アラビア語 概要

アラビア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/10 14:14 UTC 版)

概要

「アラビア語」は、もともとアラビア半島で話されていたが、北アフリカやイラク、シリア方面まで広がった。現代において使用されているアラビア語は、次の2つに大きく分類されている。

  • 文語(昔のアラビア語、もしくはクルアーンに使用されている):フスハー(正則アラビア語・現代標準アラビア語 (MSA[注釈 1]) とも。古典アラビア語を基盤とし、現代世界に対応する語彙を大きく加えたもの)
  • 口語:アーンミーヤ(各地の方言に分かれる)

フスハー

フスハー(正則アラビア語)はアラブ諸国の共通語であり、アラビア文字で書かれる。起源は西暦4世紀ごろのアラビア半島にさかのぼるといわれ、イスラーム文明の出現と拡大にともなって北アフリカにまで使用地域が広がり、現在まで言語として大きく変わらずに使われている。

イスラームの聖典であるクルアーンは古典アラビア語で書かれているが、これはムハンマドがいたヒジャーズ地方のアラビア語をかなり反映していると考えられる。クルアーンの記述によれば、イスラームを伝えるために神が選んだのがアラビア語だったことから、ムスリムはこれを「アッラーの言葉」としてとらえている。クルアーン(コーラン)はアラビア語で詠唱して音韻をふむように書かれ、またアラビア語原典がアッラーが人類に与えたオリジナル版とされるため、翻訳は教義上原則禁じられる[注釈 2]。クルアーンの勉強や暗誦は敬虔なイスラム教徒の必須の義務とされるが、クルアーンを学ぶためには必然的にアラビア語を読めなくてはならず、アフリカからトルコインド東南アジアにかけてのイスラム圏では、アラビア語がイスラム知識人層の共通語として通用している。

マカーマート』〈訳は平凡社東洋文庫全3巻〉のような古典に見られる書き言葉は、とくにオスマン帝国の時代に一時期衰退したが、話し言葉は続けて用いられていた。文語は近代になってより簡単なものとして練り直され、近代以降の新しい概念に対応する新語が大量に追加されることで、現代において使用されている現代標準アラビア語が成立した[1]。こうしてフスハーはアラビア語において公的な面を代表する言語となり、宗教関係のほかに、学術関係や書籍雑誌新聞などの文章はもちろん、公的な場での会話やテレビニュースなどの改まった場においても使用されるようになった[2]。公的な言語であるためアラビア語の教育もすべてフスハーで行われているが、逆に言えばフスハーは学校で「習う」アラビア語である。ただし文語でありあくまでも公式な場で使用されるものであるため、日常会話においてフスハーが使用されることはない。

方言

一方、方言は日常会話で用いられる話し言葉を指す。現代の話し言葉としてのアラビア語は、国・地域によって異なる地域変種(ラハジャ)に分かれ、これには正字法が無い。日常会話はこの話し言葉で話されるが、私信などではこれを文字化して表現する。また、大衆向けの小説や演劇、詩歌は現代口語の諸変種で書かれる。 

湾岸方言ヒジャーズ方言イラク方言シリア方言英語版レバノン方言パレスチナ方言エジプト方言スーダン方言マグリブ方言英語版ハッサニヤ方言などに大別され、それぞれの地域のなかでも違いがある。地域によっては、宗派ごとに話されるアラビア語に差異があるなどする。また、生活形態によっても、地域を越えてそれぞれ共通の特徴がある。遊牧民方言、農村方言、都市方言の3つに分けられる。

現代アラブ世界での現代標準アラビア語と方言の関係は、中世カトリック教会地域におけるラテン語ロマンス諸語の関係に似ている。後者が前者から派生し、フランス語イタリア語スペイン語など多くの変種に分かれていること。前者が日常語としては死語であるが、公的な話し言葉、書き言葉として通用し、後者は基本的に書かれることはまれであることが、その理由である。このことから、言語学においてアラビア語は二言語使い分けの典型的な例とされる。

エジプト方言、シリア方言、レバノン方言などはマスメディアで多用されるためアラブ世界各地で理解される一方、異なる地域同士の住民では方言での会話に支障が出ることもある。また、書き言葉が日常で話されることはほぼ皆無であり、読み書き・演説や報道番組での使用に限定される。従って、非ネイティヴが現地でスムーズな日常の会話を行うためには当地の話し言葉を習得する必要があり、読み書きも習得する場合には現代標準アラビア語と重ねて学習しなければならない。


注釈

  1. ^ Modern Standard Arabic
  2. ^ 関連する記事にタフスィールがある。
  3. ^ 学説によってはハムザを1文字と数えて29文字とする。また、27文字とすることもある。

出典

  1. ^ 「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p84-85 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷
  2. ^ 「イスラーム世界のことばと文化」(世界のことばと文化シリーズ)p85-86 佐藤次高・岡田恵美子編著 早稲田大学国際言語文化研究所 成文堂 2008年3月31日初版第1刷
  3. ^ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/algeria/data.html#section1 「アルジェリア基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  4. ^ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/morocco/data.html 「モロッコ基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  5. ^ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iraq/data.html#section1 「イラク基礎データ」日本国外務省 2017年6月21日閲覧
  6. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p357 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  7. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p153 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  8. ^ 「アルジェリアを知るための62章」p358 私市正年編著 明石書店 2009年4月30日初版第1刷
  9. ^ 「アラビア語の世界 歴史と現在」p415-416 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷
  10. ^ http://mfa.gov.il/MFA_Graphics/MFA%20Gallery/Documents%20languages/FactsJapanese08.pdf 「イスラエルの情報」p142 イスラエル外務省 2017年6月21日閲覧
  11. ^ 「イスラエルを知るための60章」p342 立山良司編著 明石書店 2012年7月31日初版第1刷 
  12. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/3127540 「イスラエル、アラビア語を公用語から外す法案を閣議決定」AFPBB 2017年05月08日 2017年6月21日閲覧
  13. ^ 『イランを知るための65章』 岡田久美子・北原圭一、鈴木珠里編著 明石書店  2009年11月20日 p.74 ISBN 9784750319803
  14. ^ http://www.unic.or.jp/info/un/charter/membership_language/ 「加盟国と公用語」 国際連合広報センター 2017年6月21日閲覧
  15. ^ a b 「アラビア語の世界 歴史と現在」p345 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷
  16. ^ 「アラビア語の世界 歴史と現在」p348-354 ケース・フェルステーヘ著 長渡陽一訳 三省堂 2015年9月20日第1刷






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