スズムシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/01 18:45 UTC 版)
飼育
飼育は非常に容易で、キュウリやナスを主な餌とし鰹節など動物質(タンパク質)の餌を与えると、共食いも防げる。ジャンプ力はあるが、ガラスやプラスティックは上らないため、ある程度の高さがあればガラス水槽やプラケースなどで飼育できる。赤玉土などを敷いて湿度を保っておくと雌雄がいれば容易に産卵する。翌年まで湿度を保っていると、5月下旬から6月上旬ぐらいに数週間かけて孵化する。地域の気温、飼育場所の温度差により差異もあるが、何回か脱皮をすると早い個体では7月下旬ごろ成虫になる。鳴く虫は秋のイメージがあるが、本種含め本来は比較的暑い時期から鳴き始める。最近ホームセンター等で晩春から初夏にかけて売られている成虫個体は温度管理により羽化を早められたものである。
上記の通り、キュウリやナスはもちろん、カボチャやサツマイモに至るまで食べる。自然界においてはススキやクズの群生地で野生個体を多く見かけられることから、食草は比較的幅広いと推測出来る。
現在では簡単に養殖物が手に入るが、野生のものも全国に分布している。養殖物から逃げたものも多数存在するものと考えられ、遺伝子汚染が進んでいる可能性は否定できない。ただし羽化してまもない新成虫個体は後翅も存在する。またメス個体の場合も腹部の卵巣が未成熟な時期には、産卵時期に比べ体重が軽い。そのため、晩夏から初秋にかけて飛翔していることが確認できる。水銀灯や時には家屋の明かりに来ることもある。このことから近親交配を避け各地の生息域に分散している可能性もある。
スズムシの文化
鳴き声
虫を聴く文化は日本や中国大陸などで継承されてきた文化である[5]。欧米人は虫の鳴き声を雑音として聞くか、鳴いていることすら気付かない場合が多いとされ、その要因は人種的な違いではなく幼少期の話し言葉の環境によるとする説がある[5]。医学者の角田忠信によると、人間は一般には左脳が言語、右脳が言語以外の雑音の処理を行っているが、9歳までの時期を日本語で育つと母音の音の物理的構造に似た人の感情音や自然界のさまざまな音を左脳で処理するようになり、日本人は例外的に虫の声をはじめ自然界の音を言葉と同様に左脳で聞いているとする研究を発表している[6][5]。また、小泉八雲は、虫を愛するのは日本人とギリシャ人のみだと述べている[7]。ただし、虫を聴く文化は中国などでもみられ、ヨーロッパなどにも、虫の鳴き声を歌になぞらえた詩や歌がある[7][8]ことから、それだけですべてを説明するのは無理で、自然環境や四季の変化がその要因になっているともいわれている[5]。
鳴き声が細かく鈴を振るようだというので鈴虫と言うが、かつてはこれを松林をわたる風と聞いたらしい。逆にマツムシの「チンチロリン」という鳴き声を鈴の音と聞いていたようである。
他の鳴く虫にも言えることだが、周波数が高すぎるために一部の録音機材では録音できず、電話(携帯電話含む)では鳴き声を伝えられない。
文部省唱歌の「蟲のこゑ」では、「あれマツムシが鳴いているチンチロ チンチロ チンチロリン」に対して「あれスズムシも鳴きだした リンリン リンリン リーンリン」とあるように、標準的な聞きなしとしては「リーン、リーン」などである。
鑑賞
日本
古くから鳴き声を楽しむ対象とされ、平安時代から貴族階級では籠に入れ楽しまれていたが、江戸時代中期より虫売りの手で人工飼育が始まり、盛んに販売されている[5][9]。
虫売りの繁盛は昭和になっても続き、虫売りの行商は夏の風物詩となっていた[5]。しかし、やがて第二次世界大戦の戦災で虫の問屋が全滅[5]。生活の安定と向上で、虫売りは回復していくが、売り場はデパートやペットショップに移り、高度成長期を境にペットショップで扱われる昆虫類の主役も鳴く虫からカブトムシやクワガタムシへと置き換わった[5]。
日本では竹籠に入れて鳴き声を鑑賞するのが一般的である[5]。
日本にはスズムシを「自治体の虫」とする日本の地方公共団体がある。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d 福井の生き物情報 スズムシ 福井県、2017年2月6日閲覧。
- ^ 【足立区生物園】スズムシ
- ^ a b 平成25年9月リポート 磐田市、2017年2月6日閲覧。
- ^ 県天然記念物「スズムシ群棲地」 鳴き声消え、指定解除へ 北限の五城目、環境失われ /秋田 | 毎日新聞
- ^ a b c d e f g h i 「虫を聴く文化」梅谷献二 農林水産・食品産業技術振興協会、2017年2月6日閲覧。
- ^ 角田忠信 (1984年6月). “言語脳と音楽脳”. 機関誌36号. 一般社団法人日本音響家協会. 2019年6月30日閲覧。
- ^ a b 柏田雄三 (2017年1月31日). “エッセイ 楽しい“虫音楽”の世界(その18 鳴く虫を愛でるのは日本人だけ?) (PDF)”. 植物防疫 第71巻 第2号. 日本植物防疫協会. 2019年6月30日閲覧。
- ^ “日本人にとって虫の音は貴族の風流な遊びだった”. ウェザーニュース (2018年10月24日). 2019年6月30日閲覧。
- ^ 東京年中行事第1巻(若月紫蘭著 平凡社)
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