サンスクリット 連声

サンスクリット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/08 02:04 UTC 版)

連声

連声(連音sandhi)はサンスクリットの大きな特徴で、2つの形態素が並んだときに起きる音変化のことである。連音変化自体はほかの言語にも見られるものだが、サンスクリットでは変化が規則的に起きることと、変化した後の形で表記されることに特徴があり、連声の起きた後の形から元の形に戻さなければ、辞書を引くこともできない。

単語間の連声を外連声、語幹(または語根)と語尾の間の連声を内連声と言う。両者は共通する部分もあるが、違いも大きい。

外連声の例として、a語幹の名詞の単数主格の語尾である -aḥ の例をあげる。

  • 無声子音が後続するとき、硬口蓋音の前では -aś、そり舌音の前では -aṣ、歯音の前で -as に変化する。それ以外は -aḥ のまま[31]
  • 有声子音が後続するときには -o に変化する。
  • a 以外の母音が後続するときには -a に変化する。
  • a が後続するときには、後続母音と融合して -o に変化する。

文法

名詞の区別があり、によって変化する。性は男性、女性、中性があり、数には単数、双数、複数に分かれる。格は主格呼格対格具格与格奪格属格処格の8つある。形容詞は名詞と性・数・格において一致する。代名詞は独特の活用を行う。

名詞・形容詞は語幹の末尾によって変化の仕方が異なる。とくに子音で終わる語幹は、連音による変化があるほか、語幹そのものが変化することがある。

動詞は、人称と数によって変化する。伝統的な文法では、動詞は語根dhātu)によって示され、語根から現在語幹を作る方法によって10種に分けられている。時制組織は現在・未来・不完了過去・完了・アオリストを区別するが、古典サンスクリットでは完了やアオリストは衰退しつつあった[32]には、能動態Parasmaipada)と反射態Ātmanepada, ギリシア語中動態に相当する。行為者自身のために行われることを表す)が存在するが、実際には両者の意味上の違いは必ずしも明らかでない[33]受身はこれと異なり、使役などとともに、動詞に接尾辞を付加することによって表される。

動詞のには直説法命令法希求法(願望法)、条件法、祈願法(希求法のアオリスト)がある。ヴェーダ語にはほかに接続法指令法があったが、パーニニの時代には(固定した表現を除き)失われていた[34]。条件法と祈願法も古典サンスクリットでは衰退している[35]。 サンスクリットでは不定詞、分詞、動詞的形容詞(gerundive)などの準動詞が非常に発達している[36]

サンスクリットでは複合語が異常に発達し、他の言語では従属節を使うところを、複合語によって表現する[37]

語彙

サンスクリットの語彙は非常に豊富であり、また複合語を簡単に作ることができる。多義語が多い一方、同義語・類義語も多い。

一例として数詞をIAST方式のローマ字表記で挙げる。なお、サンスクリットでは語形変化や連音によってさまざまな形をとるが、単語は語尾を除いた語幹の形であげるのが普通であり、ここでもその慣習による。

  1. eka-, エーカ
  2. dvi-, ドゥヴィ
  3. tri-, トゥリ
  4. catur-, チャトゥル
  5. pañca-, パンチャ
  6. ṣaṣ-, シャシュ
  7. sapta-, サプタ
  8. aṣṭa-, アシュタ
  9. nava-, ナヴァ
  10. daśa-, ダシャ

実際にはこれに語尾がつく。たとえば、tri- 「3」は i- 語幹であるので、(複数)男性主格形は trayaḥ になる。さらにこの語が aśva- 「馬」を修飾する場合は、連音変化によって trayo 'śvāḥ となる[38]


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