アジサイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/03 20:21 UTC 版)
特徴
落葉広葉樹の低木で、樹高は1 – 2メートル。樹皮は淡黄褐色で縦に筋があり、薄く剥がれる[17]。枝は灰褐色から淡黄褐色で、なめらか[17]。葉は対生し、葉身は厚く光沢があり[11]、淡緑色で葉脈のはっきりした卵形で、周囲は鋸歯状。夏を過ぎると、黄白色や黄色に黄葉する[19]。
花期は6 - 7月[22]。花序は大型で、若い枝の先端に紫(赤紫から青紫)の花を咲かせる[25]。一般に花といわれている部分は装飾花で、大部分が中性花からなり、4枚の萼片が大きく変化したもので、花弁状で目立つ[11][22]。中央にある両性花は極小で目立たず[11]、退化した雄蕊10本と雌蕊3 - 4本がある。数え方は「◯朶(だ)」という。母種のガクアジサイでは、花序の頂部がたいらで両性花が多数あり、密集した両性花の周囲だけに装飾花(中性花)がみられるが[11]、アジサイ(ホンアジサイ)やセイヨウアジサイではほとんどが装飾花となっている。また、装飾花の欠如した変種も知られている(ガクアジサイ「三河千鳥」など)。ホンアジサイは装飾花がついた花序が、しばしば冬でも枯れた姿で枝に残っている[17]。
果期は7 - 12月で、ほとんど結実しないが[22]、ガクアジサイなどは両性花に蒴果をつける[25]。ガクアジサイは、装飾花だけが落ちて、果穂に果実だけがついて冬でも枯れ残っていて、種子が残っている場合もある。
冬芽は対生し、頂芽は長卵形の裸芽で大きく、暗紅紫色で無毛、幼葉は2枚向き合う[17]。側芽は小さく、2 - 4枚の薄い芽鱗に包まれる[17]。葉痕はアジサイが浅いV字形や心形で、ガクアジサイでは倒松形や腎形で、維管束痕が3個つく[17]。アジサイとガクアジサイの冬芽や樹皮は、互いによく似ている[17]。
花の色
花(萼)の色はアントシアニンという色素によるもので、アジサイにはその一種のデルフィニジンが含まれている。これに補助色素(助色素)とアルミニウムのイオンが加わると、青色の花となる[28]。従来は理論の域に留まっていたが、今般、実際にアジサイの花で直接確認された[29]。
アジサイは土壌のpH(酸性度)によって花の色が変わり、一般に「酸性ならば青、アルカリ性ならば赤」になると言われている[22][注釈 4]。これは、アルミニウムが根から吸収されやすいイオンの形になるかどうかに、pHが影響するためである。すなわち、土壌が酸性だとアルミニウムがイオンとなって土中に溶け出し、アジサイに吸収されて花のアントシアニンと結合し青色を呈する。逆に土壌が中性やアルカリ性であればアルミニウムは溶け出さずアジサイに吸収されないため、花は赤色となる[30]。したがって、花を青色にしたい場合は、酸性の肥料や、アルミニウムを含むミョウバンを与えればよい[31]。同じ株でも部分によって花の色が違うのは、根から送られてくるアルミニウムの量に差があるためである[32]。花色は花(萼)1グラムあたりに含まれるアルミニウムの量がおよそ40マイクログラム以上の場合に青色になると見積もられている[33]。ただし品種によっては遺伝的な要素で花が青色にならないものもある。これは補助色素が原因であり、もともとその量が少ない品種や、効果を阻害する成分を持つ品種は、アルミニウムを吸収しても青色にはなりにくい[34]。
土壌の肥料の要素によっても変わり、窒素が多く、カリウムが少ないと紅色が強くなる[25]。
また、花色は開花から日を経るに従って徐々に変化する[35]。最初は花に含まれる葉緑素のため薄い黄緑色を帯びており、それが分解されていくとともにアントシアニンや補助色素が生合成され、赤や青に色づいていく[35]。さらに日が経つと有機酸が蓄積されてゆくため、青色の花も赤味を帯びるようになる[注釈 5]。これは花の老化によるものであり、土壌の変化とは関係なく起こる[37]。
他に花が緑色の品種(ヤマアジサイ「土佐緑風」など)も知られており、観賞用として緑の花が販売されることもある。しかし日本ではファイトプラズマ感染による「アジサイ葉化病」にかかったものも稀にみられる[38][39]。この病気の治療法は知られておらず、感染拡大を避けるため発病株は処分したほうがよいとされる[38]。
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自生のアジサイ(表六甲ドライブウェイ)
注釈
出典
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