インドラ 概説

インドラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/30 09:28 UTC 版)

概説

インドラ神のルーツは古く、インド=イラン共通時代までさかのぼる軍神であり、紀元前14世紀にヒッタイトミタンニとの間で結ばれた条文の中に名前がある[2][3]ことから、アーリア人の移動とともに小アジアやメソポタミアなどでも信仰されていたであったことが確認されている[4]

雷霆神の性格が強く、その容姿は皮膚も髪も髭も茶褐色だとされる[5]ギリシア神話ゼウス北欧神話トールスラヴ神話ペルーンと比較される。

彼が戦った敵は多く、人々を苦しめる凶暴にして尊大な蛇ヴリトラ[注釈 4]、トヴァシュトリ神の生み出した3つの頭を持つ怪物ヴィシュヴァルーパ英語版や、ヴァラ(洞窟)、ナムチダーナヴァヴィローチャナマハーバリメーガナーダといったアスララークシャサと戦った。

特にヴリトラとの戦いは、アーリヤ人と異民族の戦闘、天地開闢神話、川の塞き止めや旱魃・冬の象徴であるヴリトラを打ち破ることで大地に水の恵みをもたらす現象など、様々な意味を持つという[7]。インドラとヴリトラの戦いは、イランの『アヴェスター』におけるスラエータオナアジ・ダハーカとの戦いに対応しているとされる[8]。またヴィシュヴァルーパとの戦いについて、『リグ・ヴェーダ』ではインドラは神トリタ英語版 (Trita) に命じてヴィシュヴァルーパを殺害させている。トリタは、インドラが犯すはずの罪などを彼に代わって負う役割の神とも考えられている[9]。またトリタは、『アヴェスター』で3つの頭を持つアジ・ダハーカを殺害するスリタ(Θrita/Thrita。『ヤスナ』9・10。すなわちスラエータオナ (Θraētaona/Thraetaona))に対応している[9][8][注釈 5]

時代を経るとインドではデーヴァ(神々)の王とされ、イラン(ゾロアスター教)ではダエーワ(悪魔)とされた。(後述)

所有物

アイラーヴァタという聖獣の白象をヴァーハナに持つ。また、7つの頭を持った空を飛ぶ馬ウッチャイヒシュラヴァスもインドラのヴァーハナとされ、その御者はマータリという[10]

工巧神トヴァシュトリの造った雷を象徴する武器「ヴァジュラ(Vajra、金剛杵)[注釈 6]を持つ。『マハーバーラタ』では、自らの槍(固有名詞なし)をカルナに高潔さへの対価として与える。

インドラの都はアマーラヴァティーといい、その宮殿ヴァイジャヤンタはナンダナの園をはじめとするいくつかの庭を擁している[10]

異名

  • シャクラ (Śakra) - 王、帝王[10]、能力者、強力な者[11][注釈 7]
  • ヴリトラハン (Vṛtrahan) - 障碍(ヴリトラ)を打ち砕く者[10][注釈 8]
  • デーヴェーンドラ (Devendra) - 神々の帝王[注釈 9]
  • デーヴァラージャ (Devarāja) - 神々の王。
  • ヴリシャン (Vṛṣan) - 強力な者。雄馬。雄牛。
  • ヴァジュラパーニ (Vajrapāṇī) - ヴァジュラを持つ者[10]
  • スヴァルガパティ (Svargapati) - 天界の主[10]
  • パーカシャーサナ (Pākaśāsana) - 悪魔パーカを調伏する者[10]
  • 帝釈天

注釈

  1. ^ シャクロー・デーヴァーナーン・インドラハ
  2. ^ サッコー・デーヴァーナン・インドー
  3. ^ devānām」は、男性名詞「devā(男神)」の複数形・属格。indraḥ は、indra(王、征服者)の単数形・主格。「śakro(シャクロ―)」は形容詞「śakra(強力な、有能な)」の変化形。
  4. ^ ヴリトラは『ヴェーダ』においては蛇を意味する「アヒ」(Ahi) とも呼ばれ、冬を表現している[6]
  5. ^ ジョルジュ・デュメジルはインドラとトリタの関係を重要視している[9]
  6. ^ 「雷」または「金剛(ダイヤモンド)」を意味する。
  7. ^ 本来は、インドラとは異なる神であるシャクラと習合したという説もある[要出典]
  8. ^ 「ヴリトラハン」は、イラン神話の「ウルスラグナ」に対応する。「ウルスラグナ」の意味はアヴェスター語で「(竜殺しに)勝利する者」[12]、または「ヴリトラハン」と同じで「障碍を打ち破る者」[要出典]。イランでは、インドラはダエーワの一員として悪魔の地位に降されたが、称号のみが独立した神格として崇拝された[12]。国土の守護神として特にサーサーン朝での信仰が盛んだった。
  9. ^ deva indra」の連声形。
  10. ^ 一度きりしか使えないという制約つきの武器であった[要出典]
  11. ^ この武器は、『マハーバーラタ』にも登場し、インドラからパラシュラーマに授けられる。
  12. ^ 『三國遺事』に「昔有桓因謂帝釋也」とある。

出典

  1. ^ 株式会社日立ソリューションズ・ビジネス 『世界大百科事典 第2版』 Kotobank、2014。
    楠戸義昭 『戦国名将・智将・梟将の至言』 学習研究社、2009。
    楠戸義昭 『戦国武将名言録』 PHP研究所、2006。
  2. ^ a b c 菅沼編 1985, pp. 45-46.(インドラ)
  3. ^ a b c d e 松村 2013, p. 97.
  4. ^ 上村 1981, pp. 17-18.
  5. ^ a b c d 菅沼編 1985, p. 46.(インドラ)
  6. ^ 菅沼編 1985, pp. 29-30.(アヒ)
  7. ^ エリアーデ, ミルチア「68 インドラ、勇士にして造物主」『世界宗教史2 - 石器時代からエレウシスの密儀まで(下)』松村一男訳、筑摩書房ちくま学芸文庫〉、2000年4月、pp. 44-48頁。ISBN 978-4-480-08562-7 
  8. ^ a b 伊藤義教 訳「アヴェスター」『ヴェーダ アヴェスター』訳者代表 辻直四郎、筑摩書房〈世界古典文学全集 第3巻〉、1967年1月、385頁。全国書誌番号:55004966NCID BN01895536 (ホーム・ヤシュト 1 ヤスナ第9章、注釈11)
  9. ^ a b c インド神話』(上村 1981), p. 101。参考文献によれば、吉田敦彦 『比較神話学の現在』(みすず書房)26-30頁にてデュメジルのこの指摘に言及しているという。
  10. ^ a b c d e f g 菅沼編 1985, p. 52.(インドラ)
  11. ^ 菅沼編 1985, p. 172.(シャクラ)
  12. ^ a b 青木 2013, p. 126.
  13. ^ 上村 1981, p. 101.
  14. ^ 上村 1981, p. 19.
  15. ^ 金光仁三郎『ユーラシアの創世神話 - 水の伝承』大修館書店、2007年4月、204頁。ISBN 978-4-469-21312-6  参考文献によれば『リグ・ヴェーダ』(辻直四郎訳)の「インドラの出生」(IV・18)。
  16. ^ a b イオンズ,酒井訳 1990, pp. 167-168.
  17. ^ イオンズ,酒井訳 1990, p. 168.
  18. ^ 辻直四郎訳「リグヴェーダ賛歌」 『岩波文庫』(岩波書店)、1978年pp180-181.より
  19. ^ 松濤誠達「古代インド神話解釈の試み -古代インドのトリックスター論覚え書き」『印度学仏教学研究』 24(2)、1976年、p42.より
  20. ^ イオンズ,酒井訳 1990, p. 172-174.
  21. ^ イオンズ,酒井訳 1990, p. 170.
  22. ^ イオンズ,酒井訳 1990, pp. 170-171.
  23. ^ イオンズ,酒井訳 1990, p. 214.
  24. ^ イオンズ,酒井訳 1990, pp. 171-172.
  25. ^ 菅沼編 1985, pp. 97-98.(ヴリトラ)
  26. ^ 松村 2013, p. 98.
  27. ^ イオンズ,酒井訳 1990, p. 332.






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