ゲルマン祖語 ゲルマン祖語の概要

ゲルマン祖語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/15 15:58 UTC 版)

歴史

ゲルマン民族の大移動の推移;紀元前750年-1年(ペンギン世界歴史地図帳1988から引用):
  • 赤:移動前 紀元前750年
  • 橙:紀元前500年
  • 黄:紀元前250年
  • 緑:1年

ゲルマン人は血統的には非印欧語系スカンジナビア原住民、球状アンフォラ文化の担い手など様々な混血である。ゲルマン語をもたらした集団はヤムナ文化より分化し、バルカン半島、中央ヨーロッパを経由してスカンジナビア半島南部にやってきた集団(ケルト語イタリック語の担い手と近縁)とする説、戦斧文化の担い手の子孫(バルト・スラブ語派と近縁)とする説、あるいはゲルマン祖語は両者の混合であるとの見方もある。他の印欧語と異なる起源の語彙が多いことから、ゲルマン祖語に非印欧語系基層言語を認める説(ゲルマン語基層言語説)もある[1]。ゲルマン人は紀元前750年ごろから移動を始め、紀元前5世紀にゲルマン祖語が成立、その後西ゲルマン語群東ゲルマン語群北ゲルマン語群に分化した。

ゲルマン祖語の祖先であるインド・ヨーロッパ語族の北西語群は、その存在と起源を非常に古い時代にまで求めることができるが、ゲルマン祖語自体はそれほど古いものではない。ゲルマン祖語は、北部ドイツヤストルフ文化にて、 ゲルマン語派のみに特徴的な音声変化とされるもの(訛り)が前5世紀から発生したことにより成立したと推定される[2]。その後このヤストルフ文化が周囲に伝播していく過程でこの音声変化の流行も共に伝播していくことで、ゲルマン語派の各地の言語が成立したものと考えられる。北西語群のうちこの音声変化の伝播から外れた諸言語もあり、たとえばスラヴ語派バルト語派の諸言語がそれと考えられている。スラヴ祖語バルト祖語はその成立過程においてスキタイ人やサルマタイ人、あるいはそれらより昔の時代にウクライナステップに侵入したこれらイラン語群遊牧民社会との接触によって彼らから音声的特徴の影響を強く受けてサテム化している。

音韻

子音

子音 両唇音 歯茎音 軟口蓋音 両唇軟口蓋音
無声閉鎖音 p t k
無声摩擦音 ɸ θ x
有声摩擦音 β ð ɣ ɣʷ
鼻音 m n ŋ
歯擦音 z, s
流音, 半母音 w r, l j

摩擦音[β], [ð], [ɣ]音素でなく異音であるので閉鎖音と区別せずに /b/, /d/, /g/ と書く場合も多い。

グリムの法則

グリムの法則とは、ゲルマン祖語が印欧祖語から分化するときに破裂音に起こった重要な変化である。紀元前6世紀頃から紀元前2世紀までにかけて起こったとされる。

グリムの法則
  破裂音から
摩擦音
有声音から
無声音
有気音から
無気音
唇音 /p/ > /ɸ/ /b/ > /p/ /bʰ/ > /b/
歯音 /t/ > /θ/ /d/ > /t/ /dʰ/ > /d/
軟口蓋音 /k/ > /x/ /ɡ/ > /k/ /ɡʰ/ > /ɡ/
唇軟口蓋音 /kʷ/ > /xʷ/ /ɡʷ/ > /kʷ/ /ɡʷʰ/ > /ɡʷ/, /w/, /g/

ヴェルナーの法則

ヴェルナーの法則とは、無声摩擦音が有声音へと音韻推移する現象に関する法則である。

  • 無声摩擦音 (/s/, /f/, /θ/, /x/) はアクセントのない音節に続くとき有声化してそれぞれ[z], [v], [ð], [ɣ]になる。
    • 言い換えると語頭またはアクセントのある音節に続くときに無声のままである。
    • ここでいうアクセントとは、印欧祖語から引き継いだ「位置の変わるアクセント」である。
    • ヴェルナーの法則の変化の直後に第一音節に強勢がある現在のようなアクセントになった。
    • アクセントの変化の後 /s/の有声の/z/が音素になった。
    • 有声の /f/, /θ/, /x//b/, /d/, /ɡ/ と混同されることがある。

母音

  前舌 中舌 後舌
/i(ː)/   /u(ː)/
半狭 /e(ː)/   /o(ː)/
狭めの広 /æː/    
  /a/  
  • 短母音4つ(i, u, e, a)、長母音5つ(ī, ū, ē, ō, æ)がある。詳しい音は不明である。
  • 印欧祖語の ao はゲルマン祖語で a になり、āōō になった(スラヴ語にも類似の変化がみられる)。
  • ēæ はそれぞれ ē1 , ē2 のように番号をつけて書かれることもある。復元した単語の数が少ないこともあり æ (ē2) の音価は不明である. 言語学者のクラーエ(Krahe)の説では æī と同じ音であるとし、印欧祖語の ei または ēi が二重母音から単母音へ変化している途中を表しているのではないかとしている。「エー」に近い音が二つあったことはルーン文字(古層)に二字あること(ᛇとᛖ)と合致する。
  • 強勢のない音節に来る母音は祖語末期から減少しはじめ、各言語で変化をたどった。

  1. ^ Feist, Sigmund (1932). “The Origin of the Germanic Languages and the Europeanization of North Europe”. Language (Linguistic Society of America) 8 (4): 245–254. doi:10.2307/408831. JSTOR 408831. 
  2. ^ J. P. Mallory and D. Q. Adams, Encyclopedia of Indo-European Culture, Fitzroy Dearborn Publishers, London and Chicago, 1997, “Jastorf culture”


「ゲルマン祖語」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ゲルマン祖語」の関連用語

ゲルマン祖語のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ゲルマン祖語のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのゲルマン祖語 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS