じゃんけん 概説

じゃんけん

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/11 16:13 UTC 版)

概説

コイントスくじなどと異なって道具は必要でなく、ごく短時間で決着が付くことから、その勝敗によって参加者の優先順位や組み合わせなどを決定する簡便な方法としてよく使われる。複数回行って何連勝できるかなどのゲームとしてそれ自体が楽しまれることもある。

グー・パー・チョキの三すくみを用いる一般的なじゃんけんのほか、特に大人数で勝敗や組み分けを決めるために用いられる多い勝ちうらおもてグーパーなどといった類似の遊戯がある。

歴史

虫拳『拳会角力図会』 180

その起源は中国から九州に伝来した虫拳であり、これが変化して日本独自のものに作り上げられたという[3]三すくみ拳(虫拳・蛇拳狐拳虎拳など、三すくみの関係を指で表す遊戯)は、日本・東アジアから東南アジアにかけての地域に多く見られる[3]

最も有力な説は、日本に古くからあった三すくみ拳に17世紀末に東アジアから伝来した数拳(本拳・箸拳など)のうち球磨拳の要素が加わった拳遊びから発展し、19世紀末(明治時代)に九州で考案されたとするものである。数拳のうち1, 3, 4が省かれ、分かりやすい0と5および中間の2を残して新しく「石」「紙」「鋏」の意味を与え、三すくみ構成としたとされる。

江戸時代には、じゃんけんについて記載されている文献はほとんど存在しない[4]歌川広重が文政13年(1830年)に作成した 「ふうりゅうおさなあそび」には、チョキとグーらしき手遊びをしている幼児が描かれているが、じゃんけんと明言はされておらず、本拳や球磨拳といった他の拳遊びでも似た形となることがある[4]。天保9年(1838年)に刊行された『誹風柳多留』には、「リャン拳で 鋏を出すは 花屋の子」という川柳が含まれており、鋏を出す拳遊戯としてはじゃんけんと共通したものである[4]。江戸時代後期の歌舞伎作家西沢一鳳1850年(嘉永3年)に著した『皇都午睡(みやこのひるね)』には、「近頃東都にてはやりしはジヤン拳也 酒は拳酒 色品は 蛙ひとひよこ三ひよこひよこ 蛇ぬらぬら ジヤンジヤカ ジヤカジヤカジヤンケンナ 婆様に和藤内が呵られて 虎はハウハウツテトロテン なめくでサア来なせへ 跡は狐拳也」とあるが、これも現在のじゃんけんとは異なり、虫拳の類いであろうと推定される。

ウィーン大学日本学を研究する『拳の文化史』の著者セップ・リンハルトは、現在のじゃんけんは江戸時代から明治時代にかけての日本で成立したとしている[5]。『奄美方言分類辞典』に「奄美本土九州)からじゃんけんが伝わったのは明治の末である」と記されており、明治初期から中期にかけて九州で発明されたとする説を裏付けている[6]

明治時代には石・紙(ふろしき)・鋏を出し合う石拳が普及するようになり、明治26年(1893年)には、石拳の一名として「ジャンケン」の語が存在したとされる[4]。明治37年(1904年)の『尋常小学読本 七』には「おにをきめるよ、じゃん、けん、ぽん」という表記がある[7]。また、江戸時代末期に幼少時代を過ごした菊池貴一郎(4代目歌川広重)が往事を懐かしんで1905年(明治38年)に刊行した『絵本江戸風俗往来』にも、「ぢやん拳」について記されている[8][9]

20世紀には、日本の海外発展や柔道などの日本武道の世界的普及、日本産のサブカルチャー漫画アニメコンピュータゲームなど)の隆盛に伴い、急速に世界中に拡がった。

歴史参考

代末期の中国で書かれた『五雜俎』によると、代中国には「手勢令」と呼ばれるゲームがあったという。『五雜俎』では「手掌を以て虎膺とし、指節を以て松根とし、大指を以て蹲鴟とする」などの手勢に関する詳しい記載があるが、遊び方に関して「用法知らず」とされ、当時「捉中指」という遊びのルーツではないかと作者が推測している[10]。『全唐詩』の八百七十九巻には「招手令」について「亞其虎膺、曲其松根。以蹲鴟間虎膺之下」というルールと思われる記述がある。「蹲鴟を以て虎膺の下とす」から三すくみ的要素を見て取れる。

拳遊びを○○拳と呼ぶのは中国の影響と考えられる。○○拳という呼称は中国では主に拳法のことであるが、明代に書かれた『六研齋筆記』に「謂之豁拳」の記述があり、拳遊びのことを「猜拳」「画拳(かくけん)」「豁拳」などと呼んでいた。現在中国で行われているじゃんけんは明治以後に日本から伝わったものと考えられるが、同じ「猜拳」の語で呼ばれている。

石・紙・鋏(はさみ)のじゃんけんは日本起源で、近代以降日本人の移民や交流で世界各地に広がり、日本と密接な関係を持っていたイギリスの旧植民地[11]南アメリカでも日本人が入植した地域を中心にじゃんけんが行われている。一方、日本との接触が少ない所では石・紙・鋏のじゃんけんは普及していない。

中国や朝鮮では、日本から伝播した際に紙が「布」に置き換わったため「石」・「布」・「鋏」となった。

19世紀後半まで鎖国していた日本に対し、19世紀中ごろのアメリカ大陸横断鉄道建設の労働者など、欧米に早くから多くの移民を送り出してきた中国式の石・鋏・布が世界標準とならなかったのは、中国に現在のじゃんけんが伝来したのが明治以降のことで、当時の中国人がまだ現在のじゃんけんを知らなかったからと思われる。現在の中華人民共和国西部地区(新疆ウィグル)や中央アジアでは未だにじゃんけんがほとんど普及していない。中国語ではじゃんけんの掛け声は「シータォー(石)・チェンツ(鋏)・プー(布)」であるが、「ジャン・ジン・ボー」などと言う人もいる。また、高齢者の中にはじゃんけんを知らない人もいる。

WRPSにおけるじゃんけんの手の出し方。左からそれぞれグー・パー・チョキを表す。

2002年(平成14年)、世界各地のじゃんけん系ゲームのルールを統一し、世界大会を開くためとして「The World Rock Paper Scissors Society(略号:WRPS)」がカナダで結成された。同団体は元々1842年イギリスで設立されたと主張しているが、この頃にはまだ現在のじゃんけん自体が存在しておらず、これはWRPSのジョークである。そもそもWRPS自体が冗談で創られた団体であり、もし本当にじゃんけんが19世紀当時のイギリスで行われていたのなら、旧大英帝国領を中心にじゃんけんが普及していたり、他のヨーロッパ諸国にもイギリスから伝わった明らかな痕跡が見られるはずであるが、そのような事実はない。ヨーロッパでは19世紀以前の文献にじゃんけんは存在せず、20世紀になって日本についての記述からじゃんけんが出てくる。また、20世紀に日本人が海外での体験を書いた書物にも、日本人同士がじゃんけんをしていると欧米人が不思議に思い、何をしているのかと質問されたとの記事が散見され、最近までヨーロッパではじゃんけんがほとんど知られていなかったことが確認できる。このことからもWRPSの設立が比較的最近であることがわかる。

日本が舞台となった『007は二度死ぬ』(1967年(昭和42年))原作の小説では、日本的な雰囲気を出すために主人公ジェームズ・ボンドがじゃんけんをする場面が登場する。

日本のじゃんけんのチョキは、もともと数拳で2を表す人差し指親指を伸ばす形で和鋏の形状をイメージしたもの(男チョキと呼ばれる)だったが、国内を伝播するうちに洋鋏からイメージされた人差し指と中指を使う女チョキが派生した。じゃんけんの原型となった拳遊びは九州を中心とする西日本に多く分布し、古い形態である男チョキも九州を中心に西日本に多い(韓国でも行われている)。男チョキが普及しなかった東京など東日本の一部では「田舎チョキ」と呼ばれることもある。ヨーロッパ諸国のじゃんけんは女チョキしかないが、これは日本の関東地方から伝わったことによるものと推測される。また、日本ではパーを出す場合は五本の指が離れるように広げるが、WRPSのじゃんけんでは(■右の画像のように)五指を揃える。これは「パーは紙である」という意味しか伝わらなかったために生じたものであろう。

語源

じゃんけんの語源には、2人で行うから「両拳」(りゃんけん)[注 2]、チョキを示す「鋏拳」(じゃーちゅあん)が変化したとする説、「石拳」(じゃくけん・いしけん)の「じゃくけん」が変化した説、「蛇拳」(じゃけん)説、じゃんけんの広東語「猜拳」(チャイキュン)説、レプチャ語説など、他にも多くの説があるが不明である[12]

じゃんけんぽんの語源にも、仏教語の料間法意(りゃけんほうい)説や長崎の唐人が伝えたという様拳元宝(ヤンケンエンポウ)説があるが、多数の掛け声の種類があることから疑問であるとされる[12]。一般的な掛け声のホイが転化したという「じゃんけん+掛け声」「じゃんけんほい」説もある。昭和4年の「全国ヂャンケン称呼集」では135種類の掛け声を収集し、後には100種以上の掛け声を収集している[13]

また、以下のようにグー・パー・チョキはすべて日本語であるという説もある。

  • ぐっと拳を握るからグー
  • ぱっと手を広げるからパー
  • チョキンと切るからチョキ

【ヘブライ語説】 ジャンケンポン=ジャン(隠して)ケン(準備して)ポン(来い!)


注釈

  1. ^ "Rock-paper-scissors", "Rock, Paper, Scissors", etc.
  2. ^ じゃんけんぽんについての語源「じゃんけんぽん」は「両拳【石+並】」説 アーカイブされたコピー”. 2006年5月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年9月13日閲覧。
  3. ^ 通常どおり、じゃんけんの掛け声を繰り返すこともある。時折、何度もあいこが繰り返されると「しょ」だけを発声することもある。「あいこでしょ」のかけ声を使わない場合は「ぽん」や「ぽい」だけとなる。
  4. ^ 2011年東京都知事選挙に当選した石原慎太郎2012年東京都知事選挙に当選した猪瀬直樹などがその典型である。
  5. ^ 始める前に決めておく。通常、勝ちを決める場合は少ない方を勝ち、負けを決める場合は少ない方を負けとする。

出典

  1. ^ 中本正智. “じゃんけん ー東京および周辺ー” (PDF). 首都大学東京. 2023年12月25日閲覧。
  2. ^ World Rock Paper Scissors (RPS) Society.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 「外国のジャンケンに挑戦しよう!」指導資料”. 群馬県総合教育センター. 2020年3月31日閲覧。
  4. ^ a b c d 高橋浩徳 2015, p. 156.
  5. ^ Linhart (1998)
  6. ^ 長田・須山 (1977)
  7. ^ 高橋浩徳 2015, p. 160.
  8. ^ 菊池 (1905)
  9. ^ 高橋浩徳 2015, p. 161.
  10. ^ zh:wikisource:五雜俎/卷06
  11. ^ http://square.umin.ac.jp/massie-tmd/rpsmap.html 赤は存在が確認された国。ピンクは、少なくとも一部の人は知っている国。黄色は存在が否定的な国。
  12. ^ a b 高橋浩徳 2015, p. 162.
  13. ^ 高橋浩徳 2015, p. 165.
  14. ^ a b 丸山 (2006)
  15. ^ 札埜和男『大阪弁「ほんまもん」講座』2006年、新潮社、p132
  16. ^ “じゃんけん協会「最初はグー」考案の志村さん追悼”. 日刊スポーツ. (2020年3月31日). https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202003310000130.html 2020年3月31日閲覧。 
  17. ^ “じゃんけん「最初はグー!」の発案者は志村けんさんだった…飲み屋での仲間とのやり取りを「8時だョ!全員集合」のコントに導入”. 中日スポーツ. (2020年3月30日). https://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/entertainment/news/CK2020033002100163.html 2020年3月31日閲覧。 
  18. ^ 「お次はチョキ」とする場合もある。
  19. ^ 「アタマパー」とする場合もある。
  20. ^ 「・・・とは限らない」と続く場合もある。
  21. ^ “2003 World Rock Paper Scissors Championship” (英語). All Things Considered (National Public Radio). (2003年10月24日). http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=1477870 2011年11月3日閲覧。 
  22. ^ Rock Paper Scissors crowns a queen as its champ - Weird News” (英語). Canoe leading Canadian portal. Canoe Inc. (2007年10月25日). 2011年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年11月3日閲覧。
  23. ^ World Rock Paper Scissors Society (official website).
  24. ^ USA RPS League (official website).
  25. ^ UK Rock Paper Scissors Championships (official website).
  26. ^ 大山美和子(他共著)『たのしく遊べるこどものうた 改訂版』鈴木出版、1983年初版、1993年改訂版、163頁。ISBN 978-4-7902-7041-6
  27. ^ 初回放送1988年08月〜09月 https://www.nhk.or.jp/minna/songs/MIN198808_01/
  28. ^ a b c d 杉山実 (2018年12月12日). “「最初はグー」生みの親・志村けん、誕生秘話明かす「飲み屋で酔っ払いをまとめるため」”. エンタメRBB. iid. 2018年12月15日閲覧。
  29. ^ “志村けんさんは「最初はグー!」を始めた人…今ではジャンケンの定番に”. スポーツ報知. (2020年3月30日). https://hochi.news/articles/20200330-OHT1T50187.html 2020年3月31日閲覧。 
  30. ^ 「最初はグー」の次に「お次はチョキ」とする場合もある。






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