キビ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/15 18:20 UTC 版)
名称
キビの語源については、一般的には『和訓栞』などが説く黄色い実の黄実(キミ)が転じたものという[2]。しかし、『日本語源学』では真黄実(マキミ)の略、『日本古語大辞典』では食実(ケミ)の意味、『日本語源考』では黄米の別音(Ki-Mi)に由来するとしており諸説ある[2]。
中国語の「黍」は『説文解字』によると「黏(ねばり)あるもの」の意味があり、本来はもちきび(モチ種)を意味した[2]。「稷」は本来はうるちきび(ウルチ種)を意味したが、コウリャン(高梁)を意味したとする説もある[2]。
名称に関しては、モロコシ(タカキビ)を「キビ」と呼ぶ地方では、本種を「コキビ」と呼ぶ。サトウキビを「キビ」と呼ぶ地方もある。
原産と伝播
- 原産地
(最も古い栽培植物の一種ではあるが)植物学的な起源(祖先野生種)は明らかでない[3]。東アジアから中央アジアにかけての大陸性気候の温帯地域が原産地と考えられている[4]。起源に関する説は、ユーラシア大陸起源説、東アジア起源説があるがはっきりしていない[5]。
- 栽培
栽培化の地理学的起源についても諸説ある[3]。 ヨーロッパ、中央アジア、インド、中国など有史以前から広く栽培されていた[4]。考古学的な証拠(エビデンス)としては、紀元前1万年ころには中国北部で栽培が行われていたという証拠がある(Lu et al., 2009)[6]。新石器時代以来の人類の食用穀物で、中国の華北地方では、アワとともに古代の主要穀物であった[7]。
中国では稷(うるちきび)は「百穀の長」あるいは「五穀の長」とされ神格化されていた(米(イネ)は殷・周の時代には華北では栽培されなかったためといわれている)[2]。漢語の「社稷」には国家や朝廷の意味がある[2]。
日本へは、アワ、ヒエ、イネなどよりも遅く渡来したと考えられている[4]。『万葉集』にキビの記述があるとおり日本では古くから親しまれており、童話『桃太郎』の作中に登場するキビダンゴは有名である[5]。なお、北海道に導入されたのは明治になってからである[4]。
なお、イネ科キビ属は約470種が分布しており、これらの中で栽培化されたのは3種で、本項のキビ(Panicum miliaceum L.,)のほか、インド起源のサマイ(P. sumatrense Roth.)およびメキシコ起源のサウイ(P. sonorum Beal.)がある[3]。
一方、亜種も含め、世界的に広く分布する雑草でもあり、雑草的系統から野生系統を区別することは容易でない[3]。
特徴
一年生草本[3]。夏から秋にかけて茎の先に穂ができて垂れ下がる。穂姿がイネに似ていることからイナキビともいう[2]。大型の円錐花序で[2]、小穂は不稔花と稔実花からなる[3]。穎果(実)の色は白、黄、橙、赤、黒、褐色などがある[2]。
栽培種は形態的変異が大きいが、草丈1メートルから2メートル程度になり、一般的に初夏に播種して秋に収穫される[3]。分げつはあまりしない[3]。アワと同様にウルチ種(ウルチ、ウル、粳)とモチ種(モチ、糯)がある[4][5]。
雑草性で脱粒性が強く、北アメリカのミシシッピー上流域では強害雑草になっている[3]。また、ヨーロッパ、ロシアから東部シベリアにかけ雑草的に帰化している[3]。
栽培期間が45日間と短く、痩せた土地や少ない水量にも適応可能なため、完全に定住しているわけではない半遊牧民でも栽培が可能である[8]。
- ^ 文部科学省、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ a b c d e f g h i j 松木順子、熊倉克元、石橋晃「飼料学(63)」『畜産の研究』第64巻第3号、養賢堂、2010年3月、367-374頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 木俣美樹男「キビ Panicum miliaceum L. の栽培起源」『国立民族学博物館調査報告』第84巻、国立民族学博物館、2009年3月31日、205-223頁。
- ^ a b c d e 平 宏和『雑穀のポートレート』錦房、2017年、4頁。
- ^ a b c 林弘子 1998, p. 94.
- ^ ScienceDirect, Proso Millet
- ^ 『新編 食用作物』 星川清親 養賢堂 昭和60年5月10日訂正第5版 p353
- ^ Maris Fessenden (2016年1月7日). “This Ancient Grain May Have Helped Humans Become Farmers”. Smithsonian Magazine. スミソニアン協会. 2022年10月23日閲覧。
- ^ a b c d 林弘子 1998, p. 95.
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