シリア内戦 背景

シリア内戦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/03 16:28 UTC 版)

背景

歴史

ハーフィズ・アル=アサド前シリア大統領(右)と弟のリファアト・アル=アサド(左)

シリアはイスラエルと戦争状態にあった1962年に非常事態宣言を出してより非常事態法の下にあり、憲法による国民の保護は事実上停止されていた。シリア国民は住民投票によって選ばれた大統領に好意的であり、シリア議会は複数政党制を採っていない[58]

1963年のクーデター以来、シリアはバアス党の支配下にある[59]1966年のクーデター1970年の革命などで支配構造を変化させつつ、バアス党は独占的権力を保持した[60][61][62]

1970年の革命以後、ハーフィズ・アル=アサド(H.アサド)は、ライバルを抑えながら30年近くシリアを指導してきた。1982年、国内で起きた6年間に及ぶイスラム暴動の最盛期において、ムスリム同胞団等を含むスンナ派イスラム主義運動を鎮圧するため、大統領H.アサドはハマーで焦土作戦を指揮した[63]。このハマー虐殺において、10-80,000名の一般市民を含む数万の人々が殺害されたとされている[62][64][65][66][67][68]

H.アサドの後継者問題は、1998年人民議会選挙後の暴力的な抗議行動と武力衝突を引き起こし、ラタキア事件(en:1999 Latakia protests)に発展した[69]。この事件はH.アサドと彼の弟リファアト・アル=アサド(en:Rifaat al-Assad)との間の積年の確執が暴発したものであった[69]。シリア警察はラタキアにあるリファートの港湾施設の取り締まりを行い、この際に警察とリファアト支持者らとの銃撃戦があり2名が殺害された。政府側は否定しているものの、この事件の死傷者は数百人にのぼったとも言われる[70]。ハーフィズ・アル=アサドは肺線維症のため1年後に死去した。H.アサドの息子であるバッシャール・アル=アサド(B.アサド)は、大統領となりうる年齢の規定が40歳から彼の年齢である34歳に引き下げるよう憲法を修正した後に指名され、後継者となった[60][61][62]。B.アサドはフランス語英語を話し、イギリス出身でスンナ派シリア人女性アスマー・アフラースと結婚し、改革派として期待され、2000年1月からダマスカスの春(en:Damascus Spring)と呼ばれる激しい政治的、社会的論争が引き起こされた。

2004年以来、クルド-アラブ暴動により緊張が高まっていた。この年はシリア北東部のカーミシュリーで反政府暴動カーミシュリー事件が起きた。混乱したサッカー試合で人々がクルドの旗を掲げ、試合はやがて政治的な衝突に発展した。シリア警察の暴力的な対応やクルド人とアラブ人によるグループ間の衝突により、少なくとも30名が殺害された(一説によると、死傷者は約100名[71]。)[72]。クルド人活動家と政府組織との小規模な衝突はそれ以降も続いた。

アサド家(en:Assad family)は、シーア派でも少数派でシリア人口(en:Demographics of Syria)の6-12パーセントを占める貧困なアラウィー派の一員であり[73][74][75][76]、シリア治安機関の「厳格な統制」によって維持されており、シリア人口の4分の3を占める[77]スンナ派の中に「深い敵意」が生じていた[75]。同じく少数派であるクルド人からも抗議や不満の声が上がっていた[78]。B.アサドは、彼の地位がエジプトで起きた大規模抗議運動のようなものに影響されないと表明した[79]。大統領顧問ブサイナ・シャアバーン(en:Bouthaina Shaaban)は、カタールを拠点とするユースフ・カラダーウィーが3月25日にドーハで行った演説などを挙げ、スンナ派暴動を煽ったとしてスンナ派イスラム法学者や説教師を非難した[80]ニューヨーク・タイムズによれば、シリア政府は暴動の鎮圧において「ほぼ全面的に」アラウィー派治安機関に信頼をおいてきた。彼の弟マーヘル・アル=アサド共和国防衛隊と陸軍第4機甲師団を指揮し、義兄のアースィフ・シャウカトは陸軍参謀副長を務めていた。彼の家族は、抗議に対して強硬路線を採ることができなければそれを増長し、街頭がより大きな群衆であふれることを恐れているといわれた[75]

社会経済

政府への不満は、主に保守的なスンナ派が多いシリアの貧しい地域で強かった[81]。こうした地域には、ダルアーホムスといった貧困率が高い都市、2011年前半に激しい旱魃に見舞われた農村地帯、それに大都市の貧困地区が含まれていた。社会経済の不均衡は特にH.アサド政権の末期に進められた自由市場の導入以後大きく拡大しており、B.アサド政権になってからはさらに悪化していた。自由市場の恩恵を受けられたのは国内の限られた人々、主に政府とコネクションを持つダマスカスアレッポのスンナ派商人層に限られていた[81]。2011年、シリアは全国的な生活水準の悪化と生活必需品の値上がりに直面した[82]。さらに若者の高い失業率にも見舞われていた[83]

社会経済については、気候変動の影響も可能性として上げられている。シリアでは2006年 - 2010年の3年間に深刻な旱魃が発生し、150万人(人口の1割弱)の農民が都市部に移住、急速な人口変化により地域の不安定化を招いていた[84]。シミュレーションや観測結果をもとにした研究では、気候変動により旱魃の発生率が高まっていたことが示唆されている[85]

人権

シリアの人権(en:Human rights in Syria)は、国際機関からの激しい非難にさらされた[86]。1963年以来、非常事態宣言の効力が続いており、保安部隊には逮捕・拘留の権限が与えられ[87]、シリアは自由選挙のない一党独裁状態によって支配されていた[87]。当局は、人権活動家や政府批評家を苦しめたり投獄していた[88]。表現、結社、集会の権利は厳格に制限された[87][88]。女性や少数派民族は差別に直面している[87][88]。2010年のヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、B.アサドは権力を握って以来の10年間で、シリアの人権状況の改善に失敗した[89]。この人権団体は、シリアの人権状況が世界で最悪の部類に属すると言明している。

5月5日のBBCニュースは、非武装の一般市民に対して狙撃手や対空機関銃が使われているとのダマスカス人権研究所(DCHRS)の表明を報じた[90]

シャッビーハ

シャッビーハアラビア語: الشبيحة‎、英語: Shabiha)とは、アル=アサド家に資金提供を受けた3000人以上の構成員からなる暴力団である。この呼称は幽霊Shabah, شبح)を意味し、かつてアル=アサド家やその縁者が使っていたメルセデス・ベンツの車に由来する。彼らは、政府への批判者(非武装者を含む)にあらゆることを行う権限を持っていた[91]。新聞やメディアニュースチャンネルによれば、シャッビーハの構成員はアサドの傭兵であるとも言われる[92]

シャッビーハが人権を守らないことについては、地元の新聞やチャンネルだけでなく国際メディアからも非難されており、特にFacebookYouTubeなどのソーシャルメディアを通じて数百もの映像がアップロードされている[93]

重信メイはその著書『アラブの春の正体』で、Wikipediaのシャッビーハについての記述はデマを真に受けたものであると批判している。この言葉は「幽霊」とは全く無関係であり、アル=アサド家からの資金提供を受けている証拠もないとしている。さらに動画についてはCNNがシャッビーハが暴行を行なっているとして流したものが誤報であった例を挙げ、その多くは検証が必要であるとしている。

2011年(アラブの春)

B.アサドは、ラジオ局が西洋のポップ・ミュージックをかけることを容認する一方で、Amazon.com、Facebook、ウィキペディア、YouTubeのようなウェブサイトへの接続を制限していたが、2011年1月1日以降は全ての国民がブロードバンドインターネット接続を許され、これらのウェブサイトに接続できるようになった[94]。しかしながら、2007年の法律によってインターネットカフェオンラインチャットにおける全ての投稿を記録することが義務付けられた[95]

2011年1月31日に発表されたインタビューにおいて、B.アサドは改革の時が来たことを宣言するとともに、2011年のエジプト革命チュニジア革命イエメン騒乱の抗議運動は中東に「新しい時代」(アラブの春)が到来したことを意味し、アラブの支配者たちは人々の間に高まる政治的、経済的要求を受け入れるためにさらなる行動が求められるとした[96][97]


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