空き家となる。
ただしこれは日本の場合であり、冬のない熱帯地方では1つの巣に数十匹の女王、数百万匹の働き蜂を抱える巨大な巣に成長する場合もある。長年、学者の間でもスズメバチは単雌で巣を作ると信じられていたが、1980年代の松浦誠などの研究により、多雌の巣があることが明らかになった[4]:126[13]:183。非常に稀な例であるが、温帯でもキイロスズメバチの2匹の雌によるコロニーが見つかることがある[13]:182。
注釈
出典
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- ^ 凶暴なオオスズメバチを虫網で捕まえてはちみつ漬をつくる! ただし、「虫網での捕獲は危険」との注意書きがある。
- ^ スズメバチも蜂蜜をつくる?
- ^ スズメバチ酒製造法
- ^ 生きたスズメバチで作った焼酎を飲んでみた→塩っぽい味がした→「その毒成分です」
- ^ “串原にへぼミュージアム 恵那農高生が整備”. 岐阜新聞Web. 岐阜新聞社 (2017年11月2日). 2017年11月7日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2017年11月2日閲覧。
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