オートマチック限定免許 概要

オートマチック限定免許

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/12 13:59 UTC 版)

概要

AT限定が付された運転免許証の例。この運転免許証では自動二輪車と車両総重量5t未満の準中型自動車及び普通自動車にAT限定が付されている。

日本国内の自動車教習所では、AT車教習をカリキュラムへ組み込んでいたが、運転免許証取得後の一般運転において、ブレーキとアクセルの踏み間違いを原因とする急発進などAT車特有の交通事故が多く見受けられるようになった。その後、AT車が広く普及したことによりマニュアルトランスミッション車(以下MT)を運転する機会も減ったとして、カリキュラムをAT車の運転特性へ絞ったAT限定免許の導入を図ることとなった。

1991年11月1日に、AT限定が普通自動車免許を対象として創設されたことにより、当該免許取得において手動変速操作の習得をする必要性がなくなった。ただし、運転免許試験場の学科試験では、MT車の取得者と同じ問題が出題されるので、AT限定免許を取得する場合でも「クラッチの使い方」「ギアの切り替え」といったMT車特有の知識も覚えないといけない。

2005年6月1日からは、自動二輪車普通大型)免許にもAT限定免許が創設され、ビッグスクーターに乗るための免許取得が比較的容易となった。ただし、単に変速機構が異なるだけの四輪車とは異なり車体構造が大きく異なるビッグスクーターを教習へ用いるため、課題走行の種類によっては操作がMT車より難しくなっているものもある[注 1]。また、大型自動二輪車免許で運転出来るのは「AT/MTの種類・排気量を問わず全ての二輪車」であるが、大型自動二輪車AT限定免許は「ATかつ排気量が650cc以下の二輪車のみ[注 2]」へ制限されていた[注 3]

2019年12月1日より、大型二輪免許のAT限定で運転できる大型二輪AT車の排気量の上限は無制限となった。これは2019年12月1日以降に新規で免許を取得した者だけではなく、既存の大型二輪免許のAT限定を保有している者も対象となる。

日本では、大型中型[注 4]準中型自動車[注 5]特殊自動車にAT限定免許はないが、カナダ等大型自動車のAT限定免許が存在する国もある[1]。但し、普通自動車第二種免許にはAT限定免許が存在する。そのため、タクシー運転代行の運転手であっても、クラッチ操作を行えない場合もありうる[注 6]

AT限定免許全般に共通する特徴として、限定なし免許に比べて必要な教習時間が3レッスン分(教習所によって表現は異なる)短く、料金がやや安い点が挙げられる。そのため、MT車を運転する必要がない、あるいは必然性が極めて少ない者には合理的な免許となる。ただし、最初から限定なし免許の方で習得する場合、教官指導の下でのMT車の練習が多くできることや準中型中型大型免許には一種・二種[注 7]ともにAT限定はなく、それらを習得したい者はMT車で教習を受けて免許を取ることになることから(後述)、それらの習得が(個人差はあるが)円滑に進みやすいというメリットもある。

一方で世界的な潮流で一部のスポーツ系の車や廉価グレードの車種を除きMTの設定がない車種も多くなっているうえ、かつて新車購入時にMT・ATの選択ができた車種でも、その後の改良でAT車のみになってしまったケースやそういったタイプの車であってもMT設定を廃止しセミオートマ車のみになったケースも少なくない。また、MT選択ができる場合であったとしても、あえてMT車を選択するケースも少なくなっている。比較的有名な例は、フェラーリはフェラーリ・カリフォルニアを最後にMT設定を終了した。そのうえ、この車種がイギリスで販売された際、260台の売り上げとなったが、その際MT設定で購入されたのはただ1台だけであったと言われている[2]


注釈

  1. ^ 構造が異なることからバランスや乗車姿勢も根本的に異なることや、極低速での速度調節がMTでは半クラッチでできるのに対し、ATではアクセルでしか調節できないなど。
  2. ^ 大型自動二輪AT創設当時スズキスカイウェイブ650が二輪ATの最大排気量であったことから基準にされたため。
  3. ^ 例えばクラッチ操作を必要としないものの排気量が650ccを超えるホンダDN-01ヤマハFJR1300ASは大型自動二輪AT限定免許では、2019年12月1日より前は運転できなかった。
  4. ^ ただし、旧々普通自動車免許から移行した中型(8t限定)自動車免許を除く。
  5. ^ ただし、旧普通自動車免許から移行した準中型(5t限定)自動車免許を除く。
  6. ^ 2018年にトヨタコンフォート(小型タクシー枠)の生産及び販売が終了したことで現行のタクシー専用車種は全車ATとなった事、そもそも中型タクシー枠で同じXS10系であるクラウンコンフォートクラウンセダンを導入する地域ではそれらの車種にATしか設定されていなかったことから早期にATに移行していたこともあり、2020年の第二種普通運転免許取得者の1万2179人中、68%の8287人がAT限定で取得しており、二種免許もAT限定で取得する者が主流となっている。
  7. ^ 準中型免許の場合、二種免許は存在しない。そのため、旧々普通二種免許および旧普通二種免許から移行するのは中型二種(前者は8t限定、後者は5t限定)となる。
  8. ^ ただし、北部および東北方面隊区内部隊では、燃費の悪化、MTと違い発進時はトルクコンバーターの性能上少し多めに踏み込まないと加速が悪いなどのATとMTの違いによる問題も存在し、部内資料や隊員の体験談を記した書籍類にもこれらの注意点が記載されている。また、各師団自動車教習所向け教習車両の更新用には同系のMT車が導入されており、全体で見ればMT車を運転する技術が必要であることには変わりない。
  9. ^ 2017年以降の普通免許は車両総重量の制限が厳しいため、限定なし普通免許で運転できるがAT限定で運転できないという貨物車両は、軽トラックのほかには多くない。過去にAT限定普通免許を取った者は、現在はAT限定の準中型・中型免許を持つが、その人数が今後増加することはない。
  10. ^ 二輪免許がない場合で7時間、AT普通二輪がある場合では6時間、MT普通二輪の場合は3時間の差である(なおAT限定解除する場合は8時間の講習が必要)。
  11. ^ a b 道路交通法施行規則第19条第4項および別表第2。免許証記載事項略語のうち、「AT車」の定義として「オートマチック・トランスミッションその他のクラッチの操作を要しない機構がとられており、クラッチの操作装置を有しない自動車等」が規定されている。

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