イラク 地方行政区画

イラク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/11 04:13 UTC 版)

地方行政区画

18の県 (「州」と呼ぶこともある) に分かれる。

  1. バグダード県 - 県都バグダード
  2. サラーフッディーン県 - 県都ティクリート
  3. ディヤーラー県 - 県都バアクーバ (「バゥクーバ」とも)
  4. ワーシト県 - 県都クート
  5. マイサーン県 - 県都アマーラ英語版
  6. バスラ県 - 県都バスラ
  7. ジーカール県 - 県都ナーシリーヤ
  8. ムサンナー県 - 県都サマーワ
  9. カーディーシーヤ県 - 県都ディーワーニーヤ
  10. バービル県 - 県都ヒッラ
  11. カルバラー県 - 県都カルバラー
  12. ナジャフ県 - 県都ナジャフ
  13. アンバール県 - 県都ラマーディー
  14. ニーナワー県 - 県都モースル (「マウシル」とも)
  15. ドホーク県 - 県都ドホーク
  16. アルビール県 - 県都アルビール
  17. キルクーク県 - 県都キルクーク
  18. スレイマニヤ県 - 県都スレイマニヤ

経済

IMFの統計によると、2020年GDPは1695億ドルである[3]。一人当たりのGDPは4223ドルで、隣国のヨルダンと同等の水準であるが、産油国が多い中東ではやや低い数値である。

通貨はイラク戦争後のイラク暫定統治機構 (CPA) 統治下の2003年10月15日から導入されたイラク新ディナール(IQD)。紙幣は、50、250、1000、5000、10000、25000の5種類。アメリカの評論誌Foreign Policyによれば、2007年調査時点で世界で最も価値の低い通貨トップ5の一つ。為替レートは1米ドル=1260新ディナール、1新ディナール=約0.1円。[21]

イラクは長らく、ティグリス・ユーフラテス川の恵みによる農業が国の根幹をなしていた。ところが、1927年にキルクークで発見された石油がこの国の運命を変えた。19世紀末に発明された自動車のガソリンエンジンが大量生産されるようになり、燃料としての石油の重要性が高まる一方だったからだ。

1921年にはイギリスの委任統治下ながらイラク王国として独立していたため、名目上は石油はイラクのものではあったが、1932年にイラクが独立国となったのちもイギリスは軍を駐留し、採掘権はイギリスBPのもとに留まった。利益はすべてイギリスの収入となり、イラク政府、民間企業には配分されなかった。

第二次世界大戦を経た1950年、石油の需要が大幅に伸びはじめた際、ようやく石油による収入の50 %がイラク政府の歳入に加わることが取り決められた。イラクはその後ソ連に接近、南部最大のルメイラ油田がソ連に開発され、ソ連と友好協力条約を結んだ1972年、イラク政府はBP油田の国有化を決定、補償金と引き換えに油田はイラクのものとなった。石油危機による原油高の追い風で1970年から1980年まで年率11.9%という二桁の経済成長で当時のイラクの一人当たりGDPは中東で最も高くなり、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の石油輸出国になった[22][23]

1980年に始まったイラン・イラク戦争が拡大するうちに、両国が互いに石油施設を攻撃し合ったため、原油価格の上昇以上に生産量が激減し、衰退した。

1990年のイラクによるクウェート侵攻の名目は、クウェート国内で革命政権を建てたとする暫定自由政府の要請があったこととしているが、背景には石油に関する摩擦があった。OPECによる生産割当をクウェートが守らず、イラクの国益が損なわれたこと、両国の国境地帯にある油田をクウェートが違法に採掘したこと、というのが理由である。

イラクの原油生産量、単位: 万トン (United Nations Statistical Yearbook)

  • 1927年 - 4.5 (イラクにおける石油の発見)
  • 1930年 - 12.1
  • 1938年 - 429.8
  • 1940年 - 251.4
  • 1950年 - 658.4 (石油の利益の1/2がイラクに還元)
  • 1960年 - 4,746.7
  • 1970年 - 7,645.7
  • 1972年 - 7,112.5 (油田と付帯施設を国有化)
  • 1975年 - 11,116.8
  • 1986年 - 8265.0 (イラン・イラク戦争による被害)
  • 1990年 - 10,064.0
  • 1993年 - 3,230.0 (湾岸戦争による被害)
  • 1997年 - 5,650.0
  • 2003年 - 19,000.0 (イラク戦争終結時)

イラク経済のほとんどは原油の輸出によって賄われている。8年間にわたるイラン・イラク戦争による支出で1980年代には金融危機が発生し、イランの攻撃によって原油生産施設が破壊されたことから、イラク政府は支出を抑え、多額の借金をし、後には返済を遅らせるなどの措置をとった。イラクはこの戦争で少なくとも1000億ドルの経済的損害を被ったとされる。1988年に戦闘が終結すると新しいパイプラインの建設や破壊された施設の復旧などにより原油の輸出は徐々に回復した。

1990年8月、イラクのクウェート侵攻により国際的な経済制裁が加えられ、1991年1月に始まった多国籍軍による戦闘行為 (湾岸戦争) で経済活動は大きく衰退した。イラク政府が政策により大規模な軍隊と国内の治安維持部隊に多くの資源を費したことが、この状態に拍車をかけた。

1996年12月に国連石油と食糧の交換計画実施により経済は改善される。6ヵ月周期の最初の6フェーズではイラクは食料、医薬品およびその他の人道的な物品のみのためにしか原油を輸出できないよう制限されていた。1999年12月、国連安全保障委員会はイラクに交換計画下で人道的要求に見合うだけの原油を輸出することを許可した。現在では原油の輸出はイラン・イラク戦争前の四分の三になっている。2001~2002までに「石油と食料の交換」取引の下でイラクは、1日に280万バーレルを生産し、170万バーレルを輸出するようになり、120億ドルを獲得した。[24]。 医療と健康保険が安定した改善をみせたのにともない、一人あたりの食料輸入量も飛躍的に増大した。しかし一人あたりの生活支出は未だにイラン・イラク戦争前よりも低い。

農業

デーツを実らせたナツメヤシ
イラクの水利システム 複数のダム (barrage) と灌漑水路、排水路を組合せて乾燥地、沼地のいずれも農地に変えていった

世界食糧計画 (WFP) の統計 (2003年) によると、イラクの農地は国土の13.8 %を占める。天水では農業を継続できないが、ティグリス・ユーフラテス川と灌漑網によって、農地を維持している。13.8 %という数値はアジア平均を下回るものの世界平均、ヨーロッパ平均を上回る数値である。

農業従事者の割合は低く、全国民の2.2 %にあたる62 万人に過ぎない。農業従事者が少ないため、一人当たり16.2 haというイラクの耕地面積は、アジアではモンゴル、サウジアラビア、カザフスタンに次いで広い。

同2005年の統計によると、主要穀物では小麦 (220 万トン)、次いで大麦 (130 万トン) の栽培に集中している。麦類は乾燥した気候に強いからである。逆に、の生産量は13 万トンと少ない。

野菜・果実ではトマト (100 万トン)、ぶどう (33 万トン) が顕著である。商品作物としてはナツメヤシ (87 万トン) が際立つ。エジプト、サウジアラビア、イランに次いで世界第4位の生産数量であり、世界シェアの12.6 %を占める。畜産業では、ヤギ (165万頭)、ウシ (150 万頭) が主力である。

ナツメヤシはペルシャ湾、メソポタミアの砂漠地帯の原産である。少なくとも5000 年に渡って栽培されており、イラク地方の農業・経済・食文化と強く結びついている。とくにバスラとバグダードのナツメヤシが有力。バスラには800 万本ものナツメヤシが植わっているとされ、第二次世界大戦後はアメリカ合衆国を中心に輸出されてきた。イラン・イラク戦争、湾岸戦争ではヤシの木に被害が多く、輸出額に占めるナツメヤシの比率が半減するほどであった。バグダードのナツメヤシは国内でもっとも品質がよいことで知られる。

イラクで栽培されているナツメヤシは、カラセー種 (Khalaseh)、ハラウィ種 (Halawi)、カドラウィ種 (Khadrawi)、ザヒディ種 (Zahidi) である。最も生産数量が多いのはハラウィ種だ。カドラウィ種がこれに次ぐ。カラセー種は品質が最も高く、実が軟らかい。ザヒディ種はバグダードを中心に栽培されており、もっとも早く実がなる。実が乾燥して引き締まっており、デーツとして輸出にも向く。

工業

イラクの工業は自給的であり、食品工業、化学工業を中心とする。食品工業は、デーツを原料とする植物油精製のほか、製粉業、精肉業、皮革製造などが中心である。繊維産業も確立している。化学工業は自給に要する原油の精製、及び肥料の生産である。重油の精製量は世界生産の1 %から2 %に達する (2002年時点で1.6 %)。一方、建築材料として用いる日干しレンガ、レンガはいまだに手工業の段階にも達しておらず、組織化されていない個人による生産に依存している。

製鉄、薬品、電機などの製造拠点も存在するが、国内需要を満たしていない。農機具、工作機械、車両などと併せ輸入に頼る。

エネルギー

バスラのオイルターミナルに接岸するタンカー

原油確認埋蔵量は1,120億バレルで、サウジアラビア・イランに次ぐ。米国エネルギー省は埋蔵量の90 %が未開発で、掘られた石油井戸はまだ2,000 本に過ぎないと推定。 2009年時点の総発電量461億kWhの93 %は石油による火力発電でまかなっている。残りの7 %はティグリス・ユーフラテス川上流部に点在する水力発電所から供給された。

イラクの送配電網は1861年にドイツによって建設が始まった。19世紀、イギリスとドイツは現在のイラクがあるメソポタミアへの覇権を競っていた。鉄道と電力網の建設はドイツが、ティグリス・ユーフラテス川における蒸気船の運航はイギリスによって始まった。

貿易

イラクの貿易構造を一言で表すと、原油と石油精製物を輸出し、工業製品を輸入するというものである。2003年時点の輸出額に占める石油関連の比率は91.9 %、同じく輸入額に占める工業製品の割合は93.1 %であるからだ。同年における貿易収支は輸出、輸入とも101億ドルであり、均衡がとれている。

輸出品目別では、原油83.9 %、石油 (原料) 8.0 %、食品5.0 %、石油化学製品1.0 %である。食品に分類されている品目はほとんどがデーツである。輸入品目別では、機械73.1 %、基礎的な工業製品16.1 %、食品5.0 %、化学工業製品1.0 %。

貿易相手国は、輸出がアメリカ合衆国 18.6 %、ロシアとCIS諸国、トルコ、ブラジル、フランス、輸入がアメリカ合衆国 13.6 %、日本、ドイツ、イギリス、フランスとなっている。

イラン・イラク戦争中の1986年時点における貿易構造は、2003年時点とあまり変わっていない。ただし、相違点もある。輸出においては、総輸出額に占める原油の割合が98.1 %と高かったにもかかわらず、採掘から輸送までのインフラが破壊されたことにより、原油の輸出が落ち込んでいた。結果として、12億ドルの貿易赤字を計上していた。製鉄業が未発達であったため、輸入に占める鉄鋼の割合が5.9 %と高かったことも異なる。貿易相手国の顔ぶれは大きく違う。2003年時点では輸出入ともアメリカ合衆国が第一だが、1986年の上位5カ国にアメリカ合衆国は登場しない。輸出相手国はブラジル、日本、スペイン、トルコ、ユーゴスラビアであり、輸入相手国は日本、トルコ、イギリス、西ドイツ、イタリアであった。

交通

イラクは鉄道が発達しており、国内の主要都市すべてが鉄道で結ばれている。2003年時点の総延長距離は2200 km。旅客輸送量は22億人、貨物輸送量は11億トンに及ぶ。

イラクの鉄道網はシリア、トルコと連結しており、ヨーロッパ諸国とは鉄道で結ばれている。

バグダードとアナトリア半島中央南部のコンヤを結ぶイラク初の鉄道路線(バグダード鉄道)はドイツによって建設された。バグダード鉄道の一部である首都バグダードと第二の都市バスラを結ぶ重要路線には2013年時点で時速64kmの老朽化した2つの車両しかなかったが、2014年に中華人民共和国から時速160kmでエアコンなどを完備した近代的な青島四方機車車輛製の高速車両が導入された[25]バグダード=バスラ高速鉄道路線)。

一方、自動車は普及が進んでおらず、自動車保有台数は95万台 (うち65万台が乗用車) に留まる。舗装道路の総延長距離も8400 kmに留まる。

鉄道

航空


注釈

  1. ^ 4つのクルド地方では第一公用語
  2. ^ クルド人自治区の首府はアルビール
  3. ^ 3名の主権評議会、カーシムが首相・国防・最高司令官を兼任、アーリフを副首相兼内務大臣、自由将校団から数名登用、国民民主党・バアス党・共産党から文民の登用。カーシムはイラク民族主義を基本とする社会改革を目指した。アーリフはアラブ民族主義者。
  4. ^ かつてはハジ・イブラヒーム山(3600 m)が最高峰とされていた。

出典

  1. ^ THE WORLD BANK 2020 イラク” (英語). WORLD BANK (2020年). 2021年11月11日閲覧。
  2. ^ THE WORLD BANK 2020 イラク” (英語). WORLD BANK (2020年). 2021年11月11日閲覧。
  3. ^ a b c d e f World Economic Outlook Database, October 2021” (英語). IMF (2021年10月). 2021年11月11日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 日本大百科全書(ニッポニカ)
  5. ^ a b c d 百科事典マイペディア
  6. ^ a b c ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
  7. ^ デジタル大辞泉 イラク共和国
  8. ^ a b c 外務省 イラク共和国(Republic of Iraq)基礎データ
  9. ^ イラクの石油産業
  10. ^ 足場固めるフセイン体制 反対派一掃をねらう『朝日新聞』1979年(昭和54年)7月31日朝刊 13版 7面
  11. ^ a b c d e f 外務省>各国・地域情勢>中東>イラク共和国>基礎データ
  12. ^ “スンニ派政党、不参加表明 イラク総選挙”. MSN産経ニュース. 共同通信. (2010年2月20日). オリジナルの2010年3月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100303081312/http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/100220/mds1002202148007-n1.htm 2011年1月10日閲覧。 
  13. ^ “オバマ大統領、イラク戦争終結を宣言 米兵前に演説”. 日本経済新聞 電子版 (日本経済新聞社). (2011年12月15日). http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM15013_V11C11A2000000/ 
  14. ^ バグダッドで米軍撤収の式典 AFPBB News 2011年12月16日
  15. ^ 米大統領がイラク戦争終結を宣言、「多大な業績」と評価 ロイター 2011年12月15日
  16. ^ “イラク内務省前で自爆テロ、死傷者44人 検問所6カ所通過”. CNN.co.jp. (2011年12月27日). http://www.cnn.co.jp/world/30005061.html 2011年12月31日閲覧。 [リンク切れ]
  17. ^ イラク政府はタッル・アファルのISISからの解放を宣言』 2017年9月1日 Onebox News
  18. ^ イラク・クルディスタンの変わりゆく勢力構図-第4回議会選挙の結果から-
  19. ^ 吉岡明子 (2019年1月18日). “イラク/選挙”. 中東・イスラーム諸国の政治変動. NIHUプログラム現代中東研究・政治変動研究会. 2020年5月30日閲覧。
  20. ^ “イラク大統領、総選挙の早期実施を表明” (日本語). 日本経済新聞. (2019年11月1日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51698900R01C19A1FF8000/ 2020年5月30日閲覧。 
  21. ^ Foreign Policy:The List: The World’s Worst Currencies(2007年6月16日時点のアーカイブ
    “世界で最も価値の低い通貨トップ5”. GIGAZINE. (2007年6月19日). http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070619_worlds_worst_currencies/ 
  22. ^ Alnasrawi, Abbas (1994). The Economy of Iraq: Oil, Wars, Destruction of development and Prospects, 1950–2010. ABC-CLIO. p. 80. ISBN 0-313-29186-1 
  23. ^ Alnasrawi 1994 , p. 80
  24. ^ トリップ(2004) 406ページ
  25. ^ イラク鉄道に中国製の新型高速列車”. WIRED (2014年3月24日). 2018年8月28日閲覧。
  26. ^ A Guide to Name and Naming Practices, March 2006.
  27. ^ a b Iraq”. CIA Factbook. 米国中央情報局. 2015年5月6日閲覧。
  28. ^ IRAQ: Christians live in fear of death squads”. IRIN Middle East. IRIN (2006年10月19日). 2013年10月21日閲覧。
  29. ^ The world fact book”. CIA. 23 October, 2015閲覧。






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