カエンタケ 分布

カエンタケ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/21 22:51 UTC 版)

分布

日本中国ジャワ島などに産する[2][7]中央アメリカコスタリカ)からも極めて近い種(あるいは同一種)が報告されている。2019年、オーストラリアでも発見された[8]

特にナラ枯れが発生している地域で多発する傾向がある[1]。日本国内では、カシノナガキクイムシによるブナ科の樹木の枯死例(いわゆる「ナラ枯れ」)が増大。それに伴ってカエンタケの発生地域が広がっているという指摘がある[3]。ただし、カシノナガキクイムシが、カエンタケを直接的に伝播しているものではない。

毒性

キノコの中では、唯一触ってはいけない猛毒キノコといわれている[1]致死量はわずか3g(子実体の生重量)程度と、毒キノコの中でも極めて強力で、口に入れた場合は胃腸障害や多臓器不全のち脳障害が現れ、最悪の場合は死に至る[1]。日本では6例ほどの中毒事例が報告され、計10名の中毒患者が出ており、そのうち2名は死亡している[注 1]。また、触るだけでも皮膚がただれたりするといわれる[1]。しかし、実例はなく現在は研究中である[9]。そもそも毒の主成分であるマイコトリコテセンの皮膚への浸潤自体がかなり鈍いものであり、触れて直ちにびらんを発症するとは考えにくい[要出典]

症状

摂取後30分ほどで消化器系から神経系の症状が現れ、悪寒腹痛嘔吐、水様性下痢頭痛めまいや手足のしびれ、のどの渇きなどが現れる[4][2]。その後、呼吸困難言語障害白血球血小板の減少および造血機能障害、血圧低下、全身の皮膚のびらんや粘膜びらん、脱毛肝不全腎不全、呼吸器不全、循環器不全、胸痛、高熱、悪寒、口渇、眼球出血、脳障害といった多彩な症状が全身に現れ、致死率も高い[4][2]。また回復しても、小脳の萎縮や言語障害、運動障害、あるいは脱毛や皮膚の剥落などの後遺症が残ることがある[10]。毒成分の皮膚刺激性が強いので、汁を皮膚につけただけで皮膚障害が出るといわれ、汁に触れてはいけないとされる[4][2]

毒成分

かび毒(マイコトキシン)として知られているトリコテセン類[4](ロリジンE、ベルカリンJ〈ムコノマイシンB〉、サトラトキシンHおよびそのエステル類の計6種類)[11]が検出されている。これらの成分には皮膚刺激性もあるため、手にとって観察するだけでも皮膚炎を起こす可能性がある[12]。またこの毒成分については未知の部分が多く、解毒剤はない。

歴史

文政年間の植物図鑑『本草図譜』に「大毒ありといへり」との記述があることから、古くからカエンタケによる中毒・死亡事故が発生していたと見られる。しかし、元々発生量が少ないこともあり、大半のキノコ図鑑では食毒不明もしくは食不適として扱われていた。そのため本種の毒性が知られることはなく、猛毒であることが知られるようになったのは近年のことである。

類似種

食用のベニナギナタタケや薬用キノコのサナギタケ冬虫夏草の一種)に似ている[1]。カエンタケを冬虫夏草や薬用キノコと間違えて、それを浸した酒を飲んだり、直接食べて死亡した事故も起こっている[4]

ツノタケ (Trichoderma alutaceum) は、子実体がクリーム色ないし淡黄褐色を呈する。また、エゾシロボウスタケ (Hypocrea gigantea (S.Imai) Chambr.) はより大形で、全体が灰白色を呈する。さらに、日本からはH. daisenense (Doi et Uchiyama) Chamb.やH. cordyceps (Penz. & Sacc.) Chambr.(ともに和名なし)などが知られている[13]

ベニナギナタタケ (Clavulinopsis miyabeana) は、子実体が細い棒状で肉質がやわらかく[4]、ほとんど無味なのに対し、カエンタケは硬い肉質で、内部組織は白く苦味がある。冬虫夏草の類では、その子実体の基部が、種々の昆虫クモ類の虫体、あるいは地下生の子嚢菌ツチダンゴ属)の子実体などに連結するため、地中部まで丁寧に掘り上げれば誤認することは少ない。


  1. ^ 1999年新潟県で1人死亡。
  1. ^ a b c d e f g h i j k 牛島秀爾 2021, p. 46.
  2. ^ a b c d e f g h i 吹春俊光 2010, p. 156.
  3. ^ a b 毒を持つ生き物(7)触れるだけで皮膚に炎症日本経済新聞』朝刊2020年3月8日(サイエンス面)2020年6月23日閲覧
  4. ^ a b c d e f g h i j k 長沢栄史監修 2009, p. 48.
  5. ^ Doi, Y., 1973. Revision of the Hypocreales with cultural observations V. Podostroma giganteum Imai, P. cornu-damae (Pat.) Boedijn and Hypocrea pseudogelatinosa sp. nov. Reports of the Tottori Mycological Institute (Japan) 10: 421-427
  6. ^ Doi, Y., 1967. Revision of the Hypocreales with cultural observations III. Three species of the genus Podostroma with Trichoderma or Trichoderma-like conidial states. Transactions of the Mycological Society of Japan 8:54-57.
  7. ^ 知恵蔵mini「カエンタケ」の解説 コトバンク
  8. ^ “日本の毒キノコ「カエンタケ」、豪で初発見”. AFPBB News. (2019年10月3日). https://www.afpbb.com/articles/-/3247792 2019年10月3日閲覧。 
  9. ^ 指じゃない、触れるとただれ食べると死ぬキノコ」『読売新聞』 2013年8月13日
  10. ^ カエンタケ中毒の1例 医学書院ライブラリー
  11. ^ Toxic principles of a poisonous mushroom Podostroma cornu-damae Saikawa Y.; Okamoto H.; Inui T.; Makabe M.; Okuno T.; Suda T.; Hashimoto K.; Nakata M. Toxic principles of a poisonous mushroom Podostroma cornu-damae. Tetrahedron 57(39):8277-8281, doi:10.1016/S0040-4020(01)00824-9.
  12. ^ 朝ズバ!読売などカエンタケ報道の補遺 - 大阪市立自然史博物館 佐久間大輔・主任学芸員
  13. ^ Doi, Y., & S. Uchiyama, 1987. "A New Podostroma Species from Japan." Bulletin of the National Science Museum. Series B, Botany 13(4): 129-132
  14. ^ Chamberlain, H.L., Rossman, A.Y., Stewart, E.L., Ulvinen, T., Samuels, G.J. (2004). “The stipitate species of Hypocrea (Hypocreales, Hypocreaceae) including Podostroma. Karstenia 44 (1-2): 1-24. https://pubag.nal.usda.gov/catalog/6943. , hdl:10113/6943
  15. ^ Rossman et al. (2013). “Genera of Bionectriaceae, Hypocreaceae and Nectriaceae (Hypocreales) proposed for acceptance or rejection”. IMA Fungus 4 (1): 41-51. doi:10.5598/imafungus.2013.04.01.05. PMC 3719205. PMID 23898411. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3719205/. 






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