スクラムジェットエンジン スクラムジェットエンジンの概要

スクラムジェットエンジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/10 21:59 UTC 版)

スクラムジェットエンジンの構造

概要

超音速燃焼(Supersonic combustion)を行うラムジェットエンジンである。動圧で圧縮が行われる点から、広義のラムジェットエンジンに含まれる。内燃機関ジェットエンジン含む)は、吸入した空気を圧縮して加熱し燃料燃焼させる事により、エンジンを駆動する出力を得る。ラムジェットエンジンの場合は、エンジンのインレット部において、高速航行に伴うラム圧により吸入空気の圧縮を行うため、動作域は超音速領域に限られ、マッハ3から5の間が最も効率が良いとされる。ラムジェットエンジンでは、吸入空気を亜音速まで減速させた後に燃焼させ出力を得ている。しかしマッハ5を超える速度で飛行する際、吸入した空気を亜音速まで減速させると現実的には全圧損失が大きくなりすぎるため、超音速状態を維持する必要が出てくる。そこで、インテークから吸入された超音速の空気を超音速のまま燃焼させるのがスクラムジェットエンジンである。吸入から燃焼、排気まで作動流体が音速以下に減速されることがないため、マッハ5から理論値の上限であるマッハ15までの広いマッハ数域で高いエンジン効率が維持されることが期待されている。圧縮機タービンなどといった圧縮機を使用せず圧縮工程を実現する簡易な構造である。

ラムジェットエンジンと同様、静止状態では作動しないため、作動し始める速度まではロケットエンジンや他のジェットエンジンなど、別の動力により加速する必要がある。ただ、燃料に加えて酸化剤も搭載・消費するロケットに比べ、スクラムジェットは取り込んだ大気中の酸素を酸化剤として使用するため、ロケットを大きく上回る比推力を持ち、効率の面において優れている。

超音速気流内で燃焼を維持させなければならないため技術的難易度は高く、エンジン内で燃焼が完了しなかったり通常の燃焼とは違う意図しない化学反応が起こるなど技術的要求は高い。また、スクラムジェットエンジンの研究には高温衝撃風洞が一般に用いられるが、この設備で得られる試験時間は数十ミリ秒に過ぎない。真空槽を用いた極超音速風洞であれば数十秒オーダーの燃焼実験が可能だが、大規模な施設であり実験コストが非常に高いなど、実験における課題は多い。さらに実際には、高エンタルピー流を作り出すために必要なガス加熱により試験流の組成が空気から大きく変化し、燃焼反応や流体の挙動が実際のものと大きく異なってしまうため、実験による飛行状況の再現は大変困難である。

燃料には水素が用いられることが多い(ほとんどのジェットエンジンではケロシンを使う)。理由としては燃焼速度の速さに加え、ケロシンなどの炭化水素系燃料は温度が高くなると粘性が変化するため供給に難があるのに対し、液体水素であればそのようなことはないためである。さらには、燃焼前の低温液体水素を壁面内に循環させることで高温壁面の冷却も可能なメリットがある。ただし液体水素の保持には高コストな冷却システムを機体に搭載しなければならない。反応速度を速めるために点火機自体も特殊なプラズマトーチを用いることが研究されている。

このほか、燃焼および大気内を高速航行するために発生する高熱の問題がある。エンジン内は2,600K[1](2,326.85)にも達する可能性があり、新型の耐熱素材や効率的な冷却法の考案・開発が必要である。

飛行試験

再使用型宇宙往還機の大気圏内航行用エンジンとしての利用が考えられている。NASAX-15の頃には、すでにスクラムジェットエンジン向けの素材研究実験が開始されていた。

実試験機としては、X-43A実験機がスクラムジェットエンジンを装備している。NB-52Bより投下された後、空中発射ロケットであるペガサスによってマッハ4.5まで加速され、ロケットとの分離後、X-43Aに搭載されたスクラムジェットエンジンを10秒間作動させる。2004年11月16日にはマッハ10に迫る、マッハ9.68というジェットエンジンによる飛行の速度記録を打ち立てた。

2013年9月19日に、オーストラリアクイーンズランド大学が2段ロケットの上にスクラムジェットを装備したScramspace-1英語版を載せて打ち上げたが、ロケットが実験開始に必要な高度340kmにまで到達することが出来ず、実験は失敗した。スクラムジェットに点火すればマッハ8まで加速する計画だった[2]

日本でも研究が行なわれている[3][4]




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