アメリカ合衆国の音楽 クラシック音楽

アメリカ合衆国の音楽

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クラシック音楽

初期の一部の入植者がアメリカへもたらしたクラシック音楽は、ヨーロッパ芸術における教会音楽・演奏会音楽の伝統に根ざしている。この伝統における規範はバロック~ロマン派の時代を中心とする、1550年から1825年までの間に成立したものである。アメリカのクラシック作曲家の多くは、19世紀後半まで完全にヨーロッパのモデルの中で作品を作ろうとしていた。高名なチェコの作曲家、アントニン・ドヴォルザークは、1892年から1895年にかけてアメリカを訪れた際に、アメリカのクラシック音楽は、ヨーロッパの作曲家の模倣に代わる新たな独自のモデルが必要だと繰り返し語り、その後の作曲家がアメリカ独自のクラシック音楽を作るきっかけとなった[22]。20世紀初めには、多くのアメリカ人作曲家がジャズ・ブルース・インディアンの音楽など、クラシックとは異質の要素を作品に取り入れるようになった。 アメリカは比較的オーケストラ活動が盛んな国で、世界でもドイツに次ぐ数のプロオーケストラを擁している。ただし、オペラは盛んではなく専属管弦楽団を擁した常設歌劇場は3つ(ドイツで約80、イタリアで約20)しかない。演奏活動においても当初は欧州の人材に依拠するところが大きく、19世紀から現在まで中断無く活動している5つの老舗オーケストラは、すべて初代指揮者がドイツ人であった。


初期のクラシック

植民地時代のアメリカでは、クラシック音楽のグループは2つあった。一つめの、アマチュア作曲家・衒学者グループは、シンプルな聖歌を基本としながら、年を追うごとに複合的な手法を用いるようになっていった。もう一つの分野は、フィラデルフィアバルチモアなど、中部大西洋岸の諸都市における、ほぼヨーロッパのモデルの中で活動する有名な作曲家たちのグループである。こちらの作曲家たちのほとんどはイングランド出身で、ヨーロッパ音楽の中でも特に、当時有名だったイングランドの作曲家のスタイルで活動していた[23]

クラシック音楽がアメリカに持ち込まれたのは植民地時代である。この時代、アメリカの作曲家の多くはヨーロッパ音楽を唯一のモデルとして活動していたが、ウィリアム・ビリング(en:William Billings)、サプライ・ベルチャー(en:Supply Belcher)、ジャスティン・モーガン(en:Justin Morgan)など、第一ニューイングランド派として知られる作曲家は、ヨーロッパのモデルから完全に独立したスタイルを生み出した[24]。これらの作曲家の中でももっとも多く記録が残っているのはビリングである。ビリングはまた「アメリカの聖歌隊の創設者として、最初にピッチパイプを使った音楽家として、チェロを礼拝に取り入れた最初の人物として」その影響力は大きい[25]。第一ニューイングランド派の作曲家の大半はアマチュア歌手であった。彼らはアマチュアによる演奏に向いた新たな形式の宗教音楽を作り出したが、その中で、ヨーロッパのスタンダードからすれば奇妙に思えるような和声の技法を用いることもしばしばあった[26]。彼らのスタイルは「洗練された、当時のヨーロッパのやり型」の影響を逃れ、モードや、五音の音階・メロディといった技法を使用し、ヨーロッパの和声のルールを忌避した[27]

19世紀初頭、アメリカは風変わりで意図的な「アメリカ流」スタイルの作曲を行い、アメリカで交響楽団のための作曲を行った最初の作曲家となったアントニー・フィリップ・ハインリヒ(en:Anthony Philip Heinrich)などの様々な作曲家を生んだ。この他にも、有名なところではウィリアム・ヘンリー・フライ(en:William Henry Fry)、ジョージ・フレデリック・ブリストウなど、多くの作曲家が、方向性こそきわめてヨーロッパ的であったが、アメリカ流のクラシックスタイルのアイデアを支持した。しかしヨーロッパで有名になったアメリカの作曲家は、ジョン・ノウルズ・ペインが最初である。ペインの成功例は、エイミー・ビーチエドワード・マクダウェルホレイショ・パーカーといった第二ニューイングランド派の作曲家を刺激することとなった[28]

もっとも記憶に残っている19世紀アメリカの作曲家は、おそらくルイス・モロー・ゴットシャルクである。音楽史研究家のリチャード・クロフォードによれば、ゴッドシャルクは「土地に根ざした民俗上のテーマや韻律を、コンサートホールへともたらした」ことで有名である。ゴッドシャルクの音楽は故郷のニューオーリンズでの文化の交流を反映している。ニューオーリンズはラテン・カリブ・アフリカ・ケイジャン・クレオールと、様々な音楽が根づいた土地であった。ゴッドシャルクはその生涯において天才ピアニストとして知られており、作曲家としての活動は少ないにもかかわらず、その評価は高い[29]

20世紀

エルマイラ出身のチャールズ・トムリンソン・グリフスは1914年から革新的な作品を発表し、ニューヨークのクラシック音楽シーンに登場した。だがニューヨークの作曲家でもっとも有名なのは、ジョージ・ガーシュウィンである。ティン・パン・アレーブロードウェイ劇場の作詞作曲家だったガーシュウィンの作品は、ジャズの先駆者たちからの強い影響を受けていた。ガーシュインの作品によって、アメリカのクラシック音楽は前代未聞の国際的な注目を浴びることとなった。ガーシュイン以後、最初に有名になった作曲家はブルックリン出身のアーロン・コープランドである。コープランドは技法や形式においてはいまだヨーロッパ式ではあったものの、アメリカの民俗音楽の要素を最貧に用いた。コープランドは、その後はバレエ、さらにその後はセリエル音楽に傾倒した[30]。国際的な注目を浴びたアメリカのクラシック作曲家の初期の人物にはチャールズ・アイヴズもいる。アイヴズはユニークなアメリカ流のスタイルの音楽を発表したが、1954年に死亡するまではほとんど無名であった。指揮者して活躍したレナード・バーンスタインは作曲家としても活動しており3曲の交響曲、オペラ、ミュージカルの作品を残している。

ジョン・ケージジョン・コリリアーノスティーヴ・ライヒなど、20世紀後半の作曲家たちの多くが、モダニズムミニマリズムの技法を用いた。ライヒは、同時に始まりそれぞれリピートを繰り返す2つの音楽の流れがしだいに同期を乱していき、自然と展開感を形成する、フェイジング(en:phasing)と呼ばれる技法を考案した。また、ライヒは非西洋音楽にも興味を持ち、アフリカのリズム技法を作曲に取り入れている[31]。近年の作曲家や演奏家はフィリップ・グラスメレディス・モンク(en:Meredith Monk)などのミニマリズム作品に強い影響を受けている[32]


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