インフレーション 対策

インフレーション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/21 02:39 UTC 版)

対策

インフレの阻止や解消のため様々な対策が行われている。

  • 中央銀行の政策金利の引き上げ
    • 金利の引き上げによる通貨高[42]
  • 中央銀行の公開市場操作による資金吸収オペレーション
  • 中央銀行の預金準備率引き上げ操作
  • 中央銀行の新通貨発行と預金封鎖にともなう新通貨への切り替え
  • 政府が財政支出を削減
  • 政府が増税をして消費を抑える
  • インフレターゲット(物価水準目標)

インフレーションのアレゴリー幕末、1868年より前)

世界最古

記録に残る世界最古のインフレーションはマケドニア王国アレクサンドロス3世の死去直後、紀元前323年のことであると言われている[43]マサチューセッツ工科大学教授ピーター・テミンの研究によると、当時のバビロニアには既に市場経済があり、農産物の供給不足などに対してアケメネス朝など征服地から接収してもたらされた過剰な財宝(主に銀)の在庫がある中で、大王の死によって人々の不安感が増大したことが引き金となって、インフレーションが発生した[43]

古代ローマ

軍人皇帝時代の古代ローマでは兵士への給与を増やす必要に迫られ銀貨の改悪を繰り返した結果、インフレーションが起こり市民生活に影響が出てていた。ディオクレティアヌスは通貨改革を敢行したが効果が無かったため、301年に物品やサービスの最高価格を定めた勅令『最高価格令』を出した。これらは実施された形跡が無く効果は薄かったとされるが、日用品の価格や各職業の給与が詳細に定められており、現代では貴重な歴史資料となっている[44]

価格革命

フランシスコ・ピサロによるインカ帝国征服後、ポトシ銀山などから大量の金銀がスペインに運ばれた。1521年から1660年までの間にスペインに運ばれた金銀の量は金200トン、銀1.8万トンと言われる。これらの金銀は主に貨幣となったため、欧州全域で貨幣価値が3分の1になった。つまり物価が3倍になるインフレが起こったわけで、これを「価格革命」と言った。貨幣供給により商工業の発展が起こり、地代の減少のために封建領主層が没落するなどの社会的変化をもたらした。

ロシア革命

ロシア革命後にウラジーミル・レーニン率いるボリシェヴィキ政権が誕生したが、共産主義化のための諸政策(穀物の強制徴発・産業の国有化等)で、ロシアはハイパーインフレに陥り、ルーブルの価値は第一次世界大戦前の500億分の1になった[45]ソビエト初期のハイパーインフレ英語版も参照)。経済学者ジョン・メイナード・ケインズによれば、レーニンはこのインフレについて「資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ。政府はインフレを継続することで、密かに、気づかれることなく、国民の富のうち、かなりの部分を没収できる。」と述べたという[46]。その後ルーブルは、1924年4月までに3回のデノミが行われ、ロシアのインフレは沈静化した[45]

局地的

国単位でのインフレの他に、地域単位、都市単位でインフレ現象が起きることがある。

1324年、メッカ巡礼に向かったマンサ・ムーサは、富を知らしめるために道中のカイロで黄金をばら撒いたことから金相場が暴落し、10年以上の間エジプト周辺でインフレーションが続いたといわれる[47][48]。12年後の記述では、エジプトでの金の価格は1ミスカール英語版(4.25グラム)の金は25ディルハム以上であったが、マンサ・ムーサが訪れてからは下落し、1ミスカルの金は22ディルハムを下回ったとされる[48]

現代的に問題になっているのは、国際連合平和維持活動(Peace-Keeping Operations:PKO)に伴うインフレーションである[要出典]。紛争地域の停戦後、平和維持のために派遣される各国の部隊は、経済が疲弊している所に急に現れる富裕層と同じである。そのため、駐屯地の周辺では、部隊が調達する生活物資・食料品を中心に価格上昇が起きてインフレとなり、紛争で困窮した周辺住民の生活を圧迫する。対策として部隊員の駐屯地外での購買活動抑制が行われており、PKO部隊は価格維持活動(Price Keeping Operation)も同時に行っていることになる。

日本では、明治以降の資本主義経済化の下で局地的なインフレが見られた。農業地域や未開拓地域(北海道)に工業鉱業・巨大物流施設(港湾)が出来ると、急激な資本投下と人口の急増(都市化)とが発生し、生活物資の必要から局地的なインフレが起きた。そのため、物価安定を目的に日本銀行の支店や出張所が置かれた。日銀の支店・出張所の開設場所や開設時期は、その地域での経済活動に伴う局地的インフレ懸念と密接に関係している[要出典]

期待インフレ率

期待インフレ率(予想インフレ率)やブレーク・イーブン・インフレ率(損益分岐インフレ率)に関しては期待インフレ率を参照。


注釈

  1. ^ ただし伊藤はCagan(1956)によるハイパーインフレーションの定義に依拠せずに「ハイパー・インフレ」と記述していることに注意。

出典

  1. ^ Wyplosz & Burda 1997 (Glossary)
  2. ^ Blanchard 2000 (Glossary)
  3. ^ Barro 1997 (Glossary)
  4. ^ Abel & Bernanke 1995 (Glossary)
  5. ^ Why price stability? Archived October 14, 2008, at the Wayback Machine., Central Bank of Iceland, Accessed on September 11, 2008.
  6. ^ Paul H. Walgenbach, Norman E. Dittrich and Ernest I. Hanson, (1973), Financial Accounting, New York: Harcourt Brace Javonovich, Inc. Page 429. "The Measuring Unit principle: The unit of measure in accounting shall be the base money unit of the most relevant currency. This principle also assumes that the unit of measure is stable; that is, changes in its general purchasing power are not considered sufficiently important to require adjustments to the basic financial statements."
  7. ^ Robert Barro and Vittorio Grilli (1994), European Macroeconomics, Ch. 8, p. 139, Fig. 8.1. Macmillan, ISBN 0-333-57764-7.
  8. ^ MZM velocity”. 2014年9月13日閲覧。
  9. ^ Mankiw 2002, pp. 81–107
  10. ^ Abel & Bernanke 2005, pp. 266–269
  11. ^ Hummel, Jeffrey Rogers. "Death and Taxes, Including Inflation: the Public versus Economists" (January 2007). p. 56
  12. ^ 戦後ハイパー・インフレと中央銀行 伊藤正直、Discussion Paper No. 2002-J-35、p.1(1.はじめに)、日本銀行金融研究所、2002年11月
  13. ^ 三橋貴明 『高校生でもわかる日本経済のすごさ!』 彩図社、2009年、65頁。
  14. ^ 三和総合研究所編 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、258頁。
  15. ^ a b c 政治・社会 【日本の解き方】岩田日銀副総裁の本音を読む 財政政策求めるメッセージかZAKZAK 2014年5月31日
  16. ^ 森永卓郎 『「騙されない!」ための経済学 モリタク流・経済ニュースのウラ読み術』 PHP研究所〈PHPビジネス新書〉、2008年、96頁。
  17. ^ [1][2]
  18. ^ 「財政赤字の問題点について」[3] P.2、「デフレ、不良債権問題と金融政策」深尾光洋(財務省財務総合政策研究所2002.8)[4] P.40
  19. ^ Cinii文献情報[5]
  20. ^ 吉田賢一, 「為替相場の「名目的」変動の購買力平価説:「外国為替相場変動の二重性」再論」『經濟學研究』 46巻 1号 p.53-68 1996年, 北海道大学經濟學部, ISSN 0451-6265
  21. ^ 吉田賢一, 「金解禁(昭和5~6年)の歴史的意義:井上準之助の緊縮財政政策」『經濟學研究』 38巻 3号 p.47-78 1988年, 北海道大学經濟學部, ISSN 0451-6265
  22. ^ 藤沢正也, 「インフレーションのマネタリイファクター : ハロッドのインフレ対策論をめぐって」『商学討究』 10巻 3号 p.1-30 1960年, 小樽商科大学, ISSN 04748638
  23. ^ a b スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、113頁。
  24. ^ 浜田宏一・内閣官房参与 核心インタビュー 「アベノミクスがもたらす金融政策の大転換 インフレ目標と日銀法改正で日本経済を取り戻す」 ダイヤモンド・オンライン 2013年1月20日
  25. ^ 「白川総裁は誠実だったが、国民を苦しめた」 浜田宏一 イェール大学名誉教授独占インタビュー 東洋経済オンライン 2013年2月8日
  26. ^ 高橋洋一の俗論を撃つ! 現在のインフレは金融政策の効果 懸念は1997年型に近づく消費税増税の影響ダイヤモンド・オンライン 2014年5月29日
  27. ^ スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、330頁。
  28. ^ スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、331頁。
  29. ^ a b 大型増税で個人消費は落ち込む--総需要安定化政策を徹底すべき / 村上尚己 / エコノミストSYNODOS -シノドス- 2014年8月12日
  30. ^ 原田泰・大和総研 『新社会人に効く日本経済入門』 毎日新聞社〈毎日ビジネスブックス〉、2009年、126頁。
  31. ^ 原田泰・大和総研 『新社会人に効く日本経済入門』 毎日新聞社〈毎日ビジネスブックス〉、2009年、134頁。
  32. ^ 経済学者伊東光晴氏「聞きかじりだから安倍首相は嘘をつく」日刊ゲンダイ 2014年8月10日
  33. ^ スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、114頁。
  34. ^ 岩田規久男 『日本経済にいま何が起きているのか』 東洋経済新報社、2005年、40頁。
  35. ^ 岩田規久男 『景気ってなんだろう』 筑摩書房〈ちくまプリマー新書〉、2008年、153頁。
  36. ^ 岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、168頁。
  37. ^ 高橋洋一 『日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える』 光文社〈光文社新書〉、2010年、55頁。
  38. ^ 竹中平蔵 『竹中先生、経済ってなんですか?』 ナレッジフォア、2008年、76頁。
  39. ^ 竹中平蔵 『あしたの経済学』 幻冬舎、2003年、81頁。
  40. ^ 日銀新総裁はゼロ金利に復帰を PHPビジネスオンライン 衆知 2008年5月8日
  41. ^ ジョセフ・スティグリッツ教授 特別寄稿 「もう同じ過ちは繰り返すな! 2009年に得た厳しい教訓」 ダイヤモンド・オンライン 2010年1月5日
  42. ^ 円高なくして成長なし PHPビジネスオンライン 衆知 2008年9月16日
  43. ^ a b Roger Dobson (2002年1月27日). “How Alexander caused a great Babylon inflation”. インデペンデント. https://www.independent.co.uk/news/world/europe/how-alexander-caused-a-great-babylon-inflation-9213402.html 2019年3月28日閲覧。 
  44. ^ *本村凌二『教養としての「ローマ史」の読み方』PHP研究所、2018年。  p300
  45. ^ a b 冨田俊基『国債の歴史 金利に凝縮された過去と未来』2006年 P.310
  46. ^ ジョン・メイナード・ケインズ 山岡洋一訳『ケインズ 説得論集』「インフレーション(1919年)」2021年
  47. ^ クーリエ・ジャポン,2013年3月号,P13
  48. ^ a b 内藤 2013, pp. 11–15.






インフレーションと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「インフレーション」の関連用語

インフレーションのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



インフレーションのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのインフレーション (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS