オーストリア料理 郷土料理

オーストリア料理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 08:32 UTC 版)

郷土料理

ブルゲンラント

ブルゲンラント州の郷土料理は評価が高い[55]ハンガリー料理の影響が強く[25][55]パプリカが調味料として使われている料理もある。さらにクロアチア系住民からの文化的影響が加わり、パンノニア料理という独自の料理が生まれた[2]。代表的な料理に、小さく切ったベーコン入りの濃い豆のスープ、パラチンケなどを巻いてレーズンとケシの種を詰めたデザート・ルーラード(Roulade)がある。ハンガリー料理を起源とするハラツレ(Halászlé)、ゲフュルテ・パプリカ(Gefüllte Paprika 肉詰めピーマン)はハンガリー風の味付けがされている。

また、ブルゲンラント州は良質の赤ワインが生産されていることでも有名である[55]

ケルンテン

ケルントナー・ヌードルン(カスヌードルン)

山野で獲れた鳥獣や川魚が料理の食材に使われる。折りたたんだ小さな小麦粉の生地に餡を詰めて茹でたカスヌードルン(Kasnudel)、シュトルーデルの一種ケルントナー・ラインドリング(Kärntner Reindling)がケルンテン州の郷土料理である。カスヌードルンの餡にはハムとベーコン、残り物の肉、マッシュルームとクヴァーク(Quark カッテージチーズの一種)などが使われるほか、黒いケシの種や干し梨などを詰めてデザートにする場合もある[56]

アルコール度数の高いリンゴ酒は、ケルンテンの名物[56]である。

ニーダーエスターライヒ

ニーダーエスターライヒ州の郷土料理は、ほぼウィーン料理と共通する[57]。チェコからの影響が濃く、特にデザートにチェコ料理に起源を持つものが多い[57]。代表的な料理に、キノコを使ったピルツグーラシュ(Pilzgulasch)、鹿肉ステーキヒルシュステーク・ザンクト・フーベルトゥス(Hirschsteak Sankt Hubertus)などがある。

ニーダーエスターライヒ州はオーストリア最大のワインの生産地でもあり、地元で消費される安価なワインが多く生産されている[58]

オーバーエスターライヒ

リンツァートルテ

オーバーエスターライヒ州の特色は、様々な素材が使われる多種のクネーデルである[2]。北部のミュールフィアテル地方は、特産品のジャガイモを使用した料理で名高い。州都リンツの名前を冠した菓子リンツァートルテが著名。

果実酒モストの特産地として知られているほか、隣接するドイツのバイエルン州の影響を受けて多くのビールが醸造されている[2]

ザルツブルク

ザルツブルガー・ノッケルン

ザルツブルク大司教の統治下で食文化が洗練され、各地から多くのものが料理の修行に訪れた[2]。現在でもザルツブルク州では洗練されたウィーン料理を食べることができる。しかし、ザルツブルクの郷土料理は特色が薄いと言われている[59]。代表的な料理はザルツブルガー・ビアブラーテン(Salzburger Bierbraten)、ザルツブルガーノッケルン(Salzburger Nockerln)など。シュマーレンやパラチンケンと同じく、ザルツブルガーノッケルンは昼食と夕食の主菜にもされる。山を覆う雪をホワイトチョコレートで表現したチョコレートケーキ、ザルツブルガートルテ(Salzburgertorte)も有名[60]

シュタイアーマルク

シュタイアーマルク州では、特産品のを利用した料理が多く提供されている。この地方では、濃い味付けのシチューが好まれている[56]。シュタイアーマルクの郷土料理には美味なズッペ(スープ)も多く、シュタイアーマルク出身のヴィルヘルム・フォン・テゲトフ将軍の名前を冠したテゲトフ・ズッペ(Tegethoff Suppe)などがある[56]。州都グラーツを中心に食文化が発展し、17世紀から多くの料理書が出版された[2]

特産品は西洋カボチャとカボチャの種から作るカボチャ油。シュタイアーマルク州で醸造されるビールは、オーストリア内で一番美味だと評価されている[55]

チロル

シュペッククネーデル

チロル州の郷土料理は、洗練された宮廷の料理と素朴な農民の料理から成り立っている[2]。チロル州の北部では典型的なオーストリア料理が食べられているが、南部にはイタリア料理の影響を受けた郷土料理が多く存在する[61]。チロルの人々はバウエルンシュペック(Bauernspeck)というベーコンに強い愛着を持ち[62]、これをクネーデルの材料としてシュペッククネーデル(Speckknödel)にすることもある。酪農が盛んなチロルでは、ベーコンなどの肉の加工製品のほかにチーズが郷土料理の食材として使われる[63]。強烈な臭みがあるガムス(Gams、シャモア)の肉もチロルの名物である[24]

16世紀にチロルを統治した大公フェルディナント2世の妻フィリッピーネ・ヴェルザーは、現存するヨーロッパ最古のレシピ集『フィリッピーネ・ヴェルザーの料理本』を著した[64]。「チロル風」の名前を冠する料理の多くは、フィリッピーネが考案したと言われている[64]


  1. ^ a b ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.11
  2. ^ a b c d e f g h オーストリアの代表的な料理(2013年3月閲覧)
  3. ^ a b c d ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.40
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  5. ^ a b c 真鍋「料理と酒」『オーストリア』、p.299
  6. ^ 『世界の食べもの』合本4巻、p.62
  7. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.10
  8. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、pp.13-14
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  13. ^ 関田『ハプスブルク プリンセスの宮廷菓子』、pp.70-71
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  21. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.47
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  30. ^ a b ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.51
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  39. ^ 真鍋「料理と酒」『オーストリア』、p.308
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  41. ^ 真鍋「料理と酒」『オーストリア』、p.307
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  44. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.170
  45. ^ コーヒー、ケーキ(2013年3月閲覧)
  46. ^ 関田『ハプスブルク プリンセスの宮廷菓子』、p.66
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  48. ^ 関田『ハプスブルク プリンセスの宮廷菓子』、p.47
  49. ^ a b c 真鍋「料理と酒」『オーストリア』、p.314
  50. ^ a b c d シモン『世界のワイン』、pp.387-389
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  53. ^ 渡辺『ビール大全』、pp.232-233
  54. ^ 真鍋「料理と酒」『オーストリア』、p.316
  55. ^ a b c d ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.70
  56. ^ a b c d ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.71
  57. ^ a b ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.69
  58. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、pp.69-70
  59. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.72
  60. ^ 吉田『チョコレート物語』、pp.26-27
  61. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.73
  62. ^ ウェクスバーグ『オーストリア ハンガリー料理』、p.76
  63. ^ チロル州観光局日本担当オフィス・オフィシャルホームページ(2013年3月閲覧)
  64. ^ a b 関田『ハプスブルク プリンセスの宮廷菓子』、p.61
  65. ^ 関田『ハプスブルク プリンセスの宮廷菓子』、pp.56-57
  66. ^ 関田『ハプスブルク プリンセスの宮廷菓子』、p.43
  67. ^ 関田『ハプスブルク プリンセスの宮廷菓子』、p.38





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