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2023年8月14日
中南米

カブトムシ違法取引で日本人が逮捕? 「エキゾチックペット」消費大国との批判も

夏休みの人気者で、子どもたちが夢中になって探すカブトムシ。

しかし近年、異常事態が…。

南米の空港で日本人が相次いで逮捕され、有罪判決まで出されているというのです。

いったい何が起きているのか? 南米を取材しました。

(政経・国際番組部ディレクター 下方邦夫、サンパウロ支局長 木村隆介)

日本人に販売するためにカブトムシが乱獲?

「カブトムシの減少の責任の一端は、明らかに日本向けの違法売買です。日本人は本来、規律を重んじる文化を持った人たちだと思っています。ぜひ、こうした状況を知ってほしいのです」

こう話すのは、南米ボリビアを代表する昆虫学者のフェルナンド・ゲラ博士です。

フェルナンド・ゲラ博士

ゲラ博士が危惧しているのが、日本人に販売するためにカブトムシが乱獲されていることだといいます。

博士が作成にかかわったボリビア環境省のレポート(2020年)には、ボリビア固有種の「サタンオオカブト」が、密猟と違法売買が一因となって絶滅危惧種になったと報告されています。

ボリビアは野生生物の保護に力を入れていて、30年前からカブトムシを含むすべての野生生物の商業目的での輸出を法律で禁止しています。

それにもかかわらず、近年、違法にカブトムシを持ち出そうとする動きが活発になっているのだといいます。

日本向けの違法取引対策を強化

いったい何が起きているのか。実際にボリビアを訪れ、現地を取材しました。

ボリビアなど南米の国々は、ヘラクレスオオカブトやネプチューンオオカブトなど、大型のカブトムシの原産地。

ボリビアの山間部

現地では、違法なカブトムシの持ち出しに対して、警察による取り締まりが行われていました。

首都ラパスの警察署に行って話を聞くと、数年前からカブトムシのインターネット上の売買を監視するなど、日本向けの違法取引の対策を強化していると教えてくれました。

カブトムシの調査をするボリビアの警察官

なぜ日本向けなのか。ボリビア警察が対策に乗り出すきっかけの1つになったのが、2016年に起きた事件です。

ボリビア人女性が、カブトムシなど約2800匹の甲虫を箱の中に入れて国外に持ち出そうとしたのが見つかり、空港で逮捕。

販売先の1つとみられるのが、日本だったのです。

追跡、密売ルート

どうやって違法にカブトムシを持ち出そうとしているのか。

ボリビアの昆虫学者、ゲラ博士が市民への聞き取り調査を行っているというので、同行させてもらうことにしました。

この日、向かったのは首都から車で3時間ほどの山あいの小さな村々です。

聞き取り調査をするゲラ博士(右)

博士が話を聞いたのは、地元の観光ガイドや農家の人たち。コロナ禍前までは、ペルー人やチリ人などのバイヤーがよくこの場所に来てカブトムシを購入していたと話していました。

博士によると、カブトムシはこうした外国人バイヤーを通じて、日本人業者の手に渡っているといいます。

調査に同行している途中、地元に暮らす男性に話を聞くことができました。

男性は、かつて日銭を稼ぐために、カブトムシを捕まえて外国人バイヤーに売っていたと赤裸々に明かしました。

カブトムシを売っていたという男性

「バイヤーがたくさん来ていたので、1匹50ボリビアーノ(約1000円)ほどで売りました。3、4匹捕まえれば数日間は食べるのに困らなかったです。今でも捕獲している人を見かけますよ。夜に川でライトをつけているので、すぐにわかるんです」

ゲラ博士によると、この地域に住む人たちにとってカブトムシの販売は、貴重な収入源になっていて、村人から外国人バイヤー、外国人バイヤーから日本人業者へという密輸の流通ルートができあがっているのだといいます。

コロナ禍で往来は一時的に途絶えているものの、博士は、外国人バイヤーたちは必ず戻ってくると話しました。

南米で相次ぐ日本人の逮捕

実は近年、南米の空港で日本人が逮捕される事案が相次いでいます。

いずれも現地の法律に違反して、カブトムシを含む昆虫を大量に持ち出そうとしたとして逮捕されているということです。

2019年にはエクアドルで、日本人男性が首都キトにある国際空港で、カブトムシだけでなくクモやサソリなどを違法に持ち出そうとしたとして拘束され、裁判では執行猶予付きの禁錮2年の有罪判決が出されました。

また、2020年にはブラジルの最大都市サンパウロの空港で日本人の男性がカブトムシなどの昆虫99匹を持ち出そうとしたとして、逮捕されました。

ブラジルで押収されたカブトムシ

これは、南米の多くの国では野生生物保護などの理由で、特別な許可がない限り、カブトムシを持ち出すことを法律で禁止しているためです。

一方で、日本の水際では「植物防疫法」と「ワシントン条約」によって数十種類のカブトムシのみが輸入規制の対象となっていて、規制の対象となっていないカブトムシの場合、南米を出国していったん日本に持ち込んでしまえば、海外の法律までは調べられないのが実情です。

カードゲームで高まったカブトムシ人気

南米からの輸出が禁止されているにもかかわらず、一部の業者による違法持ち出しの動きが後を絶たない背景の1つには、日本で過熱するカブトムシ人気があります。

2023年7月初旬に開催されたカブトムシの販売会。

会場を訪れると、販売会が始まる前から長い行列ができ、数時間のうちに約1000人の昆虫ファンが詰めかけるほどの盛況ぶりでした。

訪れた人たちの中で特に目立ったのが、20代~30代の若者や家族連れです。

実は、20代~30代の昆虫ファンは「ムシキング世代」と呼ばれていて、2000年代に流行した昆虫のカードゲームに小さいころに熱中した人が多いとされています。

そして大人になった「ムシキング世代」が、カブトムシの飼育に乗り出しているというのです。

実際に会場を訪れた人たちに話を聞くと、そのことを裏付けるような声が聞かれました。

「カードゲームがきっかけで、カブトムシが好きになりました」

「小さいころの熱が大人になって再燃して、飼い始めました」

こうしたカブトムシ人気の高まりの中、珍しい種類を高額で購入する愛好家も現れ、オークションサイトでは、ヘラクレスオオカブトが1匹300万円以上で落札されたケースまでありました。

ヘラクレスオオカブトの標本

さらにコロナ禍で在宅でもできる趣味としてカブトムシの飼育をしたいという人たちも増えているということで、ペット需要に拍車がかかっているとみられています。

密輸の背景にあるのは?

日本の販売会や昆虫ショップで販売されている南米産のカブトムシの多くは、南米の国々がカブトムシの持ち出し規制を厳格化する以前に輸入され、日本国内で繁殖させたものです。

過去に合法的に輸入され、国内で繁殖させたカブトムシを販売するのであれば、問題はありません。

しかし、カブトムシの流通に詳しい九州大学大学院の荒谷邦雄教授によると、過去に輸入したカブトムシを繰り返し交配させて繁殖させると、きょうだいや家族どうしの交配が増え、徐々に奇形や死にやすい個体が発生してしまうといいます。

新たなカブトムシを南米から輸入できないと、いずれ販売できなくなるかもしれないことが、一部の業者が密輸を行う一因になっていると、荒谷教授は指摘しています。

高値で取り引きされる「ワイルド個体」

こうして生じる、海外の野外で採集されたカブトムシを輸入して交配したいという需要。

取材を進めると、野外で採集された個体は「ワイルド個体」と呼ばれ、高値で取り引きされているとみられる実態も明らかになってきました。

調べてみると、インターネット上では、南米産の「ワイルド個体」は、「ワイルド」「WILD」「WD」などと書かれて、高値で販売されていました。

また、大阪府にある昆虫ショップを訪れると、数年前にある業者から「ワイルド個体」を含む南米産カブトムシを買わないかと持ち掛けられたと明かしてくれました。

昆虫ショップ「ネシア」代表 曽我忠さん

「メールでカブトムシのリストが送られてきたので調べてみると、現地の法律に違反していることがわかり断りました。儲けるために違法なことをしてはだめですよね。業界として悪い目で見られてしまうので、私たちとしては絶対にやってほしくないんです」

九州大学大学院の荒谷教授は、日本のこうした現状に危機感を募らせています。

九州大学大学院 荒谷邦雄教授(昆虫学が専門)

「今は、SNSやインターネットで情報が世界に届くわけですから、原産国の人が見てクレームが寄せられれば、国際問題にもなりかねません。日本人として恥ずかしい話だと思いますし、行政として何らかの指導が必要だと思います。は虫類では、すでに免許制度(※)がありますし、昆虫を販売する業者や愛好者みずからが、自主的な対応をするような組織を作る動きが出てほしいと思います」

※動物愛護管理法に基づく登録制度

「エキゾチックペット」の消費大国、日本?

過熱するカブトムシ人気を背景に、相次いでいるとみられる密輸。

日本で人気のある生き物をめぐる密輸は、カブトムシにとどまらないという報告もあります。

そう指摘するのは、野生生物の違法取引を監視している国際NGO「トラフィック」で、2020年に発表した報告書の中で、次のように指摘して日本を批判しています。

「日本での需要は、継続的に国際的なエキゾチックペット取引の推進力になっている」

犬や猫を除いた珍しいほ乳類、それに昆虫、両生類、は虫類などは「エキゾチックペット」と呼ばれていて、日本はこうした「エキゾチックペット」の取引で、長年“消費大国の1つ”になっているというのです。

日本でカブトムシは、子どもたちのあこがれの昆虫ですが、カブトムシも含めて「エキゾチックペット」をめぐっては、一部の大人たちによる、違法な金儲けの道具となっている現状が浮かび上がってきました。

そして、それは単なる金儲けにとどまらず、原産国においては、密猟や違法売買によって、生態系の急激な変化を引き起こしている恐れもあります。

こうした現状に、日本として早急な対応が求められていると、強く感じました。

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