2022年6月26日、果実株式会社が企画するSound ART Project「FLUcTUS」(フラクタス)の体感イベント「Sound ART Project FLUcTUS -SYMBOL-」が行われた。このイベントに登場したのが音楽プロデューサーの小室哲哉とイラストレーターの寺田てらだ。2人にこのプロジェクトの狙いやNFT(非代替性トークン)の可能性などを聞いた。
フラクタスは、「fluctus=波」をコンセプトに光と音の波の融合による作品を生み出すというもの。最初のテーマは「SYMBOL」で、音楽プロデューサーの小室哲哉、イラストレーターの寺田てら・popman3580・撃鉄・九島優、グラフィックアーティストのVictor Kaitoなどのコラボレーションによる全5作品が、NFTプラットフォームのOVO(本社は香港)で、オークション形式などで販売された。
このプロジェクトの狙い、そしてNFTの展望などについて、当日、イベントに参加した小室と寺田に話を聞いた。小室は今回のコラボレーションを「音楽をNFTで出展するうえで一番適切な方法」だと語る。
▼関連リンク NFT(非代替性トークン)プラットフォームのOVO――このプロジェクトに参加することになったいきさつは?
小室哲哉(以下、小室) 僕が立ち上げたプロジェクトという形ではなく、フラクタスというプロジェクトが既にあって、その音楽を担当するオーダーを頂いたという形です。映画制作で音楽を担当してもらえないかという感じに似てますね。
――今回の作品のような、イラストレーションと音楽を組み合わせた作品を作り、それをNFT化することについて、どう感じていますか。
小室 実は、音楽をNFT化するのってすごく難しいんです。音楽は視覚的に見えるものが何もなく、強いて言えば譜面ぐらいしかない。そのハードルを越えて、作品として出展すること自体が大変なんです。
10年ぐらい前から、様々なアートやグラフィックスの方たちとインスタレーションの取り組みをしてき経験から言えることですが、そういう方たちと組むことで、音楽が立ててもらえるようになり、より生きてくる。ただ音楽を流すだけではなく、今回のようにイラストレーターの方たちと一緒になってこそ、音楽が耳に入っていくようになる。音楽をNFTで出展するうえで一番適切な、非常に助かる方法なので、僕はとても喜んでいます。
――NFTは、エンタテインメントやデジタルコンテンツがどんな影響を与えていくと考えていますか。
小室 音楽について言えば、もうCDからダウンロード、そしてストリーミングへと変化しています。「あれは、どんな曲だったっけ?」というときにぱっと聴ける、まるで蛇口をひねれば出てくる水のようになっている。
それは便利ですが、その分だけ希薄になってしまうところもあります。例えばビートルズの名曲と、まだアマチュアの新人の曲とが、表面的には同一線上に存在している。そこでNFTを利用することで、その楽曲が“こういう特別なものだ”ということが言えるようになるかもしれません。
そのうち、アートにおけるキュレーターのような人たちが音楽にも出てくるんじゃないかと思っています。そうした人たちが価値を評価していくことで、同一線上にある、蛇口をひねれば出てくる水のようなものから、“これはちょっとすごく特別な作品なんですよ”ということが、ひと目で分かるようになるかもしれない。
作家へのリスペクトがある巨大な拡散が起こる可能性も
小室 ストリーミングでは再生回数が表示されます。NFTがもっとみなさんにとって使いやすいものになれば、NFTで転売された回数や拡散された回数が、再生回数のような指標になるかもしれません。
転売はチケットの転売問題などで悪とされていますが、NFTの仕組みであれば最初に作ったクリエーターや作家に還元できます。還元は、そのクリエーターや作家へのリスペクトと言えるでしょう。売買がただの商売から、還元を通じて一番最初に作ったクリエーターや作家のことを想うものになる。チケットの転売のように物は人の手から手へと動くけれども、その意味合いは全く違ったものになるわけです。
まだまだ法整備も含めて色々なことが必要ですが、例えばNFTの転売に“1万人に拡散していい”というオプションを付けて、その拡散がiPhoneのAirDropのような仕組みで送れたらきっと面白いでしょう。売買されて拡散された回数に、ストリーミングの再生回数とは違う意味が出てきます。そうした、クリエーターや作家へのリスペクトがある巨大な拡散が起こりうるのではないかと思います。
絵画の話になりますが、例えば絵画の裏側などに“誰が何年から何年まで所有していた”と履歴が記されていることがあります。歴代の所有者が有名人だったり、面白い人だったりすると、それがその絵画にさらに意味をもたらします。そうしたことが今まで音楽ではできませんでしたが、履歴が残るNFTによって可能になる。そうなってきたらすごいことだと思います。
――小室さんは、1999年に発行された『日経エンタテインメント!』臨時増刊号(『日経デジタルエンタテインメント!』)のロングインタビューで、現在のストリーミングの様子を予見されていましたが、今後、音楽の可能性を広げていきそうな注目している技術などはありますか?
小室 例えば、ジェネレーティブアート(コンピュータープログラムによるアルゴリズムなどから生成されるアート作品)でしょうか。ちょっとずつ違う1万点もの作品が一気に出展されることもあります。1点物も大事ですが、そうしたまとまった作品に音を付けることがちょっと面白いかなと思っています。
視覚の情報は一瞬にして察知することができるので、今回のような、1人1点の絵がグラフィック技術で動いたとしても、おそらく3分は持たないと思うんですね。例えばアニメは何万、何十万という枚数でやっと1つの物語になる。それに比べたら音楽はそこまで膨大な量ではないけれども、それらをまとめて1つのものにする力があると思うんです。そういった、すごい物量を持っているアーティストとかと、今後組めればいいかなと思います。
後編に続く