カ 生活環

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/21 03:35 UTC 版)

生活環

幼虫(ボウフラ)

一生のうちで、幼虫成虫完全変態する。卵から蛹までの期間は種や温度によって変わる。イエカの一種 Culex tarsalis は、20℃の環境では14日で生活環を完成させる。25℃の環境では10日である。

卵はヤブカ類では水際に、オオカ類やハマダラカ類では水面にばらばらに産み付けるが、イエカ類では水面に卵舟と呼ばれるボート状の卵塊を浮かべ、数日のうちに孵化する。なお、産み付けられた卵や幼虫は産卵誘因フェロモンを放出しており、卵や幼虫がいる水ほど他の蚊が産卵しやすい。特定の細菌も蚊の産卵誘因物質を産生している。
幼虫 (ボウフラ)
幼虫は全身を使ってを振るような泳ぎをすることから、古名の「棒振り」「棒振り虫」が訛ってボウフラ(孑孒、孑孑[7])となった。地方によっては「ボウフリ」の呼称が残る。ボウフラは定期的に水面に浮上して空気呼吸をしつつ、水中や水底で摂食活動を行う。呼吸管の近くにあるは呼吸のためではなく、塩分の調節に使われると考えられている。
生息場所としては、主に流れのない汚れたなどに生息するが、ハマダラカの一部などで知られるようにきれいな水を好む種や、それ以外にも水たまりや水の入った容器の中など、わずかな水場でも生息する種がいる。トウゴウヤブカにみられるように、海水が混じるため海浜部にある岩礁の窪みの、しばしば高い塩分濃度になる水たまりにも生息するものも知られる。また、水田も蚊の生息地としては重要な場である。
ボウフラは環境の変化には弱く、水質が変化したり、水がなくなったりすると死滅しやすい。のような流れがあると生活できないものがいる一方、渓流のよどみを主な生活場所とするものもいる。特殊な環境で成長する種類もおり、樹木着生したアナナス類のの間にたまった水、食虫植物サラセニアの捕虫器内の水、波打際のカニの巣穴内などで成長する種類もいる。
ボウフラは空気呼吸するのに尾端にある呼吸管を使用するが、ハマダラカ類では呼吸管がないため、体を水面に平行に浮かべて、背面の気門を直接水面に接して呼吸する。幼虫のほとんどは水中のデトリタスや細菌類などを食べ、ハマダラカ類では水面に吸着した微生物、イエカ類では水中に浮遊する微生物や細かいデトリタス粒子、ヤブカ類では水底に沈んだ粗大なデトリタス塊を摂食する傾向が強い。オオカ亜科の幼虫は他の蚊の幼虫を捕食する。
オニボウフラ[1](鬼孑孒)と呼ばれる。から伸びた呼吸管がのように見えることに由来する。他の昆虫の蛹と同じく餌はとらないが、蛹としては珍しく幼虫と同じくらい活発に動く。呼吸は胸の「ホルン」と呼ばれる器官を使って行う。

注釈

  1. ^ ディート・イカリジンの濃度は、強さではなく持続時間を示している。ディート30%で約6時間、15%で5時間、10%で3時間の作用時間としている。また、商品問わず使用上の注意を読み、使用法を遵守して使うことが肝心である。
  2. ^ 「スケベ虫」「干拓虫」とも呼ばれ、鳥取県米子市鹿児島県奄美大島沖縄県久米島などの一部で近年被害が相次ぐ。体長の小ささゆえに網戸をすり抜け、噛まれると強い痒みが1ヶ月間以上続くこともある。

出典

  1. ^ a b 【蚊 防ぐには】上:繁殖抑える/幼虫のうちに除去を『日本農業新聞』2020年7月22日(14面)
  2. ^ a b c d e 三條場千寿、比嘉由紀子、沢辺京子『あなたは嫌いかもしれないけど、とってもおもしろい蚊の話』山と渓谷社、2019年、44-45頁。 
  3. ^ タンザニアにおける日本の都市マラリア対策―15 年の実績と将来への課題― 高橋央、半田祐二朗、山形洋一 JICA 2016年1月22日閲覧
  4. ^ 公正取引委員会 (2007年11月20日). “株式会社オーム電機に対する排除命令について”. 2008年8月23日閲覧。
  5. ^ 花岡和則「生物コーナー 蚊の脳(卵巣成熟)ホルモン」『化学と生物』1979年 17巻 9号 p.603-605, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.17.603, NAID 40000426627
  6. ^ フマキラー フマキッズこども研究所 虫の研究室. “むしはかせに聞いてみよう カ”. 2015年9月30日閲覧。
  7. ^ 広辞苑
  8. ^ 日経ビジネス電子版 (2021年7月28日). “この世で一番多く人間を殺しているのは……蚊です”. 日経ビジネス電子版. 2024年4月21日閲覧。
  9. ^ 谷口恭・太融寺町谷口医院院長:実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-世界で最も恐ろしい生物とは?毎日新聞医療プレミア(2015年9月27日)2020年7月22日閲覧
  10. ^ Malaria WHO(世界保健機関)2017年4月10日閲覧
  11. ^ 蚊はかゆいだけじゃない!蚊が媒介する病気のお話 ジョンソン株式会社(2007年9月3日)2016年1月22日閲覧
  12. ^ 茂木幹義『マラリア・蚊・水田 病気を減らし、生物多様性を守る開発を考える』(海游舎 2006年4月20日初版発行)p162-164
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  16. ^ Carbon dioxide and 1-octen-3-ol as mosquito attractants.. PMID 2573687. 
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  25. ^ “「マタタビは蚊よけ」 猫の習性、岩手大が解明 米科学誌に発表” (jp). Mainichi Daily News. (2021年1月20日). https://mainichi.jp/articles/20210120/k00/00m/040/219000c 2021年1月21日閲覧。 
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  42. ^ NHKあさイチ 2012年6月12日放送
  43. ^ NHK蚊対策で紹介された「ペットボトルぼうふらキャッチャー」の威力を試してみた|福岡県地元人の地域・日常情報ブログ
  44. ^ 蚊とりん - エコデア
  45. ^ 蚊退治 ボウフラ対策 お米の長期保存と防災
  46. ^ 蚊の存在理由ってなに? - 昆虫研究 ふくしま森の科学体験センター
  47. ^ 蚊の生物体としての特性とその一生 | For your LIFE フマキラー
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