アルツハイマー病 病理

アルツハイマー病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/25 13:34 UTC 版)

病理

アミロイドβ。リボンモデル。

アルツハイマー病における基本的病理変化はAlois Alzhaimer自身により1911年の論文において詳しく記載されている。アルツハイマー病脳病変の特徴として神経細胞の変性消失とそれに伴う大脳萎縮、老人斑の多発、神経原線維変化(: neurofibrillary tangle、NFT)の多発の3つがあげられる。1980年代に老人斑がアミロイドβ蛋白(Aβ)の凝集蓄積であること、NFTが微小管結合タンパクのひとつであるタウが凝集線維化したものであることが明らかになった。FADの原因となるアミロイド前駆体蛋白遺伝子変異、プレセニリン遺伝子変異のいずれもAβの産生亢進を誘導することが判明している。アルツハイマー型認知症の生化学も参照。

老人斑

老人斑は鍍銀染色で濃染する径数10から100マイクロメートルほどの斑状の構造物である。細胞外に存在する。アルツハイマー病では大脳皮質に大量の老人斑が出現する。老人斑はAβの凝集蓄積により形成されるが、ある程度以上の大きさと密度をもつ蓄積の場合、老人斑内とその周囲にある神経突起の変性が生じる。変形神経突起の半数以上においてNFTとそう痒のタウの凝集蓄積が生じている。Aβの蓄積は斑状構造、綿屑のようなもの、まばらな蓄積など様々な形態をとる。Aβは分子量約4kDの小さな蛋白質で38 - 43個のアミノ酸からなり、695 - 770個のアミノ酸からなる1回膜貫通型のアミロイド前駆蛋白 (APP) からプロテアーゼにより切りだされて産出される。複数の分子種が知られており、それらの分子種は性質の違いからC末端が短いAβ40と長いAβ42に大別される。Aβの産出自体は生理的な現象である。Aβ40は水に溶けやすく、凝集、蓄積を生じにくいのに対してAβ42は凝集傾向が強い。老人斑形成の過程においてはAβ42の沈着が先行し、後の段階でそれに巻き込まれるようにAβ40も沈着すると考えられる。老人斑ではAβの蓄積と変性神経突起形成に加えてグリア細胞の反応が生じている。老人斑の中心部には活性化ミクログリアが集簇をなし、周辺部には活性化アストロサイトが老人斑を取り囲むように存在する。老人斑は慢性炎症性変化と考えられている。アストロサイトはミクログリアと同様にAβの除去や炎症性因子の産出、それに老人斑という慢性炎症性病変を周囲の脳組織から隔離する機能を果たしていると推測される。

アミロイド沈着は基本的にアミロイド密度が高い核(または芯)をもつ典型的老人斑 [注釈 2]と密度の低いび慢性老人斑[注釈 3]の2つのタイプがあることが知られている。

神経原線維変化 (NFT)

神経原線維変化(NFT[注釈 4])は神経細胞の細胞体に生じる繊維状の凝集体で、その微細構造は長径10ナノメートルのフィラメントが2本ずつらせん状のペアを作った線維の集合体であり、規則的なくびれ構造をもつ。らせん状のペアを作った線維を対らせん線維PHF[注釈 5])という。PHFはタウが重合してβシート構造を形成することによって生じる。PHFを構成するタウは通常のタウと異なり過剰にリン酸化を受けている。PHFは細胞質内にありながらプロテアーゼ耐性である。主要構成蛋白であるタウは神経細胞軸索における微小管の安定化に関わる因子である。タウのC末端には微小管の結合部位がありリピート配列がある。ADでは3Rと4Rの両方のアイソフォームからなる。NFTは鍍銀染色陽性でありガリアスブラーク染色が用いられることが多い。タウの凝集や蓄積の過程で分子構造が変化するため免疫染色ではエピトープが消失することもあるので注意が必要である。

アミロイドアンギオパチー

アルツハイマー病では脳実質に出現する老人斑に加えて、脳血管壁にコンゴーレッド陽性になるアミロイドが沈着する脳血管アミロイドーシス脳アミロイドアンギオパチー、CAA)を併発する率が高い。これが脳出血を起こす原因となっている。特に家族性アルツハイマー病でAPP遺伝子内にAβの内部配列に変異が起こると脳アミロイドアンギオパチーを多発するケースが多い。血管アミロイドは中膜と外膜の間の基底膜にまばらに沈着し、進行的に全周性に沈着がみられ平滑筋細胞の消失をもたらす。

アルツハイマー型認知症病理の時系列

病理の時系列解析は主にダウン症患者由来の剖検脳を用いた検討で明らかになった。ダウン症患者ではアルツハイマー病の病理変化が30代ころから出現し年齢を重ねると共に進行する。アミロイドの沈着は30代から始まり、40歳以降で神経原線維変化が出現する。また神経原線維変化がある場合は必ず老人斑を伴うことが明らかになった。ダウン症は第21染色体トリソミーであるため第21染色体に存在するAPP遺伝子が通常の1.5倍存在する。その結果APPのmRNAも通常人よりおおく早発認知症になると考えられている。

合併病変

ADに本質的な病変は神経細胞消失、老人斑、NFTである。しかし偶然の合併で考えられる以上にレビー小体、TDP-43など他の疾患に特徴的な病変を合併し、臨床像に影響を与える。病理機序の一部は共通していると考えられる。なお病理診断でレビー小体型認知症とADが合併した場合はADらしさの高低を優先して判断することになっている。

病変の拡がりと病理診断

NIA-AAの病理診断の基準[45]では大脳新皮質の老人斑の密度をCERADの基準で、NFTをBraak and Braak基準(大脳皮質の分布の評価)で評価する。またAβの大脳皮質から基底核、脳幹、小脳へ広がる過程をタールらの基準で評価する。これらの評価をABCスコアで評価し、合併病変も合わせて評価する。


  1. ^ : posterior cortical atrophy
  2. ^ : typical or classic plaque
  3. ^ : diffuse plaque
  4. ^ : neurofibrillary tangle
  5. ^ : paired helical filament
  6. ^ : Amyloid-β precursor protein






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