※日経エンタテインメント! 2023年9月号の記事を再構成

白雪姫を囲んでにぎやかに歌う7人のこびとたちや、魔法のじゅうたんで空を飛ぶアラジンとジャスミン。あるいは『星に願いを』『ホール・ニュー・ワールド』といった名曲の数々や、おなじみのミッキーマウスやくまのプーさんなどのキャラクターたち。年代や国境を超えて、誰しもが何らかの形で親しみがある。それこそが、ディズニー・アニメーションが真に偉大である理由を象徴しているだろう。

グリム兄弟による童話を原作とする、ディズニーの長編アニメーション映画第1作目にして世界初のカラー長編アニメーション映画『白雪姫』(上)。4年もの歳月をかけた労力と巨費を投じた勝負作だったが、空前の大ヒットを記録した。このディズニープリンセス・ストーリーの成功から一転、『ダンボ』(下)では耳の大きな赤ちゃんゾウ、ダンボの冒険物語を描いて世界を魅了した。ディズニープラスで配信中
グリム兄弟による童話を原作とする、ディズニーの長編アニメーション映画第1作目にして世界初のカラー長編アニメーション映画『白雪姫』(上)。4年もの歳月をかけた労力と巨費を投じた勝負作だったが、空前の大ヒットを記録した。このディズニープリンセス・ストーリーの成功から一転、『ダンボ』(下)では耳の大きな赤ちゃんゾウ、ダンボの冒険物語を描いて世界を魅了した。ディズニープラスで配信中

 ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ(通称ディズニー・アニメーション)は、1923年にウォルト・ディズニーとロイ・O・ディズニーの兄弟によって設立された。現在は米カリフォルニア州バーバンクに本社があるウォルト・ディズニー・カンパニーのアニメーション制作主要部門の1つとして、長きにわたり数々の傑作を生み出し続けている。

 アニメの代名詞として、常に業界をリードしてきたディズニー・アニメーション。27年の短編映画『しあわせウサギのオズワルド』では耳の長いヒーロー、オズワルドが人気を博し、オリジナルグッズも作られるようになった。

 ビジネスを大きく飛躍させたのが37年12月、3年以上の歳月をかけた世界初の長編カラーアニメーション映画『白雪姫』だ。本作の空前の大ヒットが、スタジオを長編映画製作という新たなビジネスへと導いた。以後、『ピノキオ』、クラシック音楽に合わせて物語が繰り広げられる映画『ファンタジア』、『ダンボ』と続き、42年には『バンビ』が公開された。

 2D(手描き)アニメーションの定番となった多くの技術、手法、コンセプトを開発し確立しながら、技術革新と意欲的な挑戦、そして万人の心をとらえるキャラクターと胸を打つ物語を次々と世に送り出す。現在に至るまでアカデミー賞の常連でもあるディズニー・アニメーションは、時を経るにつれてさらにその評価と人気を高めていった。

 戦後の50年代は、『シンデレラ』『ふしぎの国のアリス』『ピーター・パン』『わんわん物語』、そして初の70mmフィルムによる大画面の映画『眠れる森の美女』を相次いで製作。61年に公開された『101匹わんちゃん』は、従来のアニメーションの紙の原画からセル画に描き写す工程にゼロックス・プロセスを導入した。これは、その後のディズニー・アニメーションでも定番となるアートスタイルになった。

 また64年には、映画とはまさにテクノロジーの進化とともにあることを改めて実感させられる実写とアニメーションの合成映画『メリー・ポピンズ』が大ヒットした。同作は2018年に続編が公開されたが、ここまでの主な作品と次に述べる第2黄金期のヒット作は、10年代以降に実写化などが相次いでいる。レガシーが次の100年に向けて着実に受け継がれている証といえるだろう。

ヒロインが時代を切り開く

 次に大きな転機となったのは、89年に公開された『リトル・マーメイド』だ。『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』へと続く、ディズニー・ルネサンスとも言われる第2黄金期の幕開けとなった本作以降、アメリカで製作される長編アニメーション映画の数が大幅に増加したことからも、業界全体にまで多大な影響を与えたことが分かるだろう。

 ディズニーはトレードマークともいえるディズニープリンセス・ストーリーに回帰。しかし、そのヒロイン像は劇的に変わった。自らの手で幸せをつかみ取る主体的で現代的な主人公アリエルは、その後のディズニー・アニメーションの方向性を決定づけた。

第2次黄金期を語る上で欠かせないのが、ハワード・アシュマンとアラン・メンケンの作詞・作曲コンビによる楽曲だ。『リトル・マーメイド』に始まり、『美女と野獣』(上)や『アラジン』などのマスターピースを立て続けに発表した。ハンス・ジマーが音楽を手掛けた『ライオン・キング』(下)も含めて、各ミュージカル舞台版も大ヒットを記録。10年代以降、これらの作品群は実写化され、新しい時代の価値観を反映しながら受け継がれている。ディズニープラスで配信中
第2次黄金期を語る上で欠かせないのが、ハワード・アシュマンとアラン・メンケンの作詞・作曲コンビによる楽曲だ。『リトル・マーメイド』に始まり、『美女と野獣』(上)や『アラジン』などのマスターピースを立て続けに発表した。ハンス・ジマーが音楽を手掛けた『ライオン・キング』(下)も含めて、各ミュージカル舞台版も大ヒットを記録。10年代以降、これらの作品群は実写化され、新しい時代の価値観を反映しながら受け継がれている。ディズニープラスで配信中

 00年代に入るとCGアニメーション全盛期に突入。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは、2DアニメーションとCGアニメーションの両方の利点を使って制作するスタジオとなる。

 08年のフルCGアニメーション映画『ボルト』がアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされたことで、ディズニーのCGアニメーションの質の高さが広く業界内外に知られることとなった。一方で、09年に公開された『プリンセスと魔法のキス』は、スタジオにとって5年ぶりの2Dアニメーション映画として話題を呼んだ。さらに13年には、ディズニー・アニメーションの歴史は女性の主人公が新時代を切り開いていくのだと思わされる、時代を象徴する大ヒット作が登場した。童話『雪の女王』を題材にした、フルCGアニメーション映画『アナと雪の女王』だ。

 本作はディズニー・アニメーション映画として、初めて全世界で10億ドルを超える興行収入を記録した。王子との恋ではなく姉妹の関係を軸とする物語は、多様な考え方を新たに提示した点でも興味深い。“王道”といわれるディズニー・アニメーションが新たな価値観に取り組むからこそ、その影響力は大きくインパクトもあった。

 10年代も『ベイマックス』『ズートピア』『モアナと伝説の海』『アナと雪の女王2』『ミラベルと魔法だらけの家』といった優れた作品、多くの新たなIPが生まれた。節目となる23年の12月には、100周年記念作のドラマティック・ミュージカル映画『ウィッシュ』が公開となる。テクノロジーと芸術性、メッセージ性の融合が、次の100年に向けてどのような魔法を見せてくれるのかに期待が募る。

CGアニメーション全盛期に突入した00年代。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは2DアニメーションとCGアニメーションの両方の利点を使って制作するスタジオとなった。2013年に公開された『アナと雪の女王』が空前の大ヒットを記録。10年代にはマーベル・コミックスの『ビッグ・ヒーロー・シックス』にインスパイアされた『ベイマックス』(上)、動物たちを通して人間の世界を描く意欲的な娯楽作『ズートピア』(下)などの優れた3DCGアニメーション映画が次々と生まれた。ディズニープラスで配信中
CGアニメーション全盛期に突入した00年代。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは2DアニメーションとCGアニメーションの両方の利点を使って制作するスタジオとなった。2013年に公開された『アナと雪の女王』が空前の大ヒットを記録。10年代にはマーベル・コミックスの『ビッグ・ヒーロー・シックス』にインスパイアされた『ベイマックス』(上)、動物たちを通して人間の世界を描く意欲的な娯楽作『ズートピア』(下)などの優れた3DCGアニメーション映画が次々と生まれた。ディズニープラスで配信中
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