サザビー (ガンダムシリーズ)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 08:37 UTC 版)
作中の敵側勢力である新生ネオ・ジオン軍の総帥シャア・アズナブルの専用機。特殊な人間であるニュータイプ用に開発された高性能機で、歴代のガンダム作品に登場するジオン系MSの集大成とされる[1][2]。作中のMSのなかでも大柄な体躯と、シャアのパーソナルカラーである赤い機体色が特徴。背部上段に装備された2基のコンテナには、「ファンネル」と呼ばれる遠隔誘導ビーム砲台を合計6基搭載している。劇中終盤において、主人公アムロ・レイが搭乗するνガンダムと死闘を繰り広げる。
本記事では、小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』でのサザビー的位置づけにある機体「ナイチンゲール」、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』にサザビーのポジションで登場する予定だった機体「ナイチンゲール(永野護版)」、漫画『機動戦士ムーンガンダム』に登場する原型機「バルギル」とその改修機「ムーンガンダム」についても記述する。
デザイン
メカニックデザインは出渕裕が担当。永野護の降板で急遽メイン・メカニックデザイナーに就任したことで、限られた期間でデザインすることになった[3]。
シャアがそれまでに乗ってきた機体の集大成として考えられたデザインで、西洋甲冑のイメージを取り入れてまとめられている[4]。頭部や角の形は『機動戦士ガンダム』でシャアがかぶっていたヘルメットのイメージで、フェイス部分は百式の顔、そして重MSということでジ・Oの雰囲気も取り入れている[4]。胸部にコックピットがあるつもりでデザインしたが、監督の富野由悠季は頭部をコックピットにするつもりであることが絵コンテの段階で判明する[5]。その後、頭部コックピットは納得できるデザインにできたが、そのサイズから逆算すると[5]相当巨大なMSとなるにもかかわらず機体設定には反映されず、劇中でもνガンダムと同程度のサイズに描写されている[4]。爆雷型のファンネルから羽根が開くというギミックは、アニメで動いた時により面白く演出できるようにと出渕が考えたもの[4]。
企画段階の名称は「ザ・ナック」だったが、同名のテレビゲームソフトが存在したため、取りやめられた[6]。
設定解説
サザビー Sazabi | |
---|---|
型式番号 | MSN-04 |
全高 | 25.6m[7] |
頭頂高 | 23.0m[8] |
本体重量 | 30.5t[8] |
全備重量 | 71.2t[8] |
装甲材質 | ガンダリウム合金[8] |
出力 | 3,960kW[8] |
推力 | 13,300kg×2[8] 14,000kg×2[8] 9,800kg×8[8] 総推力:133,000kg [7] |
センサー 有効半径 |
22,600m[8] |
武装 | ビーム・ショット・ライフル ビーム・トマホーク ビーム・サーベル×2 ミサイル×3 ファンネル×6 メガ粒子砲 |
搭乗者 | シャア・アズナブル |
その他 | アポジモーター×28[8] |
新生ネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルの搭乗機。基礎設計はハマーン・カーン時代の旧ネオ・ジオン軍ニュータイプ研究機関が担当しているが、製造と実験用の施設が不足していたことから、旧ジオン公国と縁の深いグラナダ工場を有するアナハイム・エレクトロニクスに製造が委託される[8][2]。また、開発には数々の戦乱の中でシャアの乗機を造り上げてきたニュータイプのエンジニアであるアルレット・アルマージュも携わっている[9]。
当初はギラ・ドーガをベースとしたヤクト・ドーガの開発が進められていたが、基礎骨格であるムーバブル・フレームのサイズがサイコミュ機器を内装するのに不足していたため、試行錯誤の末に要求に適合したサイズをもつサザビーが新規に開発される。当初はMAサイズの機体となる案も存在したが、のちにその案はα・アジールに引き継がれる[2]。
内部構造の一部にはヤクト・ドーガにも採用されたサイコ・フレームを配置し、高い追従性を獲得[10]。サイコ・フレームは機体の軽量化とにも寄与し、軽量かつ高強度の新ガンダリウム系装甲の採用と相まって、各部に推進器を増設可能なほどのスペースの余裕も生まれている[1]。バックパックのスラスターは3基で初期型のリック・ドム1機分に相当する推進力を発生し、下段左右に接続された2基のプロペラント・タンクによって最大戦闘出力時間が90秒以上延長されている[2]。
四肢の完成度も高く、徒手空拳での格闘戦も想定されている。ネオ・ジオン総帥がみずから搭乗する機体であることから、脚部は余分な機能を排した耐久性重視の構造となっている[2]。コクピットは頭部に内蔵されており、脱出用の分離機能と推進用アポジモーターによって、被撃墜時の早急な戦線離脱が可能[10]。メインカメラにはモノアイが採用されているが、これはグリプス戦役時代の機体に採用されていたものに改良を加えたものである[8]。
ジェネレーターは内蔵型メガ粒子砲の稼働に対応した高出力型を採用しており、分類上は高火力型の第4世代MSに相当する[10][11]。機体色は当初よりシャアの搭乗を想定していたために赤を基調とした赤系統で塗装されている[12][注 1]。機動力や運動性を重視したνガンダムと比較した場合、サザビーは攻撃力を重視した対照的な機体である[11]。
武装
- ビーム・ショット・ライフル
- 型式番号:ALB-BSR-N4[13]
- AE社に子会社として買収されたアルバート社によって開発・試作された新機軸の火器[13]。出力は10.2メガワット[8][注 2]、装弾数は30発[13]。
- 上部バレルに集束ビーム、下部バレルに拡散ビーム(ビーム散弾)のふたつの砲口をもち[8][13]、バレル下部のフォアエンドによるポンプアクションによって射撃モードを変更する[14][13]。ビーム・ライフルの万能性と、近距離制圧力を重視したビーム・ショットガンの機能を兼備するが、その機構を持たせるために大型化してしまっている[15]。
- ビーム散弾は、ビーム帯を弾丸状の粒にして拡散発射する機構で、命中率を高めるとともに敵MSの装甲の物理構造に高エネルギーによる不均衡を生じさせて破壊する効果がある[13]。耐ビーム・コーティングを施した装甲であっても、装甲の広範囲に同時に散弾が命中するため、ビームの拡散効果を飽和させて内部機構にダメージを与えることが可能[13]。連射も可能であり[16]、近接戦闘時に威力を発揮する[8]。
- 劇中では対MS戦からミサイル迎撃まで幅広く用いられるが、νガンダムとの戦闘でビーム・サーベルで切断され投棄される[15]。なお、アニメ版『機動戦士ガンダムUC』ではアンジェロ・ザウパーのギラ・ズールが本武装の改修型を使用している。
- ビーム・トマホーク / 大型ビーム・サーベル
- 専用の接近戦用武装。通常は片刃のビーム・トマホーク[注 3]、最大出力では大型ビーム・サーベルとして使用する。また、エネルギー消費を抑えたヒート・ホークとしても使用可能[8]。ビーム・トマホークは漫画版で使用する場面があるが、ヒート・ホークは映像を含めて使用場面はない。
- 未使用時は柄を縮めた状態でシールド裏面に搭載され、スカート・アーマーに装備することも可能。宇宙世紀0090年代のビーム・サーベルの標準的な機構であるアイドリング・リミッター機能を備える。映画劇中では大型ビーム・サーベルを投げ付け、νガンダムのビーム・ライフルを破壊する。νガンダムとの鍔迫り合いではパワー負けており、焦って大きく斬り込んだシャアをかわしたνガンダムに左腕ごと切り落とされた。
- カトキハジメによるデザインリファインが行われたプラモデル『マスターグレード サザビー Ver.Ka』(2013年発売)では、左右分割して片刃のビーム・トマホーク2刀流や、それを連結してビーム・ナギナタとして使用できるようになっている。
- ビーム・サーベル
- 通常の機体の装備と同等出力の、一般的な装備。柄が短縮化された状態で前腕部(手首)ホルダーに収納されており、使用時は射出された柄をマニピュレーターでそのまま保持する[15]。斬撃の瞬間にビーム刃を発生させるアイドリング・リミッター機能を採用している[2]。ビーム・トマホークに出力で劣るぶん、使い勝手に優れている[8]。大型ビーム・サーベルとの二刀流で斬り合うも先端部をνガンダムのサーベルで切断され爆発前に破棄している。
- シールド
- 裏面にビーム・トマホークと小型ミサイル3発を装備し、表面にはネオ・ジオンの紋章があしらわれている。本体装甲と同様ガンダリウム合金が用いられており、表面には強力なコーティングが施されている[2]。劇中では遠隔操作で罠を張ったνガンダムのニュー・ハイパー・バズーカの直撃を受けて破壊され失った。
- PlayStation用ソフト機動戦士ガンダム 逆襲のシャアのオープニングムービーは地球を背景にした小惑星ないし隕石に刺さったこのシールドが陽の光を反射する場面から始まるが、ここでは多少のダメージ痕は認められる物の破壊は免れている。
- ファンネル
- ヤクト・ドーガと同型のサイコミュ誘導兵器[8]。アクティブ時の全長は約2.4mと、キュベレイ用ファンネル(約1.3m)から大幅に大型化しているものの、エネルギーCAPの性能向上もあって10.6MWものメガ粒子出力を実現。コンパクトさと性能を両立している[17]。
- 本機ではバックパック上部左右のファンネル・コンテナに各3基ずつ、計6基が収納されており、射出後にコンテナに再接続することでエネルギーとプロペラントの補充・再使用が可能となっている[2][15]。ただし、汎用MSとしての充実した武装群に比べると重要度は低く、補助武装として使い捨てることを前提に用いられた[15]。
- アクシズでの戦闘では、旗艦レウルーラからの出撃直後に5基を射出。ロンド・ベル艦隊からのミサイル群から『本命』の核ミサイルを正確に見抜き、迎撃に成功している。最後の1基はアクシズ表層においてνガンダムとの会敵時に使用される。サザビーとνガンダムの“本体”同士が激しい一騎打ちを繰り広げるのと呼応するように、フィン・ファンネル(こちらも最後の1基)とファンネル同士の射撃戦を展開。高速射撃・回避によって決着がつかぬまま、ムサカの核爆発に巻き込まれて両者バラバラになって遠方宙域へ消えていった。
- 腹部メガ粒子砲
- 腹部に装備された本機唯一の内蔵火器。腹部左右の動力パイプを介して背部のジェネレーターに直結している。出力8.8メガワット[8]。ビームを広範囲に拡散することで、一度で複数のジェガンの同時撃破やアクシズの岩石を削り取るなど大きな破壊力を見せる。ただエネルギー消費が激しいため、機体がパワーダウンすると威力は激減する[18]。劇中でも、νガンダムとの戦闘時にメガ粒子砲のビームが弱くなり、シャアが「パワーダウンだと?」と驚く描写がある。
- ロング・ライフル
- 作中未登場で、イメージボードにのみ描かれた武器。プラモデル『マスターグレード サザビー Ver.Ka』などに付属。
- ハンド・キャノン
- 作中未登場。『B-CLUB』よりガレージキットが発売されたのみで、ほぼ詳細不明。
作中での活躍
物語冒頭から最終盤までシャアの愛機として活躍。序盤ではアムロ・レイが乗るリ・ガズィを圧倒し、ロンド・ベルがアクシズを破壊するために放った核ミサイルを全弾撃墜する。
サイコフレーム技術の横流しによってほぼ互角の性能となったνガンダムとの一騎討ちでは、双方が武器を失って格闘戦となった果てにサザビーは背部からのνガンダムの攻撃に遭い、アクシズの表面に激突する。この際に脱出装置が作動し、射出されたコックピット・ブロックはトリモチランチャーを用いたνガンダムに捕らえられ、地球へ降下していくアクシズの表面に押し付けられる。そして、サザビーのコックピットとνガンダムのサイコ・フレームが共振現象を引き起こし、奇跡を起こすこととなる。
配信アニメ『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』では、アクシズの表面に擱座した姿で登場。本作では成り行きからアクシズを訪れたアルレット・アルマージュが本機から引き出したシャアのIDを用い、モビルアーマー (MA) のアハヴァ・アジールを起動させることとなる。
宇宙世紀とは異なる世界観のゲーム『バトルロボット烈伝』では、最終ボスとして2機が登場。転写された「ブランチ戦士」であるシャアのほか、ゲルスター帝国軍のエレノア=バラージュが搭乗する。両機とも敗北したあと、エレノアがみずからの命を捧げることでシャア機が強力な「H・サザビー」として復活する。ユニットのグラフィックはひと回り大きくなっており、ハイパー化が示唆されている。
注釈
- ^ フロントアーマーには本名のキャスバル・ダイクン(もしくは通り名としてのシャア・ダイクン、またはその両方)のイニシャルCDをト音記号風にアレンジしたマーキングが入っている。
- ^ 6メガワットとする資料もある[13]。
- ^ 片刃の形態を「ビーム・アックス」としている資料もあり、ガンプラ「HGUC サザビー」の説明書では武装自体の呼称を「ビーム・トマホーク」、片刃のみビームを形成した形態を「ビーム・アックス」、両刃および中央部先端にビームを形成した形態を「大型ビーム・サーベル」としている[16]。
- ^ 映画企画初期に永野護が描いた同名のMSとは、まったくの別デザイン。
- ^ ただし、別ページの末弥純による口絵カラーイラストでは映画版のサザビーのデザインがそのまま使われており、解説だけがナイチンゲールのものになっている。
- ^ 漫画版『ベルトーチカ・チルドレン』ではデザインのみ2007年に出渕によりリデザインされたHi-νガンダムが使われているが、名称は「RX-93 νガンダム」のまま変更はない。
- ^ 出渕裕がのちに描いた同名のMSは、まったくの別デザイン。
- ^ 当時、富野監督と永野が考えていたMSはすべて「ごつく怖い」デザインラインで進行していたため、映画のために永野が用意したMSはすべて恐竜や怪獣をモチーフとしており、ギラ・ドーガやヤクト・ドーガにあたるデザインとともにリック・ディアスのラインを推し進めた最終形態の超重装甲のデザインとなっていた[46]。
- ^ 画稿に「"ZAC" NAITIENGEAILE」と記載され、「『死を運ぶ鳥』という意味の名が付けられた」と説明文に書かれている。また機体のイメージを表したのか、恐竜の「ステゴサウルス」という書き込みも見られる。
- ^ アゴスは機体の不具合であると主張するが、仲間からは「半人前」などと非難を浴び、以降もからかわれる原因となる。
- ^ 損傷した頭部の不気味さにより、作中ではユッタから「悪霊を乗せた顔なしの巨人」と誤認される[58]。
- ^ 「ジオン系の胴体にガンダムの頭が乗っていて、背中に月を背負っている」というコンセプトは福井晴敏の提案によるもので、そこにデザイナーの形部一平が「満月状のファンネル集合体が偶発的な要因で欠損し、欠けた月のシルエットを構成する」という設定を組み込んだ[63]。
- ^ 『機動戦士ムーンガンダム』の連載開始号である『月刊ガンダムエース』2017年11月号の表紙や、2018年に発売されたガンプラでは、本編の展開に先んじてトリコロールで配色されており[57]、のちの展開でガンダムらしい配色に塗り替えられることが予告されていた[54]。
出典
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