オオカミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/15 16:43 UTC 版)
形態
大きさは亜種、地域によって異なる。体胴長100 - 160cm、肩までの体高60 - 90cm、体重は25 - 50kg。大きい個体では50kgを超えるものもいるが、雄でも54キロを超えるのは稀である。一般に雌は雄の体重より10 - 20パーセント程度小さい。現生のイヌ科のなかで最大。高緯度ほど大きくなる傾向がある(ベルクマンの法則)。記録上では1938年アラスカで捕獲された体重79.3kgの雄、ユーラシア大陸ではウクライナで殺された 86キログラムのものが最大としている。体色は灰褐色が多く、個体により白から黒まである。子供の時期は体色が濃い。北極圏に住む亜種はより白い。体毛は二層に分かれ保温や防水に優れ、夏毛と冬毛がある。又、姿勢においては頭部の位置がイヌに比べて低く、頭部から背中にかけては地面に対して水平である。
歯式は3/3·1/1·4/4·2/3 = 42で、上顎には6本の門歯、2本の犬歯、8本の小臼歯、および4本の大臼歯があり、下顎には6本の門歯、2本の犬歯、8本の小臼歯、および6本の大臼歯を持ち、何れもイヌより大きく丈夫である。頭から鼻にかけての頭骨のラインはイヌより滑らかで、イヌよりも顎の筋肉量が多く、頬骨の位置が高いため、イヌと比較して吊り目になっている。又、尾の付け根上部にスミレ腺を持つ。
生態
オオカミは雌雄のペアを中心とした平均4 ~ 8頭ほどの社会的な群れ(パック)を形成する。群れはそれぞれ縄張りを持ち、広さは食物量に影響され100 ~ 1000平方キロメートルに及ぶ。
群れと順位
群れは雌雄別の順位制を伴い、通常は繁殖ペアが最上位であるが、順位交代もする。最上位から順にアルファ、ベータと呼び、最下位の個体をオメガと呼ぶ。順位は常に儀式的に確認しあい維持される。群れはたいてい繁殖ペアの子孫や兄弟で血縁関係にあることが多い。他の群れを出た個体が混ざることもある。狼の群れの頭数は最多で42頭にもなったという記録があるものの、平均して概ね3-11頭の間である。しかし、大規模な群れでも主に仕事を行うのはペアであり、最も効率が良いのはペアの狼とされている。
狩り

オオカミは肉食で、シカ、イノシシ、野生のヒツジやヤギ、バイソンなどの有蹄類、ウサギ・齧歯類などの小動物を狩る。餌が少ないと人間の生活圏で家畜や残飯を食べたりする。シカなどの大きな獲物を狩る時は群れで行動して健康体を狩る場合もあるが、通常は長時間の追跡を行い獲物の群れのうち弱い個体(病気、高齢、幼体)を捕まえることが多い。捕らえた獲物を先に食べるのは上位の個体である。
カナダ太平洋岸のブリティッシュコロンビア州ではサケを捕食していることが糞サンプルで判明しているほか、サケが遡上しないその沖合の離島では海岸付近の甲殻類やニシンの卵、漂着したクジラの死骸などを餌としている[3]。
最高速度の時速70キロメートル[4]なら20分間、時速30キロメートル前後なら7時間以上獲物を追い回す事ができる。追いかける途中で諦める事が多く、リカオン などと比べると諦めやすい性格といえる。狩猟成功率は生息密度や環境に左右される。アラスカのデナリ国立公園で1977年にカリブーを仕留めようと追いかけた回数が16回であり、そのうち殺したのが9頭で成功率は56%という報告例がある。1972年にオンタリオ[どこ?]では35回獲物に狙いを定めそのうちの16頭の鹿を殺す事に成功している所が観察された。
繁殖
- 繁殖は一夫一妻型で群れの最上位のペアのみが行うが、例外的に他の個体が繁殖することもある。交尾 は一般に1月~3月頃に行われる。妊娠期間は60 - 63日、平均4 - 6頭の子を産む。雌は巣穴を作りそこで子育てを行う。父親や群れの仲間も子育てを手伝う。
- 子は目が開くのは12 - 14日で、20 - 24日経って動き回るようになり、20 - 77日の間で群れを認識する社会性が育ち離乳する。固形食は大人が吐き戻して与える。8週ほどで巣穴を離れるようになる。
- 子は1年も経てば成体と同じ大きさになるが、性的に成熟するには2年ほどかかる。成熟したオオカミは群れに残るか、群れを出て新たな場所に移り、配偶者を見つけ(この過程で1匹になることを一匹狼という)、新たな群れを形成する。
コミュニケーション

オオカミはボディランゲージ、表情、遠吠えなどで群れの内外とコミュニケーションを取る。表情やしぐさは群れの順位を確認する際に良く使われる。
遠吠えは、群れの仲間との連絡、狩りの前触れ、縄張りの主張などの目的で行われ、吠え方が異なるといわれる。合唱のように共同で遠吠えすることもある。
なお幼少時には驚いた時などに鳴くことがある(「キャンキャン」など)。成長すると通常は吠えたり鳴いたりすることはない(遠吠えを除く)。
寿命
飼育下での平均寿命は15年ほどである。動物園で20年生きた記録がある。野生では、他の動物と同様に幼齢時の死亡率が高いが、成熟個体は5 - 10年ほど生き、時には10年以上生きる個体もいる。
化石記録
オオカミに限らず古代の脊椎動物の化石出土はまれであり、断片的な情報や形態学的な分析から類推することが常であるため、研究者間でも見解が異なることがままある[5]。およそ6500万年前に起こった白亜紀と古第三紀の間の大量絶滅は恐竜種の絶滅と肉食哺乳類の出現をもたらした[6]:p.8。主として昆虫を捕食するアードウルフのような種を除き、これらの種は肉を裂き骨を砕くためのエナメル質の裂肉歯を持ち、長い期間をかけて環境に適合するよう進化してきた。イヌ科とネコ科の肉食動物の祖先はおよそ恐竜が滅んだ直後に誕生し、別々の進化を遂げてきたが、イヌ科の最初の仲間が登場するのはおよそ4000万年前のことである[6]:p.16。オオカミは150万年前ごろに、その初期の小型のイヌ科動物の集団から発生したと考えられており[7]:p.241、形態学的、遺伝子的、化石標本上の類推からもコヨーテと同じ祖先から進化したことを示唆している[7]:p.239。ジャッカルをはじめとするイヌ属の祖先とはこれよりも前に分岐していたと考えられている[7]:p.240。
注釈
出典
- ^ Boitani, L., Phillips, M. & Jhala, Y. 2018. Canis lupus (errata version published in 2020). The IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T3746A163508960. doi:10.2305/IUCN.UK.2018-2.RLTS.T3746A163508960.en. Downloaded on 10 April 2020.
- ^ 今泉忠明『絶滅野生動物事典』(KADOKAWA<角川ソフィア文庫>、2020年)ISBN 978-4-04-400527-6)p.85
- ^ 「海辺のオオカミ」『ナショナルジオグラフィック日本版』2015年10月号
- ^ 今泉忠明 『野生イヌの百科』〈動物百科〉(第2版)データハウス、2007年、15頁。ISBN 9784887189157。
- ^ Sardella, Raffaele; Bertè, Davide; Iurino, Dawid Adam; Cherin, Marco; Tagliacozzo, Antonio (2014). “The wolf from Grotta Romanelli (Apulia, Italy) and its implications in the evolutionary history of Canis lupus in the Late Pleistocene of Southern Italy”. Quaternary International 328–329: 179–195. Bibcode: 2014QuInt.328..179S. doi:10.1016/j.quaint.2013.11.016.
- ^ a b Wang, Xiaoming; Tedford, Richard H. (2008). Dogs: Their Fossil Relatives and Evolutionary History. Columbia University Press, New York. pp. 1–232. ISBN 978-0-231-13529-0. OCLC 502410693
- ^ a b c R.M. Nowak (2003). “Chapter 9 - Wolf evolution and taxonomy”. In Mech, L. David; Boitani, Luigi. Wolves: Behaviour, Ecology and Conservation. University of Chicago Press. pp. 239–258. ISBN 978-0-226-51696-7
- ^ 吉行瑞子、今泉吉典「福井城内で射殺されたニホンオオカミ」『ANIMATE』第4巻、農大動物研究会、2003年、2019年5月6日閲覧。
- ^ a b “最後のニホンオオカミ 福井市(6)”. マイタウン福井 (朝日新聞社). (2007年1月9日). オリジナルの2007年10月6日時点におけるアーカイブ。
- ^ “Canis lupus hodophilax, Japanese wolf”. Natural History Museum Picture Library. The Trustees of the Natural History Museum, London. 2016年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年5月6日閲覧。
- ^ オオカミ、エゾオオカミ、狼 - アイヌと自然デジタル図鑑
- ^ ベヤリング・グウルド 著、今泉忠義 訳 『民俗学の話』〈角川文庫〉角川書店、1955年、43頁。
- ^ 佐久市志編纂委員会編纂『佐久市志 民俗編 下』(佐久市志刊行会、1990年)1119ページ
- ^ Uno Harva: Die religiösen Vorstellungen der altaischen Völker. FF Communications N:o 125. Suomalainen Tiedeakatemia, Helsinki 1938, S. 473
- ^ Im Führerhauptquartier (FHQ)
- ^ 『狼群作戦の黄昏』朝日ソノラマ新戦史シリーズ
- ^ 緑黄色社会、新曲「Mela!」が玉城ティナ出演"パルティ カラーリングミルク"CM曲に決定&先行配信スタート。クリエイター8名によるMVも本日4/13プレミア公開 Skream! 劇ロックエンタテインメント 2020年4月13日
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