サンタクロース サンタクロースの概要

サンタクロース

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 08:38 UTC 版)

サンタクロース

由来

『ミラの聖ニコライ、無実の三人を死刑から救う』(画:イリヤ・レーピン主教の祭服を身につけた姿で描かれている)

サンタクロースのモデルはシンタクラースである。そのシンタクラースのモデルは「ミラのニコラオス」ではないかと言われている。

シンタクラース

4世紀頃の東ローマ帝国小アジアミラ司教主教)、教父聖ニコラオス(ニコラウス)の伝説が起源である。「ニコラオス」の名はギリシア語表記。ラテン語ではニコラウスイタリア語スペイン語フランス語ではサン・ニコライタリア語ではニコラオとも。ロシア語ではニコライ

以下のような伝説のほか、右に挙げる絵画のように無実の罪に問われた死刑囚を救った聖伝も伝えられている。

「ある時ニコラウスは、貧しさのあまり三人の娘を身売りしなければならなくなる家族の存在を知った。ニコラウスは真夜中にその家を訪れ、窓から金貨を投げ入れた。このとき暖炉には靴下が下げられていており、金貨はその靴下の中に入ったという。この金貨のおかげで家族は娘の身売りを避けられた」という逸話が残されている。この逸話が由来となり、「夜中に家に入って、靴下の中にプレゼントを入れる」という[4]、今日におけるサンタクロースの伝承が生まれている。また、ニコラウスの遺骸イタリア南部の都市であるバーリに移されたとも言われている。(諸説あり)

煙突から入ることになったのは1822年にアメリカの学者クレメント・クラーク・ムーア英語版フィンランドの言い伝えを伝承した「聖ニクラウスの訪(おとな)い」(英語)という詩「キラ星のなか、屋根から降るのは/小さい蹄の立てる爪音/引っこめ振り向いて見ると/聖なるニコラウス煙突からどすん」を書いたからと考えられる[5]

また、ニコラオスは学問の守護聖人として崇められており、アリウス異端と戦った偉大な教父でもあった。教会では聖人として列聖されているため、「聖(セント)ニコラオス」という呼称が使われる。これをオランダ語にすると「シンタクラース」である。オランダでは14世紀頃から聖ニコラウスの命日の12月6日を「シンタクラース祭」として祝う慣習があった。その後、17世紀アメリカに植民したオランダ人が「サンタクロース」と伝え、サンタクロースの語源になったようだ。

正教会系の国では、サンタクロースは厳密に「奇蹟者」の称号をもつ聖人たる聖ニコラオス(聖ニコライ)であり、聖ニコラオスの祭日は12月6日である(聖名祝日の項目を参照)。子供たちがこの日に枕元に靴下を吊るしておくと、翌朝に入っているのはお菓子である。尚、クリスマスである12月25日聖体礼儀に行く日で、プレゼントはない。

ユリウス暦を採用している正教会(エルサレム総主教庁ロシア正教会など)の聖ニコラオスの祭日は12月19日であり、主の降誕祭(クリスマス)は、現行の暦に換算すると1月7日である(2008年現在、ユリウス暦とグレゴリオ暦の間には13日の差があるため)。ロシアでは1月7日にジェド・マロースДед мороз, マロース爺さん:マロースとはロシア語で「吹雪」「寒波」という意味)と孫のスネグーラチカСнегурочка, 雪娘)がプレゼントを運んでくる。

なおニコラオスは、商人の守護聖人でもある[6]

サンタクロース

「どうしてサンタクロースは空を飛べるのか?」という問いについて、ニコラオスが風の制御を行うことができるという伝説とサンタクロースの空飛ぶ乗り物に関する考察から、「サンタクロースは、西ヨーロッパの神話の中にその深遠なルーツを持っている。そのルーツは幾分か忘れ去られてはいるが、その痕跡は我々の想像世界(イマジネール)の分枝の中に生き長らえているのである」(ニコラ・シュナデル)とする論考がある[7]

特徴

ドイツの聖ニコラウス(右)。左の茶色の服は悪い子を懲らしめるクネヒト・ループレヒト

常に笑顔の、白のトリミングのある赤い服・赤いナイトキャップ姿で白ヒゲを生やした太りぎみの老人の男。白い大きな袋にクリスマスプレゼントを入れて肩に担いでいる。19世紀の初出では一頭立てのトナカイそりを引く姿が描かれていたが、やがて八頭立てとなり、家々の子供たちが寝ている間にプレゼントを配る現在のイメージに至っている。

欧米諸国などのサンタは「Ho Ho Ho」(ふぉっ、ほっほっ)と特徴的な笑い声をあげる事がある。伝統文化として定着している面もあり、カナダではサンタクロース宛専用の郵便番号H0H0H0」がある(同国の郵便番号の書式は"A1B2C3"のようなアルファベットと数字の組み合わせであり、アルファベットの"O"(オー)の代わりに数字の"0"(ゼロ)を使用している)。

ドイツの古い伝承では、サンタは双子で、一人は紅白の衣装を着て良い子にプレゼントを配り、もう一人は黒と茶色の衣装を着て悪い子にお仕置きをする(クネヒト・ループレヒトを参照)。容姿・役割共に日本のなまはげに似ており、民俗学的にも年の瀬に来訪する年神としての役割の類似が指摘される。現在、ドイツでは聖ニコラウスは「シャープ」と「クランプス」と呼ばれる二人の怪人を連れて街を練り歩き、良い子にはプレゼントをくれるが、悪い子にはクランプス共に命じてお仕置きをさせる。

スペインイタリアポーランドメキシコでは、顕現節という祝祭があり、伝統的にはこの日(1月6日)に子供たちはプレゼントをもらう。イタリアでは良い子にはプレゼントやお菓子、悪い子には炭を配って歩く魔女ベファーナの伝承がある。ハイチではトントン・ノエル(サンタクロース)と一緒にトントン・マクート(麻袋おじさん)が回り、悪い子はトントン・マクートが袋に入れてさらってゆくとされる。

ロシアのジェド・マロースは青い服を着ている。

アイスランドでは、サンタクロースに相当する妖精として13人のユールラッズがいる。「スプーンを舐めるサンタ」など13人に明確なキャラ付け、名前などの設定が決められているほか、母(グリーラ)、父(レッパルージ)、そしてペットのユール・キャットなどもいる。エーシャ山に五千年住んでおり、12月12日から毎日ひとりずつおりてきて、良い子にはお菓子、悪い子には生のジャガイモを靴のなかにいれていく。24日に勢揃いし、25日からひとりずつ山に戻る、という。[8][9]

年表

1881年にトーマス・ナストによって描かれたサンタクロース。ナストはクレメント・クラーク・ムーアの詩と共に、現代に通じるサンタクロースのイメージを生みだした。
  • 1821年、『子供たちのお友達 (The children's friend)』(作者不詳)という絵本が出版され、この絵本の中で1頭のトナカイが引くソリに乗ったサンタクロース (santeclause) の姿が描かれた[10]
  • 1822年、ニューヨークの神学者クレメント・クラーク・ムーア(コロンビア大学教授)が病身の子供のために作ったと言われる詩「聖ニコラウスの訪問」の中で、8頭のトナカイに引かれたソリに乗るサンタクロースの姿が表現された[11]。ただし、この年代ならびに作者については異説がある。次項目参照。
  • 1823年、米国トロイの新聞「トロイ・センティネル」に「聖ニコラスの訪問(クリスマスのまえのばん)」という詩が神学者クレメント・クラーク・ムーアの友人の手によって、作者名を明らかにしない形で掲載された。これは長らくクレメント・クラーク・ムーア教授 (Clement C. Moore) によるものであると紹介されてきた。一方、2000年のニューヨーク・タイムスの報道により、ヘンリー・リヴィングストン・ジュニアが本当の作者ではないか、という説が提示された[12]
  • 1849年、米国コロンビア大学のクレメント・クラーク・ムーア教授名義で「クリスマスの前の晩」が出版され、その挿絵として赤い服を着たサンタクロース、がテオドア・C・ボイドによって描かれた。
  • 1862年、週刊誌「ハーパーズ・ウィークリー」においてトーマス・ナストが「丸々太ってニコニコ顔」のサンタクロースを描いた。
  • 1874年、日本では築地居留地にあった学校で開催されたクリスマス会にて、戸田忠厚扮する殿様姿のサンタクロースが登場した[13][14][15]
  • 1886年、トーマス・ナストはサンタクロースが北極で暮らしている姿を詳細に描いた。
  • 1900年、一説によると、この年発行された子供向け教材の道徳教育の教科書により、日本の物語に初めてサンタクロースが登場。ただし名前は「北國の老爺 三太九郎」とされていた。小説の表紙には、アジア人っぽい顔で頭にはフードをかぶり革のバッグを掛け、手にはツリーを持ちロバがプレゼントを運んでいる。寒い北国に住む貧しい少年が、迷子の旅人を助け、病気の父の看病に精を出し、三太九郎サンタクロースからたくさんの贈り物をもらうというストーリーであった。既に1888年からクリスマスカードなどが輸入され始めたことをきっかけに一般の人にも広まり、この物語発行から数年後頃には年中行事として定着していたという[16]
『子供之友』1914年12月号
  • 1914年、この頃から日本の子供雑誌『子供之友』を中心に、赤い帽子に赤い服を着て太いベルトを腰に巻いた、現代と同じイメージのサンタクロースが盛んに描かれるようになった。
  • 1920年代、トーマス・ナストが描いたイメージのサンタクロースが、著名な画家ノーマン・ロックウェルに受け継がれた。
  • 1923年東京日日新聞は、「Xマス近づく」との見出しの記事において「坊ちゃん嬢ちゃんに歓迎されるクリスマス・プレゼントは、年々盛んになるばかりだ」と報じた。同記事の中で、人気のクリスマスプレゼントの一つとして「サンタクロース人形」が取り上げられた。
  • 1926年大正天皇が12月25日に崩御。休日となる先帝祭が翌1927年より12月25日に移行されて大正天皇祭となった(~1947年)。これが日本でのサンタクロース普及に大きな役割を果たしたとされる[17]
  • 1927年、「民族断篇」という著作に、「どんな子供でもサンタクロースが白い羊毛の縁を取った赤い衣を着て、大きな袋を背負ってトナカイの橇に乗ってやってきて、煙突から室内に入ってよい子に玩具や何かをくれてゆくことは知っている」と記載された。
  • 1928年朝日新聞で「サンタクロースは立派に日本の子供のものに」との記事が掲載された[17]

注釈

  1. ^ 英語発音: [ˈsæntə klɔːz]

出典

  1. ^ "サンタクロース". 小学館「デジタル大辞泉」. コトバンクより2021年12月23日閲覧
  2. ^ "サンタクロース". 小学館「精選版 日本国語大辞典」. コトバンクより2021年12月23日閲覧
  3. ^ 遠藤紀勝・大塚光子『クリスマス小事典』現代教養文庫、1989年、152頁、ISBN 4-390-11317-8
  4. ^ デズモンド・モリス『クリスマス・ウォッチング』(扶桑社)「6 子どもたちはなぜクリスマスに靴下を吊るすのか?」。
  5. ^ トナカイの伝説もこれで定着した。以上の出典:デズモンド・モリス『クリスマス・ウォッチング』(扶桑社)「7 ファザー・クリスマスはなぜ煙突からやってくるのか?」
  6. ^ アト・ド・ヴリース 『イメージ・シンボル事典』
  7. ^ ニコラ・シュナデル「サンタクロースの神話的素描」(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)〔中央大学『中央評論』 No.325 2023 Autumn (75巻3号)、168-175頁、引用175頁〕
  8. ^ 『アイスランド 旅名人ブックス59』212頁。ISBN 9784861304439
  9. ^ 『アイスランド紀行 氷と火の島から』36頁。ISBN 9784779112812
  10. ^ 葛野浩昭 『サンタクロースの大旅行』80頁岩波新書 ISBN 978-4004305910
  11. ^ 『サンタクロースの大旅行』岩波新書72頁
  12. ^ Literary Sleuth Casts Doubt on the Authorship of an Iconic Christmas Poem, October 26, 2000。
  13. ^ 佐波亘植村正久と其の時代 第二巻』 教文館、1938年、505-516頁
  14. ^ 明治日本初のクリスマス、サンタクロースは殿様姿で登場した(堀井 憲一郎)|現代新書|講談社(2/4)、現代ビジネス、2016年10月2日。
  15. ^ 明治日本初のサンタクロースは殿様姿で登場した(堀井 憲一郎)|現代新書|講談社(3/4)、現代ビジネス、2016年10月2日。
  16. ^ “クリスマス いつから日本に定着した?”. 日テレNEWS24 (日本テレビ). (2016年12月21日). http://www.news24.jp/sp/articles/2016/12/21/07349671.html 2019年11月30日閲覧。 
  17. ^ a b 『クリスマス~どうやって日本に定着したか』(クラウス・クラハト、克美・タテノクラハト、1999年角川書店ISBN 4-04-883598-X
  18. ^ “サンタクロースって何者?日本唯一「公認サンタ」に聞く”. 朝日新聞. (2019年12月16日). https://www.asahi.com/articles/ASMDJ3J1ZMDJUHBI00J.html 2022年2月5日閲覧。 
  19. ^ パラダイス山元著『サンタクロース、ライフ。』
  20. ^ 【サンタ業務おつかれさまです!】「公認サンタクロース」の仕事内容って? 試験内容が意外と「過酷」って本当? | その他暮らし | ファイナンシャルフィールド”. financial-field.com. 2023年12月24日閲覧。


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