エルニーニョ・南方振動
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エルニーニョ・南方振動(ENSO)の発見
1903年にインド気象局の長官に指名されたイギリスの数理物理学者ギルバート・ウォーカーは、ちょうど整備され始めた世界各国の長期間の気象データと得意の統計学を用いて、「気象要素相互の時空間的な相関関係を使ってインドモンスーンの予兆を探る」という研究に取り組んだ[26]。彼はスタッフを総動員して膨大なデータ同士の相関計算に取り組み、その相関関係から1928年に発表した3つの大気振動の一つが「南方振動(Southern Oscillation: SO)」だった[26]。ちなみに残りの二つは「北太平洋振動」と「北大西洋振動」である。一方で、1925 - 1926年に強いエルニーニョが起こった際に、たまたま研究のためにペルーを訪れていたアメリカの鳥類学者で自然保護主義者だったロバート・マーフィーは、この影響を広く調査するために南米に気候のための観測網を設立して気象観測を始めた[27]。
当初大気の南方振動と海洋のエルニーニョは、それぞれ大気と海洋の独立した現象と思われていた。ところがこの両者が関連していることを明らかにしたのが、インドネシアのジャカルタにあるオランダ東インド王立磁気気象観測所に勤めていた気象学者ヘンドリク・ベルラーヘ[28]である[29]。同観測所では南方振動に関する研究を行っており、ベルラーヘは1926年に東京で開催された第3回太平洋学術会議で発表されたマーフィーの南アメリカ西部での気候観測の結果を手に入れた。彼はこの二つの結果を突き合わせて、大気現象の南方振動と海洋現象のエルニーニョに高い相関があることを発見し、1957年に初めて両者が関連していることを発表した [30]。これがENSOの発見とされている[29]。
なお、このメカニズムを解明したのはアメリカUCLAの教授だったヤコブ・ビヤクネスである。彼は国際地球観測年(IGY)など観測された海洋のデータを解析し、エルニーニョ時のペルー沖の海面の異常昇温は、貿易風が弱まるのにともなってペルー沖の海洋深層からの冷たい赤道湧昇が止まることで起こるというメカニズムを発表した。ヤコブ・ビヤクネスは海面温度の東西傾度による大気の東西循環がウォーカーによって示された南方振動の主要なメカニズムであったことから、1969年にこの熱帯域の東西方向の大気循環を「ウォーカー循環」と名づけた。
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