アメリカ合衆国の音楽 民俗音楽

アメリカ合衆国の音楽

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/24 05:45 UTC 版)

民俗音楽

アメリカにおける民俗音楽には、数々の民族グループごとの多様性がある。インディアンの各部族はそれぞれ多種多様な民俗音楽を演奏しており、その大半は自然の精霊についての曲である。ブラック・ミュージックにはブルースゴスペルなどがあり、これらは奴隷たちがアメリカへもたらし、西ヨーロッパ音楽との混交を果たしたものである。植民地時代には、イングランド音楽・フランスの音楽・スペインの音楽の技法や楽器が南北アメリカ大陸にもたらされた。20世紀初頭のアメリカは、チェコポルカウクライナポーランドフィドル奏法、アシュケナジムユダヤ人クレズマーや各種ラテン音楽など、世界中の民俗音楽の中心地となっていた。

現在アメリカ合衆国がある土地で最初に民俗音楽を演奏したのはインディアンである。用いたスタイルや技法は様々であったが、和音とポリフォニーが使われないこと、間投詞・下り旋律の使用などの特徴は、ほとんど全てのインディアンの部族に共通している。伝統的な楽器編成は、笛と、太鼓ラトルシェイカーなどの様々な打楽器からなる[7]。ヨーロッパ・アフリカとの接触が確立されてからは、インディアンの民俗音楽は、ヨーロッパのフォークダンスやテハーノ音楽といった、まったく異なった音楽スタイルと融合する、新たな方向の成長を始めた。近代のインディアン音楽に関してもっとも有名なのはパウワウで、これは伝統的なスタイルの踊りや音楽が催される部族を超えた集会である[8]

アメリカ13植民地は、いずれも元々はイギリス帝国の領土だったため、アングロ・サクソンの文化がアメリカの民俗音楽・ポピュラー音楽の主な土台となった。アメリカ民謡には、イギリス民謡と同一の曲に新しい歌詞をつけたものが多くあり、歌詞が元素材のパロディとなっていることもしばしばである。アメリカ=アングロサクソン系の音楽は、五音音階のメロディが少ないこと、伴奏が目立たない(一方でドローンを多用している)こと、長調が多いことなどが比較上の特徴として挙げられる[9]。他にもアメリカ=アングロサクソン系の伝統的な音楽には、様々なブロードサイド (broadside)、滑稽話、ほら話、鉱山労働・海難事故・殺人などにまつわる受難歌などが含まれている。ジョー・マガラック (Joe Magarac)、ジョン・ヘンリージェシー・ジェイムズといった伝説上のヒーローが盛り込まれた歌も多い。イギリス由来のフォークダンスには、アメリカに伝わったカドリーユに、ダンサーに指示を与えるコーラー英語版の発明が加わって生まれたスクウェアダンスなどがある[10]。18世紀にイングランドから移民してきた、いわゆるシェーカー教徒と呼ばれる宗教コミューンは、独自のフォークダンスのスタイルを作った。彼らの初期の歌の起源は、イギリスの民俗音楽をそのひな型にしていると考えられる。アメリカ合衆国の初期においてそれぞれ独自の音楽文化を育てていった宗教組織の例は、この他にもアーミッシュ音楽 (Amish music)、ハーモニー協会 (Harmony Society)、ペンシルベニアのエフラタ修道院 (Ephrata Cloister)などがある[11]

今日のアフリカ系アメリカ人の祖先の多くは奴隷としてアメリカへ連れてこられ、主に南部のプランテーションで働いていた。この西アフリカ中の数百の部族出身者たちは、渡来とともにボーカルのコールアンドレスポンス、複合的なリズム[12]、シンコペーションやアクセント遷移といった西アフリカ音楽の特色をアメリカへもたらした。リズミカルな歌唱やダンスに重点を置くアフリカ音楽が新世界に持ち込まれ、そこで独自の民俗音楽文化の一部となったことは、アフリカ出身者が「昔の音楽を通じてコミュニティを維持する」一助となった。アメリカにおける初期の奴隷は労働歌やフィールドハラー (field holler)[13]を歌い、キリスト教化の後は聖歌を歌った。19世紀に起こった大覚醒では、国中の人々が信仰に熱を上げることとなったが、これは特に南部の人々の心をとらえた。主にニューイングランドの牧師が書いたプロテスタント聖歌は、南部の敬虔なキリスト教徒の間で開かれたキャンプ集会 (camp meeting) の目玉ともなった。黒人たちによってアレンジされたこれらの聖歌はネグロ・スピリチュアルと呼ばれた。これらのスピリチュアル・労働歌・フィールドハラーから、ブルースジャズゴスペルが生まれたのである。

ブルースとスピリチュアル

スピリチュアルは元々、南部プランテーションの奴隷による教義を表現する歌であった[14]。19世紀中盤から後半にかけて、スピリチュアルは南部の外へ広がっていった。1871年、フィスク大学 (en:Fisk University) はスピリチュアルをアメリカ中に広めるジュビリー・シンガース (en:Jubilee Singers) の拠点だった。ジュビリー・シンガースを模倣していくつかのゴスペルカルテットが生まれ、その後派生グループはさらに数を増していった。20世紀始めには素人歌手や牧師の歌手が流行し、ここからポピュラー音楽としてのゴスペルが生まれた。

ブルースは、1910年代に南部で生まれた、アフリカ出身者の労働歌・フィールドハラー・シャウトの融合による音楽である[15]。ブルースの大きな特徴は、哀しみをこめた歌詞が多いことと、第3音を半音(もしくは微妙に)下げた五音音階ブルー・ノート・スケール)である。どちらも20世紀以前のアフリカ系アメリカ人の民俗音楽に存在した特徴ではあるが、AAB形式のような体系化された現代ブルースは20世紀初期までは存在していなかった[16]

その他の移民コミュニティ

アメリカは、数々の民族グループからなる人種のるつぼである。これら諸民族の多くは、出身地の民俗音楽の伝統を保持しつつも、アメリカ独特のスタイルをもった外国音楽を生み出していった。ニューイングランドカーボベルデ音楽や、[17]カリフォルニアのアルメニア音楽[18]ニューヨークイタリア音楽・ウクライナ音楽[19]などの民族は、定住したそれぞれの地域で流行を生み出した。

ルイジアナにはクレオール(アメリカによる州の買収前からルイジアナ州に住んでいた人々を中心とする、様々な非アングロサクソン系祖先をもつコミュニティ)やケイジャン(カナダのアカディアを去ってルイジアナ州に定住したフランス語圏のグループ)といった民族グループがあり[20]、また大きな港町だったニューオーリンズにカリブ海域全域の人々が集まった結果、ケイジャン音楽やクレオール音楽などの、多種多様なスタイルの混交が生じた。

米墨戦争以前は、テキサス州全域を含む現在のアメリカ合衆国西部のほとんどは、スペインおよびそれを引き継いだメキシコ共和国の管理下にあった。テキサス州がアメリカに編入されると、テキサスに住んでいた土着のテハーノたちは、他のテキサス住民とは別々の文化を保ちつつ、メキシコ人とも別々の文化を発展させた。初期のテハーノ音楽の発展の中心にあったのは、マリアッチやコリード (en:corrido) といった伝統的なメキシコの技法と、19世紀後半に定住したドイツやチェコ出身者によるヨーロッパ大陸の技法であった[21]。特に、アコーディオンは20世紀前後にテハーノ音楽の奏者に取り入れられ、テキサスや北メキシコのアマチュア音楽家に広く使われるようになった。


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