アポロ10号
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主要な任務
月面着陸のための予行演習では、スタッフォードとサーナンが搭乗する着陸船「スヌーピー」は月面から8.4海里 (15.6km) のところまで接近した。実際の飛行では、この地点から着陸のための逆噴射を始めることになっている。この接近軌道を実行することで、着陸のために必要な1海里 (1.9km) 以内でのエンジン噴射降下ガイダンスシステム[9]を測定するのに必要な月の潜在重力[10]に関する知識を高めることになっていた。地上での実験、無人探査機、そしてアポロ8号での調査では、この測定高度をそれぞれ200海里 (370km)、20海里 (37km)、5海里 (9.3km) としていた。この最終的な延伸を除けば、飛行はNASAの管制や広範囲な追跡およびコントロールのネットワークにおいて、宇宙でも地上でも実際に飛行が行われたかのように正確に進行した。
地球周回軌道を離れた直後に司令船は第三段S-IVBを離れ、方向を180°転換し、S-IVBに格納されている着陸船とドッキングした。その後司令・機械船と着陸船は一体となってS-IVBから離れ、月への旅に向かった。
10号では初めてカラー撮影のテレビカメラが搭載され、宇宙からテレビ中継が行われた。
スタッフォードとサーナンが着陸船スヌーピーで月面に向かって降下している間、ヤングは司令船チャーリーブラウンに一人で搭乗し、月周回軌道で待機していた。着陸船はスイッチが誤ったセッティングをされていたため一瞬不規則な回転運動を始めたが、飛行士が対応して乗り切った。スタッフォードたちはレーダーや上昇用エンジンを点検し、11号の着陸予定地点である静かの海を観測した。着陸船の上昇段には、もし仮に月面から離陸しても、上空を周回している司令・機械船まで到達できるだけの燃料は搭載されていなかった。史上初の月面着陸をした11号に搭載されていた燃料は33,278ポンド (15,095kg) だったのに対し、10号には30,735ポンド (13,941kg) しか積まれていなかったのである[11]。歴史家のクレイグ・ネルソン (Craig Nelson) は、NASAはスタッフォードとサーナンが月面に着陸してしまわないよう予防していたのだと書いている。彼はサーナンのこんな発言を引用している。「我々のような立場に置かれた人間のことを考えるとき、多くの人々はこう考えるだろう。『あいつらに着陸する機会なんか与えるな。なぜなら絶対にやってしまうだろうからな!』と。だから我々が月の表面から脱出するための上昇段には、十分な燃料が搭載されていなかったのだ。燃料タンクは満タンではなかった。だからもし我々が本当に月面に着陸してしまっていたら、帰還することはできなかった」[12][13]。サーナンは自身の回顧録の中で、「我々の着陸船LM-4は…重すぎて月面着陸のための安全係数は保証できなかった。」と記述している[14]。
下降段を分離してエンジンに点火すると、上昇段は激しく回転を始めた。これは飛行士が偶然コンピューターに、軌道分離と点火のための正しい数値を入力して緊急脱出モードを解除する指令を、二重に与えてしまったためだった[15]。このときサーナンとスタッフォードが着陸船の制御を取り戻すまでの間、罵り言葉を話すのが生中継で放送されてしまった。サーナンはこのとき、月の地平線が8回回転するのを目撃したと語っている。これは上昇段のエンジンが噴射されたままで機体が8回回転したことを意味しているが、NASAはこの事態を回復不能な状態になる以前のいくつかの回転にすぎないと軽視していた[15]。
司令船が帰還したのは1969年5月26日16時52分23秒 (UTC) で、着水点はサモア諸島の東方およそ400海里 (740km) であった。飛行士たちは空母プリンストンに回収され、サモア諸島タフナ (Tafuna) のパゴパゴ国際空港に式典のために移送された。その後はC-141輸送機でホノルルまで送られた。
- ^ Orloff, Richard W. (September 2004) [First published 2000]. “Table of Contents”. Apollo by the Numbers: A Statistical Reference. NASA History Series. Washington, D.C.: NASA. ISBN 0-16-050631-X. LCCN 00-61677. NASA SP-2000-4029 2013年6月25日閲覧。
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- ^ Holtkamp, Gerhard (2009年6月6日). “Far Away From Home”. SpaceTimeDreamer. SciLogs. 2011年9月20日閲覧。
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- ^ Chaikin 2007, pp. 347–48
- ^ Slayton & Cassutt 1994, p. 236
- ^ Brooks, Courtney G.; Grimwood, James M.; Swenson, Loyd S., Jr. (1979). “Apollo 10: The Dress Rehearsal”. Chariots for Apollo: A History of Manned Lunar Spacecraft. NASA History Series. Foreword by Samuel C. Phillips. Washington, D.C.: Scientific and Technical Information Branch, NASA. ISBN 978-0-486-46756-6. LCCN 79-1042. OCLC 4664449. NASA SP-4205 2008年1月29日閲覧。
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- ^ Nelson 2009, p. 14
- ^ NASA公史では、着陸船スヌーピーには着陸するチャンスや、また再び離陸できるチャンスは全くなかったと明確に説明している。「月面が目前に迫ってきたら、飛行士は誘惑にかられて着陸してしまうのではないかという推測は確かにあった。だが仮にそうしようと思っても、実際には10号の着陸船では月面に降り立つことはできなかった。スヌーピーは初期型のモデルで、月面に着陸するには重すぎた。より正確に言うと、上昇段は司令船まで戻るには重すぎたのだ。それは試験機であり、月面着陸の予行演習のためにのみ作られたものだった。一方でアポロ計画では、飛行士はいかなる状況においても勝手にそのような決定をしてはならないという懲罰規定があった。」
- ^ Cernan, p.184
- ^ a b "Astronaut Gene Cernan Interview on Apollo 10 - (December 23, 2009)" - YouTube
- ^ Thompson, Mark (2011年9月19日). “The Search for Apollo 10's 'Snoopy'”. Discovery News (Discovery Communications) 2013年6月26日閲覧。
- ^ “ASTRONOMERS MIGHT HAVE FOUND APOLLO 10'S "SNOOPY" MODULE”. skyandtelescope.org. 2023年6月15日閲覧。
- ^ Shinabery, Michael (2012年9月30日). “Young Takes Rover for a Spin”. moonandback.com (Sacramento, CA: Moonandback Media LLC): p. Part 2 of 3 2013年7月11日閲覧。
- ^ Sisson, John (2010年12月13日). “Apollo 16 poster with Casper the Friendly Ghost (1972)”. Dreams of Space. 2013年7月11日閲覧。
- ^ “Saturn S-IVB-505N - Satellite Information”. Satellite database. Heavens-Above. 2013年9月23日閲覧。
- ^ Hengeveld, Ed (2008年5月20日). “The man behind the Moon mission patches”. collectSPACE. 2009年7月18日閲覧。 "A version of this article was published concurrently in the British Interplanetary Society's Spaceflight magazine." (June 2008; pp. 220–225).
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