グローバル・ポジショニング・システム 精度

グローバル・ポジショニング・システム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/08 07:20 UTC 版)

精度

GPS受信機の測位精度には、原理的な誤差による要因・人為的要因などさまざまな要因がある。ここではその他の不具合も含め列挙する。

下記のうち誤差要因については、GPS受信機である程度推定し表示することができる。GPS受信機がある円内にいる確率が50%以上であるところの円を、CEP(Circular Error Probability)とよぶ。地図を表示する場合は、この円も同時に表示し利用者への参考としているものが多い。

また、基本的にGPSでの測位は平面座標に比べて高度の計算精度に誤差が大きい

電波伝播経路の特性

GPS衛星からGPS受信機まで電波が達する経路では、電離圏対流圏での電波特性の変化により、若干の電波伝播速度の遅延が生じる場合がある。これによって、計算で定めたはずの空間上の一点の信頼性が損なわれる。一般的に受信機からみてGPS衛星が低仰角の場合、この誤差は増加する傾向がある。これは大気中を電波が伝播するときの遅延による影響が、高仰角(薄い大気を通過する)よりも低仰角(厚い大気を通過する)で大きいからである。またそもそも低仰角衛星からの信号は減衰が大きい[注釈 2]

このための補正手段として、正確な時計をもち座標のわかっている固定局を設置し、GPS受信データから計算した位置と固定局の位置の差から、精度を上げるなどの仕組み(ディファレンシャルGPS、Differential GPS、DGPS)も確立されている。DGPSの補正信号は、かつてFM放送の利用されていない帯域で送信するシステム(JFN系列の放送局で実施)があり、カーナビなどでの利用には有用であった(1997年5月〜2008年3月)。また、WAASやMSASMTSATを利用した日本の運用)では、静止軌道の衛星からDGPSの補正信号を各受信機に送信している(WAAS/MSAS静止衛星自体もGPS衛星同様、測位にも使われる)。

このほか、ビル街や谷山ではマルチパス(ひとつの衛星からひとつの受信機までの電波経路が反射によって多数存在すること。テレビのゴースト現象同様)により、信号の時間差が生じたりS/N比が低下し、精度が落ちる。

受信可能な衛星の個数・配置による影響

GPS衛星の軌道アニメーション。数字は北緯45度(北海道付近)から同時受信可能な衛星数

通常日本(本州)では、理想的に空がひらけている場合、受信可能な衛星は6〜10個程度である。位置の計算に最低必要な4個より多い衛星がみえている場合は、複数の衛星からの情報で測位精度を向上させることができる。それぞれの衛星からの信号強度(S/N比)を観測したりDGPS情報から衛星ごとの信頼度を与え、また4つ組みの取り方をなるべく計算誤差が大きく出ないように取ったり、さらに複数の測位結果の信頼度が低いものを棄却・平均化するなどの方法がとられる。

受信可能な衛星の個数・配置により、電波伝播の誤差が大きく利いてくる場合がある。原理での三脚での喩えを用いると、ある程度伸び縮みする三脚の頭が動く範囲(推定誤差範囲)は、三脚の脚の開き具合によって異なる。計算に用いる衛星のみかけの位置が接近していると、計算に用いる推定誤差が大きくなる(脚を閉じた三脚ではぐらつきが大きい)。また計算に用いる衛星が一直線に並んでいたりする場合は、ある方向への信頼度が大きく低下する(三脚の脚が縦に並んでいると横方向にぐらつきが大きい)。

補助手段による精度の向上

GPSは原理的には最低4つの人工衛星が見えていることが必要であるが、空が開けていない場合などは、補助手段で精度を向上させることも可能である。

まず、GPS受信機内部の時計が正確な時刻に校正された後の一定時間は、時刻情報は内部の時計を用いて3つの衛星で3次元の位置を知ることができる(#原理参照)。しかし、もともとその時計が持っている誤差のため、これも数分で信頼できない時刻になってしまう。

また、地球の形が分かっており、地表(あるいは一定の高度)を移動していると考えられる場合、さらに1つの衛星からの距離を省略しても位置は求められる。地球の形(平均海面)は球体ではなく赤道付近が膨らんだ回転楕円体扁球)であることは知られているが、これをよく近似した3次元曲面(WGS84など)を多くのGPS受信機がデータとして持っている。

さらに受信機のドップラーシフトを観測すると、C/A信号の1ビット送信時間未満の距離の観測もできる。衛星と受信機の距離が接近または乖離している場合、ドップラー効果により受信周波数の上昇または低下(これは信号の位相変化として観測される)がおきる[注釈 3]。これを用いれば、受信機が等速直線運動しかしていないか、それ以外の方向に動いたかも推定できる(1つないし2つの衛星からの信号でもある程度の位置は推定できる)。なお長時間の位相観測によりC/A信号の精度限界以上に精度を上げる方法は、測地用のGPS受信機などでも用いられている。

またカーナビやスマートフォンなどでは、GPSで定期的に位置を決定し、ジャイロ加速度センサから得られる情報で、自律位置推定している物もある。この場合GPS信号を受信できない状態(トンネル内に入ったとき)も、ある程度の位置は分かる。航空機の慣性航法装置と同様であるが、精度は低いため、複雑な移動や時間経過によって位置の信頼性は落ちる[注釈 4]

現在高度の情報が要求される登山用のGPS受信機では、気圧高度計高度方向の位置推定の補助手段としたり、磁気コンパスを併用するものもある。空間の (x, y, z) 方向の誤差は均等であるが、前述のようにGPS受信機の多くは地表に沿って動くことを想定しており、地表に沿った方向の位置推定の精度を上げる代わりに高度方向の位置推定を犠牲にしているためである。詳細な地形図情報とGPS信号を組み合わせて現在高度を求めるものもあるが、階層には対応できない。

モバイル機器に搭載のGPSでは、携帯電話の基地局の位置情報(精度数百m〜数km程度)を補助情報として用いることができる。このため初期捕捉を速くしたり、高速移動時に衛星を見失わないための補助手段とすることができる。他にネットワーク通信を利用して、位置演算やGPS情報等を補正し高速化を図っている。(補助GPS

GIS情報を補助手段として用いる場合もある。カーナビでは地図を搭載しているため、道路情報と照らし合わせることで誤差を修正しているものもある(車は道路以外を走れない・水面を走れない、などという制約を利用している)。

測地系

GPS受信機に経緯度を直接入力してナビゲーションする場合、測地系を整合させる必要がある。(例えば、WGS84もしくは日本測地系を選択)

原子時計の遅れ

受信機側での信号処理には、さまざまな要因によるものが含まれるが、高速で運動するGPS衛星の運動による発振信号の時間の遅れと、地球の重力場による時間の遅れである。後者は、衛星軌道の擾乱や信号到達距離の湾曲、発振信号の時間の遅れなどを引き起こす。 地上の時計は、GPS衛星の時計よりわずかに遅れるので、GPS衛星の時計は、これを補正するため遅く進むように設計[3]されている。この時間の遅れは相対論効果を考慮した計算結果と高い精度で一致しており、身近な相対性理論効果の実証の一つとして挙げられる[4]

GPS時刻

GPS時刻(GPSの基準時刻系)は1980年1月6日のUTC(TAI−19秒)を開始時刻(基準)とし、その後は、UTCのような閏秒調整は施されない。したがって、現在、GPS時刻はUTCから18秒進んでいる(2020年1月現在)。

このGPS時刻とUTCとの差はGPS信号の中に含まれているため、受信機ではこの差を補正してUTC時刻を出力することができる。このUTCとのオフセット信号は255(8ビット)の値まで持てるため現状の閏秒挿入のペースであれば2300年頃まで問題ないと考えられる。

安全保障輸出管理

対共産圏輸出統制委員会(ココム)規制の名残で高度18,000 m (59,000 ft)以上、速度1,900km/h以上では大陸間弾道ミサイルのような用途への搭載を防ぐために使用できない[5][6][7]

また、慣性航法装置を複合したGPS端末には規制がある。

近年では、ワッセナー・アレンジメントがココム規制を継承している。

ただし、専用チップを用いずFPGAオープンソースのプログラムを用いる機器も製作・販売されており、これらの機器を使用することで規制を回避できる。例:Piksi

人為的に加えられた誤差とその解除

1990年から2000年までは、アメリカ軍の軍事上の理由(敵軍に利用されることを防止する)で、C/Aコードにおいて民間GPS向けのデータに対して、故意に誤差データを加える操作(Selective Availability、略称 SA)が行われ、精度が100m程度に落とされていた。

SAが加えられていた時から、既にGPSは民生用として有用であることが知られていたため、2000年5月2日4時5分(協定世界時)から[8]アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンは「GPS技術を広く役立てて欲しい」という主旨で、これを解除した[9]。競合技術であるガリレオEUが主体となって推進している)が提案された理由のひとつに、GPSのSAによる誤差により、民生用で精度が上がらないということがあるが、これに対して優位を保ち続け、イニシアチブを取るというアメリカ合衆国連邦政府の意図も含まれている。また民間GPS機器の軍事転用により、調達コストを抑える目的もあると見られている。SA解除以降は、民間GPSでもC/Aコードの技術的な限界までの精度が得られるようになっている[10]

2000年以降は、米国の政策上の必要に応じて、有事があった際など特定地域において精度低下の措置がとられる可能性があるとされていた。しかし、米国のジョージ・W・ブッシュ大統領と国防総省は2007年9月18日に、次世代GPS(GPS III)にはSA機能を搭載しない(正確には、「SAを持つ衛星を調達しない」)との大統領決定を発表した。したがって、この決定が将来覆されない限り、SAの操作は永久に実施されないこととなった[11][12]

多くの天文観測設備では天体追尾にGPSに同期させることで補正するクォーツ時計やルビジウム時計を用いている。このため、米国が秘密裏にSAを加えようとしても、少なくともSAが加えられたこと自体はエラーとして検出される。

GPSの年問題

1999年8月21日問題(週データのロールオーバー問題)

GPSの時計が桁溢れする日(1999年8月21日など)が1024週ごとにある。これは、GPS衛星に搭載されている時計の週の積算データが10ビットで管理されているため、GPS時計の周期開始日である1980年1月6日から1024週後の1999年8月21日(JSTでは1999年8月22日午前9:00)にリセットされて内部で0週に戻ってしまう仕様となっていたのを無視してカーナビゲーションシステムを製造したために、発生した問題である。当時、対応が迫られていた2000年問題と同根の問題であることもあり、こう呼ぶ。

日本国内において修正ミスが原因の不具合が、一部のカーナビゲーションシステムで生じた。

2019年4月7日問題

2度目にGPSの週の積算が0になるのは、基点から2048週間後の2019年4月6日23時59分42秒 (UTC)である(正時ではないのは閏秒の影響) [13]。翌7日、日本航空ボーイング787型機の日付表示にトラブルが発生し、確認のため1便が欠航、2便が遅延した[14]

10ビットのGPSで3度目に積算0となるのは2038年11月21日の予定である。

なお、更新されたGPSは内部処理で週数を13ビットで管理しており、2137年頃にあふれて0に戻る見込み(正確な日時は未定)。(2137年問題)。




注釈

  1. ^ ただし、宇宙空間からの電波を利用するため、電波の受信が著しく困難な、トンネル等の地下空間においては、特別な措置を施していない場合には、著しく受信精度が低下するか、若しくは、受信困難に陥る可能性が高い。
  2. ^ 太陽の見え方が日の出、直上、日没で異なることから理解しやすい
  3. ^ ドップラーシフト値を用いると、0.1 m/s以下の精度で速度計測が得られる。
  4. ^ 他に、カーナビでは移動方位センサ、速度発電機や操舵角(ハンドル)センサ等である程度の補正を行うものがある。
  5. ^ (例えば最寄の料理店を検索し電話を掛けて予約する)
  6. ^ つまり、衛星軌道の変更や閏秒実施通知の受け取りなど、指令電波は受けるが、GPS受信機からの電波を受信できる機能は持っていない。

出典

  1. ^ 準天頂衛星システムの歴史”. JAXA. 2017年4月6日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2016年2月20日閲覧。
  2. ^ ディファレンシャルGPSの廃止について (PDF)”. 海上保安庁 (2017年6月30日). 2019年1月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月7日閲覧。
  3. ^ Interface Control Document (ICD 200c)” (英語). U.S. Coast Guard Navigation Center,. 2010年4月29日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2009年4月11日閲覧。
  4. ^ 野村清英. “GPSと物理 九州大学理学部物理”. 2011年9月24日閲覧。
  5. ^ GPS without limits” (英語). 2017年9月24日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2016年4月7日閲覧。
  6. ^ Why are there altitude and velocity limits for GPS equipment?” (英語). 2017年3月10日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2016年4月7日閲覧。
  7. ^ COCOM Limits” (英語). 2016年4月7日閲覧。
  8. ^ Data From the First Week Without Selective Availability” (英語). 2013年5月18日閲覧。 2000年5月2日4時以降は、それまでの最大100mの誤差が10m程度の誤差に改善されている。
  9. ^ “STATEMENT BY THE PRESIDENT REGARDING THE UNITED STATES' DECISION TO STOP DEGRADING GLOBAL POSITIONING SYSTEM ACCURACY” (英語) (プレスリリース), (2000年5月1日), https://clintonwhitehouse4.archives.gov/WH/EOP/OSTP/html/0053_2.html 2013年5月18日閲覧。 
  10. ^ Frequently Asked Questions About Selective Availability - Will SA ever be turned back on?” (英語). 2013年5月18日閲覧。
  11. ^ “Statement by the Press Secretary” (英語) (プレスリリース), (2007年9月18日), http://georgewbush-whitehouse.archives.gov/news/releases/2007/09/20070918-2.html 2013年5月18日閲覧。 
  12. ^ “DoD Permanently Discontinues Procurement Of Global Positioning System Selective Availability” (英語) (プレスリリース), (2007年9月18日), https://archive.defense.gov/releases/release.aspx?releaseid=11335 2013年5月18日閲覧。 
  13. ^ 片岡義明 (2019年3月14日). “GPSの“19.6年問題”、4月7日に「週数ロールオーバー」が発生、古いGPS機器では不具合の可能性も”. INTERNET Watch. 2019年4月20日閲覧。
  14. ^ GPSリセットによる運航への影響発生について”. 日本航空. 2019年4月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月21日閲覧。
  15. ^ A-GPSの概要”. 2011年5月24日閲覧。
  16. ^ 空港への新たな高精度航法(RNAV)の導入に向けて”. 2007年10月4日閲覧。
  17. ^ 東京新聞特報部「太平洋渡るアホウドリ」『東京新聞』2009年(平成21年)10月28日(水曜日)、 24面。
  18. ^ 1979年時点でも、100分の1秒の精度が望ましいとされた。地震学会編、1979、『地震の科学』、保育社
  19. ^ “建設機械にGPSなど「防犯」効果 盗難被害激減”. 神戸新聞. (2011年2月9日). http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0003794636.shtml 2011年2月1日閲覧。 
  20. ^ ココセコム 高齢者を見守る”. 2011年2月10日閲覧。
  21. ^ 毎日新聞2017年2月1日1面・31面
  22. ^ GPS コンパスの性能評価 (PDF)”. 2014年10月12日閲覧。
  23. ^ http://gishop.jp/html/page8.html”. 2014年10月12日閲覧。
  24. ^ 航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれのある電子機器の使用制限について”. 国土交通省航空局. 2016年4月28日閲覧。
  25. ^ “ついに運用が始まった欧州版GPS「ガリレオ」”. http://news.mynavi.jp/articles/2016/12/20/galileo/ 2017年1月21日閲覧。 
  26. ^ India’s PSLV successfully launches the IRNSS-1B spacecraft” (英語). NASA Spaceflight.com (2013年4月3日). 2013年4月13日閲覧。
  27. ^ PSLV-C24 IRNSS-1B Presskit (PDF)” (英語). 2014年11月9日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2016年2月12日閲覧。
  28. ^ About QZSS” (英語). JAXA. 2012年1月7日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2009年2月22日閲覧。
  29. ^ 「みちびき」によるサービス開始について, (日本語), みちびき(準天頂衛星システム), http://qzss.go.jp/overview/information/qzss_181101.html 2018年11月29日閲覧。 






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