ジェイコム株大量誤発注事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/30 03:29 UTC 版)
当事者の事後処理
誤発注に乗じて他の証券会社が多大な利益を上げたことについて、自由民主党などから批判の声が上がり、利益を自主的に返還する動きが出た。一方でみずほ証券は、システムの欠陥によって損失を強いられたとして、東京証券取引所を相手に損害賠償を請求した。
証券会社の利益返還
発注ミスによる損害としてはあまりに巨額であり、また他社の錯誤・過失につけこむことが「火事場泥棒的な行い」との批判が自由民主党などから起こった。当時の金融担当大臣の与謝野馨は「誤発注を認識しながら買い注文を出すことは法的には問題はない」とした上で「顧客の注文を取り次ぐのではなく、自己売買部門で間隙をぬって売買するのは証券会社として美しい話ではないと思う」と述べた。
それらの発言を受けるような形で、東京証券取引所などの関係機関は、この事件で利益を得た証券会社に対し、自主的な利益の返還を提案した。
2005年12月14日にUBS、日興コーディアルグループ、モルガン・スタンレー・ジャパン、リーマン・ブラザーズ証券グループ、クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券、野村證券の6社が利益返還に応じる構えをみせ、その他の中堅証券会社も追随する動きを見せた。
翌2006年2月になって、返還方法については、直接みずほ証券に対して返還するのではなく(贈与となるため)、「株式市場安定のための基金創設」や「公的団体への寄付」に利益を充てる方向で調整されるようになった。一方で、その後に態度を保留する証券会社も出てきた。
日本証券業協会は2006年2月14日、「証券市場基盤整備基金」に対し、会員企業50社から計209億2355万円の拠出があったことを公表した[3]。
過怠金
2006年3月22日、東京証券取引所はみずほ証券に対して、1000万円の過怠金を科すと発表した。発注業務の管理に問題があった他、過去に「誤発注発生のリスク」を指摘していたにもかかわらず、みずほ側が適切な処置を取らなかった信義則違反に当たると判断したためである。
損害賠償請求訴訟
みずほ証券は、システムが正しく動作して取り消し手続きが受け入れられれば、損失は5億円前後で済んだはずであるとして、システムの欠陥を理由に膨らんだ損失404億円を損害賠償をするよう東京証券取引所側に求めていたが、東京証券取引所は賠償に応じる義務はないとして拒否した。その後、東京証券取引所に催告書を送付し、この中で2006年9月15日を期限として404億円を支払うように求めるものの、東京証券取引所側は応じなかった。そのため、みずほは2006年10月27日、訴訟費用を含む414億円の賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した。
2009年12月4日、東京地裁は東京証券取引所に約107億円の支払いを命じる判決を言い渡した。判決では「売買停止措置を取らなかったこと」についての東京証券取引所の注意義務違反を指摘し、東京証券取引所の過失を認定した[4]。一方で「初歩的入力ミス」や「発注管理体制不備」などのみずほ側の過失も指摘し、東京証券取引所とみずほの過失割合を7対3と認定した[5]。
同月14日、東京証券取引所は地裁判決を受け入れ、控訴しない方針を発表した。控訴断念の理由について「重要な論点で主張が認められた。過去の問題に時間を浪費するより経済回復に全力を尽くすことが最良」と述べた[6]。
12月18日、みずほ証券は地裁判決を不服として東京高等裁判所に控訴した。地裁判決では「東京証券取引所のシステム不備により、損失が拡大した」というみずほ側の主張は退けられており、賠償額もみずほが要求する4分の1程度に過ぎないため、これらの点を改めて高裁で争う[7]。
これに対し東京証券取引所は同日、「証券市場の活性化を優先して早期解決を訴えていたので大変残念」とのコメントを発表した[8]。なお、東京証券取引所はまだ判決が確定していない同日までに、地裁判決で命じられた約107億円に係争中の金利分を含めた計約132億円を、みずほ証券に支払っている(判決文で示された、年5%の金利負担増加を避けるため)[9]。
12月22日、東京証券取引所の斉藤惇社長は定例記者会見の中で、みずほ証券が東京高等裁判所へ控訴したことを受け、対抗措置として東京証券取引所としても控訴する方針を表明した(附帯控訴)。社長は会見の中で「自分たちで(発注の)間違いを起こしておいて、誰かのせいにして『お金を寄こせ』という話。世界中で聞いたことがない」と述べ、控訴に踏み切ったみずほ証券の姿勢を非難した[10]。
東京証券取引所は、翌2010年1月28日に発表した2009年10-12月四半期決算で、損害賠償金132億1300万円を特別損失として計上した[11]。
2013年7月24日、東京高等裁判所は一審支持の判決を下した[12]。同年8月7日、東京証券取引所、みずほ証券両者が最高裁判所に上告した[13] [14]。
2015年9月3日、最高裁判所は両者の上告を退ける判決を言い渡した。これにより、東京証券取引所はみずほ証券に対して、損害賠償金約107億円の支払いを命じた東京高等裁判所判決が確定判決となった[15][16]。
- ^ この際、東証などで見られる特別気配(特買い・特売り)による売買の一時停止措置は機能せず、途中に示された買い注文を約定しながら数十秒でストップ安にいたる。
- ^ 株式会社日本証券クリアリング機構による「ジェイコム株式に係る決済条件の改定について」の発表
- ^ https://www.fsa.go.jp/singi/mdth_kon/siryou/20060316/01_5.pdf
- ^ 株誤発注訴訟:法廷闘争、長期化か…みずほ証券控訴(毎日新聞、2009年12月18日)
- ^ みずほ証券の株誤発注裁判、東証に107億円の賠償命令、過失は7割(ITpro、2009年12月4日)
- ^ 大和田尚孝 (2009年12月14日). “みずほ証券の株誤発注裁判、東証は控訴せず”. 日経コンピュータ. 2020年7月15日閲覧。
- ^ みずほ証券誤発注:損賠訴訟 みずほ証券が控訴(毎日新聞、2009年12月19日)
- ^ 誤発注訴訟、長期化へ みずほ証券が控訴(日本経済新聞、2009年12月18日)
- ^ 東証、みずほ証券に賠償金支払い 誤発注問題で132億円(日本経済新聞、2009年12月20日)
- ^ みずほ控訴に「こちらも控訴」東証社長(産経新聞、2009年12月22日)
- ^ 「新システムarrowheadは今日時点で100点の出来」東証斉藤社長が会見(ITpro、2010年1月28日)
- ^ みずほ証-東証誤発注裁判、高裁がIT企業の責任に言及(ITpro、2013年8月6日)
- ^ 上告の提起及び上告受理申立てに関するお知らせ(東証、2013年8月7日)
- ^ 東京証券取引所に対する損害賠償請求訴訟の上告のお知らせ(みずほ証券、2013年8月7日)
- ^ 東証への賠償命令確定=107億円、株誤発注訴訟-最高裁(時事ドットコム、2015年9月4日)
- ^ 浅川 直輝 (2015年9月14日). “みずほ証-東証の誤発注裁判、10年経て終結、問われ続ける「責任の所在」”. 日経コンピュータ (日経BP) 2017年11月14日閲覧。
- ^ 日本の長者番付に「無職」が登場すること自体は珍しいことではない。[1]
- ^ 億超えトレーダーが絶対に教えたくない アベノミクス株投資の法則. 扶桑社. (2013). ISBN 978-4594608521
固有名詞の分類
- ジェイコム株大量誤発注事件のページへのリンク