イージス艦 装備

イージス艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/09 00:32 UTC 版)

装備

イージス武器システム (AWS)

艦対空ミサイルを連続発射するアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦

イージス武器システム(AEGIS Weapon System, AWS)は、イージス艦のイージス艦たる所以であって、その戦闘システムの中核である[15]。開発は、アメリカ海軍のウィシントン提督、マイヤー提督の指導のもと、RCA社のレーダー部門(現ロッキード・マーティン)によって行われた[16]。また継続的な改良を受けており、多数のベースライン(バージョン)が生じている[17]

イージス・システムのなかでは、レーダーなどのセンサー・システム、コンピュータデータ・リンクによる情報システム艦対空ミサイルとその発射機などの攻撃システムなどが連結されている。これによって、防空に限らず、戦闘のあらゆる局面において、目標の捜索から識別、判断から攻撃に至るまでを、迅速に行なうことができる[15]

SPY-1はイージスシステムの中核となるレーダーで、八角形のパッシブ・フェーズドアレイ・アンテナが4枚、四方に向けて艦の上部構造物に固定されている外見は、イージス艦の特徴ともなっている。動作周波数はSバンド、最大探知距離324キロ以上、200個以上の目標を同時追尾可能であり[18]、目標を探知するだけでなく、捜索中追尾能力による火器管制レーダーとしての機能も有する多機能レーダーである[注 1]。このように、きわめて優秀な情報能力をもっていることから、情勢をはるかにすばやく分析できるほか、レーダーの特性上、電子妨害への耐性も強いという特長もある[2]

艦対空ミサイルとしてはSM-2を採用している。これはスタンダードミサイルの改良型であり、セミアクティブ・レーダー・ホーミング(SARH)誘導ではあるが、上記の通り、多機能レーダーであるSPY-1が目標追尾の大部分を担当することから、同時に多数(10個以上)の目標と交戦することができる。またベースライン9からは、アクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)誘導のSM-6にも対応した[17]。ミサイル発射機としては、最初期は連装式のMk.26が用いられていたが、まもなく垂直発射式のMk.41が使われるようになり、即応性や速射能力などが向上しているほか、巡航ミサイルなどの発射にも対応した[19]

さらに近年、イージスシステムはミサイル防衛任務にも対応できるように改修されつつある。ミサイル防衛は極めて困難な任務であるため、従来のAWSとは別に、イージスBMDシステムとして漸進的に開発が進められてきたが、AWSベースライン9ではイージスBMD5.0システムが統合された。弾道弾迎撃ミサイルとしてはSM-3が用いられてきたほか、上記のSM-6も、弾着間際で迎撃するための短距離弾道弾迎撃(SBT)用として用いることができる[20]

イージス戦闘システム (ACS)

イージス艦においては、防空用のAWSを中核として、対潜戦・対水上戦・対地火力投射などの各種戦に対応できる様々なシステムが接続され、ひとつの高度なシステム艦として構築されている。このことから、イージス艦が搭載する戦闘システム全体を指してイージス戦闘システム(AEGIS Combat System, ACS)と総称する[19]。このような高度なシステム構築が実現した背景には、イージス計画のプログラム・マネージャーであったウェイン・E・マイヤー大佐(計画途中で少将に昇進)がそのまま建艦計画の権限を握るという、リーダーシップの一貫性があった[21]

AWSの核心であるSPY-1レーダーの多機能性と、ACSの要であるVLSの複合戦対応性とがあわさることで、ACSは複合機能・複合戦闘システムと称するべきものとなった。アメリカ海軍のイージス艦の場合、防御用のAWSとともに、攻撃用のトマホーク武器システム(TWS)が搭載され、戦闘力の二本柱となっている[19]

この結果、(AWSが得意とする)防空以外の各種戦についても特に弱体ということはなく、例えばAN/SQQ-89統合対潜戦システムと哨戒ヘリコプターを兼ね備えたアーレイ・バーク級フライトIIAについては、2010年代の時点で世界最高の対潜艦であると評されている[22]


注釈

  1. ^ ミサイルが目標に命中する直前の電波ビーム照射だけは、Mk.99 ミサイル射撃指揮装置のAN/SPG-62レーダーによって行っている[15]
  2. ^ 実際のアドミラル・ゴルシコフ級はイージスシステムを搭載していないのでイージス艦ではない。

出典

  1. ^ 柿谷 2009, p. 36.
  2. ^ a b c 藤木 2006.
  3. ^ Friedman 2004, pp. 219–225.
  4. ^ a b c Friedman 2004, pp. 342–347.
  5. ^ Friedman 2004, pp. 320–322.
  6. ^ Friedman 2004, pp. 411–425.
  7. ^ 柿谷 2009, p. 48.
  8. ^ a b c d 海人社 2006.
  9. ^ a b c d e 大塚 2016.
  10. ^ “最新鋭「はぐろ」就役 イージス艦8隻整う―海自”. JIJI.COM (時事通信社). (2021年3月19日). https://web.archive.org/web/20210319032949/https://www.jiji.com/jc/article?k=2021031900220&g=soc 2021年5月10日閲覧。 
  11. ^ 成沢解語; 松山尚幹; 西尾邦明『イージス・システム搭載艦の小型化検討 「当初案は令和の戦艦大和」』2022年11月18日https://www.asahi.com/articles/ASQCK669PQCBUTFK01Q.html 
  12. ^ 防衛省『防衛力整備計画』2022年12月https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/plan/pdf/plan.pdf 
  13. ^ 大塚 2021.
  14. ^ Xavier Vavasseur (2020年5月19日). “Final Air Warfare Destroyer ‘HMAS Sydney’ Commissioned In The Royal Australian Navy”. NavalNews. https://www.navalnews.com/naval-news/2020/05/final-air-warfare-destroyer-hmas-sydney-commissioned-in-the-royal-australian-navy/ 
  15. ^ a b c 大熊 2006, pp. 36–57.
  16. ^ 大熊 2006, pp. 323–329.
  17. ^ a b 山崎 2016.
  18. ^ Friedman 1997, pp. 374–375.
  19. ^ a b c 大熊 2006, pp. 58–61.
  20. ^ 能勢 2016.
  21. ^ 大熊 2006, pp. 98–112.
  22. ^ 香田 2012.
  23. ^ 野木 2008.
  24. ^ AC04Web PDFアーカイブ” (PDF). バンダイナムコエンターテインメント. p. 6-8. 2022年7月23日閲覧。






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