クロスオーバー (音楽) クロスオーバー (音楽)の概要

クロスオーバー (音楽)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/11 02:21 UTC 版)

ジャズのクロスオーバー

1970年代前半に流行した、電気楽器や電子楽器を取り入れたジャズの演奏スタイルの一種。1960年代後半より、電気楽器やロック風な奏法を取り入れた新しいジャズ・スタイル、ジャズ・ロックやエレクトリック・ジャズ[1]が生まれた。マイルス・デイヴィスらはジャズの停滞状況を乗り越えるべく、新しいサウンドに挑戦していた。アメリカのスタジオ・ミュージシャン達は、ジャズにラテン音楽やロックを融合し、ジャンルの垣根を乗り越えた「クロスオーバー」音楽を生み出していった。

1970年代には、デオダートボブ・ジェームスアレンジャーがアルバムを発表した。1973年には、デオダートが、アルバム『Prelude』を発表。クラシック作品をエレクトリック・ジャズにアレンジした「ツァラトゥストラはかく語りき」がジャズとしては異例のヒットとなった[2]。同曲は「クロスオーバー」の最も初期の有名曲であり、日本でもNHKFMを中心にさかんにオンエアされた。1973年に発表した『Deodato2』でもジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」をカバーした。またデオダートをサポートしていたのがプロデューサークリード・テイラーCTIレコードである。同レーベルではヒューバート・ロウズイーゴリ・ストラヴィンスキー春の祭典をアレンジした曲を発表したが、これはヒットには至らなかった。

70年代前半には、チック・コリアキース・ジャレットハービー・ハンコックらも、クロスオーバーの作品を発表した。ハンコックは、「ヘッド・ハンターズ」(1973年)のようなファンク・リズムを取り入れたアルバムも制作した。

代表的なアルバム

ジャズ・クロスオーバーの主なアーティスト

ロックのクロスオーバー

ロックのクロスオーバーは、時代や音楽性ごとに細かく区分されている。ブルース・ロックジャズ・ロックラテン・ロック、ファンク・ロックなどが挙げられる。

ロック1960年代に発展する過程で、ブルースを融合、クロス・オーバーさせたブルース・ロックが登場した。エリック・クラプトン[3]クリームやジミ・ヘンドリクス、フリートウッド・マック、ポール・バターフィールド、ジョン・メイオールなど、演奏能力に長けたバンドがブルース・ロック・ブームをまき起こした。サンタナはロックにラテンを融合することで、「ラテン・ロック」のアルバムを発表した。さらに、コロシアムやソフト・マシーン、ニュー・クリアスらジャズとロックを融合したジャズ・ロックを生み出し、ロックにクラシック音楽を取り入れたエマーソン、レイク&パーマー[注 1]イエスなどのプログレッシブ・ロックが発展していった。

また、インエクセスらのファンクとロックを融合した「ファンク・ロック」も登場した。90年代のロック分野におけるクロスオーバーの一つの現象が、パンクとヘヴィメタルを融合したニルヴァーナ(ナーヴァーナ)らのグランジと呼ばれるジャンルである。

1990年代に停滞していたヘヴィメタルと、ヒップ・ホップファンクに代表される黒人音楽をクロスオーバーさせたジャンルで、ラップ・ロック、ラップメタルやファンクメタルなどのジャンルが生まれた。この動きは日本ではミクスチャー・ロックと呼ばれた。

クラシック音楽のクロスオーバー

クラシック音楽ポピュラー音楽がクロスオーバーしたサウンドは、クラシカル・クロスオーバーと呼ばれる場合がある。

最も著名な例としてはサラ・ブライトマンアンドレア・ボチェッリデュエットタイム・トゥ・セイ・グッバイ」(1996年)がある。この曲は全世界で2,500万枚以上を売り上げたとされ、このジャンルのスタンダードになった。グループで活動するイル・ディーヴォは男性歌手4人で成り立っており、ポップスとオペラの融合から彼ら自身はこの音楽の事を「ポペラ」と呼んでいる。音楽評論家の片桐卓也は、このジャンルの隆盛の背景として「クラシック界の中核を担う40、50歳代の音楽家は、若いころ、ごく自然にロックやポップスに親しんできた世代で、ポピュラー音楽を取り上げることに抵抗感のない人が多い」ことを挙げている[4]

日本でのクラシカル・クロスオーバーの歌手では、ソプラニスタの岡本知高[注 2]などの歌手が活動している。2005年に、本田美奈子.[注 3]のアルバム『アメイジング・グレイス』が日本人歌手によるクラシック・アルバムとしては初めてオリコンチャートトップ10入り(7位)を果たし[5]秋川雅史の「千の風になって」が2007年のオリコン年間シングルチャートで第1位となった[6]ことなどはその象徴的な出来事である。

また、ヴァイオリニストでシンガー・ソングライターのサラ・オレイン[注 4]も、クラシカル・クロスオーバーのジャンルでアルバム「セレステ」(2012年)を発表し、同アルバムは音楽配信で好調だった。


注釈

  1. ^ ELPのナット・ロッカーは、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」とロックを融合した曲だが、これはビー・バンブル&スティンガーが過去に発表した曲をカバーした可能性もある。
  2. ^ テレビのカラオケ・歌コンテスト番組で審査員としても登場した。
  3. ^ 白血病で死去した。
  4. ^ オーストラリア出身で、NHK・ETVの英会話番組や、民放FMのDJなどとしても出演した。

出典



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