オルガン 概要

オルガン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/31 14:26 UTC 版)

概要

オルガンは鍵盤で操作される管楽器である。多数のパイプを発音体として備えるが、1本のパイプに異なる音高を発生させることはなく、各パイプの音高は固定的で、少なくとも鍵盤のすべての鍵に対応する数のパイプを持つ必要がある。基準音高や音色の違うパイプ群を複数備えていることが多く、その場合ストップと呼ばれる機構によって、発音するパイプ群を選択できるようにしている。

オルガンは安定して持続する音と、多彩な音色を持ち、これがオルガンならではの魅力となっている。しかしパイプに機械的な仕組で一定の空気を流して発音するために、一般の管楽器に比べて強弱や音色の変化を微細に行うことはできない。そのため、たとえばストラヴィンスキーは「呼吸をしない怪物」と評したことがある[注 1]。オルガン演奏における強弱表現は、ストップの切り替えや、複数の鍵盤の使い分け、スウェル・シャッターの使用などの他に、各音の持続時間の長短や、発音の終始速度の制御によって心理的に音の強弱をもたらすこともできる。

日本語の「オルガン」

学校のオルガン(二十四の瞳映画村

日本では単に「オルガン」と言った場合、学校などで使用されていた、足踏み式のリードオルガンのことを意味する場合もあり、パイプによるオルガンのことは、あえて区別して「パイプオルガン」と呼ぶことが多い。

一方、西欧の言語では、たとえば英: organ、独: Orgel、仏: orgue、伊: organo、西: órgano とだけ言った場合には、一般にパイプによるオルガンを指す。リードによるオルガンを指す場合は、英: reed organ などと明示的に呼ぶ必要がある。

なお、明治から昭和初期までの日本語では、オルガンの和訳「風琴(ふうきん)」が広く用いられた。なお日本語の「風琴」は、広義ではアコーディオンも含む。

(本節のオルガンに関する詳細は後述の「リード・オルガン族」を参照のこと)

歴史

ドイツのネニッヒの水オルガンを描いたモザイク(117年 - 138年)

ギリシャ語の "οργανον"(オルガノン)とは、本来は道具・器官のことを意味し、演奏するための組織的道具という意味で、楽器についてもこの言葉が適用されるようになった。後にこの言葉が、各言語でのオルガンという単語になっていった。現在も "organ" の語義は「機関」「器官」という意味である(en:Organを参照)。

起源

オルガンの起源は非常に古く、紀元前数世紀からオルガンの原形にあたる楽器の存在が認められる。これらは、「パンの笛」や「シリンクス」(en)などのように、複数の笛を束ねて吹くもので、中国や日本などの「」も同族の楽器と見なされる。

水オルガン

クテシビオスの水オルガン

紀元前264年にアレキサンドリアに住むクテシビオスが、水力によって空気を送り込み、手で弁を開閉させることによって音を出す楽器「水オルガン」(ヒュドラウリス (Hydraulis)(en))を製作したことが記録に残っている。水オルガンは青銅と木でできており、大理石でできた円筒状の基礎に乗っていた。大理石の中には貯水槽とピストンが備えつけてあり、圧縮空気を上部のパイプに送り出した。外見はパンパイプを機械化し、直立させたものに近い。これをアレキサンドリアのヘロンローマ人建築家ウィトルウィウスが改良し、地中海地方に水オルガンは普及した[1]

水オルガン奏者たちは演奏会で腕を競いはじめ、デルフォイの演奏会ではアンティパトロスという奏者が、丸2日間休むことなく演奏を続けて栄光を勝ち取った。結婚式、競技場、宣誓就任式、晩餐会、劇場などでも水オルガンが演奏された。水オルガンの奏者は女性が多かったが、剣闘士の試合などでは男性が演奏したことがわかっている。また、ネロ帝も水オルガンを好んで演奏した。水オルガンはローマ帝国の勢力が衰えるにつれて地中海地方では衰退したが、ビザンティン帝国では宮廷の儀式用に用いられ続けた(続テオファネス年代記には、皇帝テオフィロスが宝石がちりばめた黄金製オルガン2つと、60個のブロンズ製のパイプをもつオルガン1つを作らせたとの記載がある)。一方、アラビアにも伝播して改良が重ねられていった。

古代の水オルガンの遺物の出土例

ギリシアのピエリア県ディオン村英語版には、ヘレニズム時代の都市ディオンの古代遺跡が残り、同村にあるディオン考古学博物館英語版に出土した1世紀の水オルガンが展示されている。

ディオン考古学博物館英語版に展示されている1世紀の水オルガン

ハンガリーの首都ブダペスト市内にある古代ローマ都市アクィンクム遺跡でも水オルガンが出土しており、復元品がアクィンクム博物館に展示されている。

ふいごによるオルガン

紀元前1世紀はじめ、水オルガンとは仕組みの異なるふいごによるオルガンが出現していることが確認されている。ふいごを用いる改良は、オルガンにとって大きな進化となった。音を途切れさせないためには複数のふいごを設置することでそれを防いでいた。

中世

9世紀に、ヨーロッパでオルガン製作が再び始まるようになった。当初は宗教とは特に関係はなかったが、13世紀には教会の楽器としても確立された。一方で、世俗にも比較的小型の楽器が普及した[2]

ルネサンス

15世紀後半から16世紀のルネサンス時代には、ストップの多様な組み合わせによって音色の変化が効果的に用いられるようになった。現在のほぼすべてのオルガンに採用されている「スライダー・チェスト」が発明されたのはこの時代で、スライダーを用いてストップを選択するという方式が定着していった[3]。オルガンが日本に伝来したのはこの時期で、1581年に高山右近統治下の高槻の教会に設置されたパイプオルガンが日本で最初とされる[4]

バロック

17世紀から18世紀前半のバロック時代はオルガン文化の全盛期にあたる。特に北ドイツでは、新教が大オルガンを建造することを競い始めるようになり、巨大化が加速された。オルガン建造家として現在も伝説の巨匠とされるアルプ・シュニットガー[5]ジルバーマン兄弟もこの時代に活躍した。世間にも広まった時期で、新興階級の部屋に置かれることもあった。

シンフォニック/ロマンティック・オルガン

19世紀から20世紀初頭には、多様な8'の音色による交響楽的な設計のオルガンが作られ「シンフォニック・オルガン」や「ロマンティック・オルガン」と呼ばれる。作曲家たちの間ではオルガン・ソロのための交響曲を書くことが流行したことからも、この時代のオルガンがどのような傾向を持っていたかが窺える。建造家としてはアリスティド・カヴァイエ=コルが特に有名である[6]

ネオバロック・オルガン

20世紀にドイツに起こった「オルガン運動」によって古い時代のオルガンが見直されるようになり、バロック時代のオルガンを模倣した「ネオバロック・オルガン」が数多く造り出された[7]。しかし、当時は過去のオルガンに関する研究が不十分であり、歴史的オルガンの修復にあたって多くの過ちを犯した。

現在は、古い時代のオルガン建造技術が尊重され、歴史的楽器の本来の音に近づくために、より慎重な修復や複製が行われるようになっている。


注釈

  1. ^ 詩篇交響曲』の曲目解説において、オルガンでなく管楽器を使った理由として述べられたもの。後の『カンティクム・サクルム』ではオルガンを使用している。Igor Stravinsky; Robert Craft (1982) [1961]. Dialogues. University of California Press. p. 46. ISBN 0520046501 

出典

  1. ^ a b 鳴るほど 楽器解体全書 パイプオルガン誕生ストーリー ヤマハ株式会社
  2. ^ オースティン・ナイランド 1988年、112-117頁。
  3. ^ オースティン・ナイランド 1988年、117-119頁。
  4. ^ 北國新聞朝刊 加賀百万石異聞・高山右近(4)2002/02/05付(2020年5月7日閲覧)
  5. ^ オースティン・ナイランド 1988年、119-134頁。
  6. ^ オースティン・ナイランド 1988年、146-150頁。
  7. ^ オースティン・ナイランド 1988年、150-152頁。
  8. ^ オースティン・ナイランド 1988年、36-51頁。
  9. ^ 鳴るほど 楽器解体全書 スライダーと風箱 ヤマハ株式会社
  10. ^ オースティン・ナイランド 1988年、26-27頁。
  11. ^ 参考図
  12. ^ オースティン・ナイランド 1988年、21頁。
  13. ^ オースティン・ナイランド 1988年、94頁。
  14. ^ オースティン・ナイランド 1988年、106-108頁。
  15. ^ オースティン・ナイランド 1988年、108頁。
  16. ^ 『日本全国諸会社役員録. 明治41年』(国立国会図書館近代デジタルライブラリー)






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