旧統一教会の解散命令 請求を正式決定 今後の手続きは

旧統一教会をめぐる問題で盛山文部科学大臣は12日、宗教法人審議会が終了したあと臨時の記者会見を開き、教団の行為は民法上の不法行為に該当し、著しく公共の福祉を害するなどとして解散命令の請求を正式に決定し、13日にも東京地方裁判所に請求すると表明しました。

盛山文科相「あす以降、速やかに解散命令請求」

盛山文部科学大臣は12日、宗教法人審議会に出席し、教団の解散命令を裁判所に請求する方針を明らかにし、審議会に意見を求めました。

審議会が終了したあと、盛山大臣は臨時の記者会見を開き、審議会では旧統一教会の解散命令請求を行うことについて、「相当である」と全会一致の意見を得たと明らかにしました。その上で「わたしとしてはあす以降、速やかに東京地方裁判所に対し、解散命令請求を行いたい」と述べ、教団に対する解散命令の請求を正式に決定し、あすにも東京地方裁判所に請求すると表明しました。

理由について盛山大臣は「教団は遅くとも昭和55年頃から、長期間にわたって継続的に信者が多数の方々に対し、自由な意思決定に制限を加え、正常な判断が妨げられる状態で献金や物品の購入をさせて多額の損害をこうむらせ、生活の平穏を妨げた」などと述べました。

そして「教団への損害賠償請求を認容する判決は、文化庁が把握したかぎりでは32件、一審で請求が認容されるなどした被害者の総数は169人、認められた被害の総額はおよそ22億円、1人あたりの金額は1320万円におよぶ」と述べました。

さらに「家族を含めた経済状態を悪化させ、将来の生活に悪影響を及ぼし、その結果、献金しなければならないとの不安に陥ったり、家族関係が悪化したりするなど、本人や親族に与えた精神的な損害も相当甚大だ。多くの人の財産的・精神的犠牲を余儀なくさせて、その生活の平穏を害するものだ。これらの献金や勧誘行為などは旧統一教会の業務ないし活動として行ったもので、『宗教法人世界平和統一家庭連合』の行為と評価できる」と指摘しました。

その上で「このような教団の行為は、民法の不法行為に該当し、その被害も甚大であることを踏まえると、宗教法人法81条1項1号及び2号前段の解散命令事由に該当するものと判断した」と述べ、解散命令の事由の「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」に該当すると説明しました。

このほか盛山大臣は「請求を行うにあたって収集した証拠を報告書として体系的に整理して分析を行い、申立書を作成した。裁判所に提出する証拠はおよそ5000点に及ぶ」と述べました。

請求後は、裁判所が文部科学省と教団の双方から意見を聴いた上で、解散命令を出すかどうか判断することになります。解散命令が確定した場合、宗教上の行為は禁止されませんが、教団は宗教法人格を失い、税制上の優遇措置が受けられなくなります。

一方、教団側は、教団の活動には国が主張するような組織性、悪質性、継続性はなく、解散命令を請求する要件を満たさないと反論しています。

岸田首相「客観的な事実に基づき、厳正に判断をした」

岸田総理大臣は12日夕方、総理大臣官邸で盛山大臣と会談し、宗教法人審議会の審議を経て、教団に対する解散命令の請求を正式に決定したと報告を受けました。

岸田総理は会談のあと記者団に対し、「今回の判断は宗教法人法の法律に基づいて手続きを進め、客観的な事実に基づき厳正に判断をしたと認識している」と述べました。

また記者団が「衆参の補欠選挙や臨時国会を控え、政治的な判断ではないか」と質問したのに対し、「さまざまな情報収集などを行った結果、具体的な証拠などの客観的な事実が明らかになったことから、文部科学大臣として判断したものだ。被害者ひとりひとりの心情にも配慮しなければならないことから、丁寧な作業が必要とされたと聞いている」と述べました。

さらに「自民党の所属議員と教団との関係は本当に断てるのか」と問われ、「党のガバナンスコードを改定し、教団の活動を助長すると誤解を与えることがないよう、厳に慎む方針も明記した。自民党の国会議員は、この方針に従って関係を遮断していると認識しているし、これからも徹底するよう努力を続けていきたい」と述べました。

このほか、立憲民主党や日本維新の会が教団の財産を保全し、被害者の救済にあてるための法案を臨時国会に提出する方針を示していることについて、「今の段階では動きを注視していきたい」と述べました。

櫻井義秀教授「請求を行うことは評価できる」

文部科学省が解散命令請求を決定したことについて、宗教社会学が専門の北海道大学の櫻井義秀教授は「旧統一教会の問題は30年間ずっと言われ続け、被害者による裁判もあった。しかし、文部科学省はこれまで対応してこなかった。宗教法人の所轄官庁として旧統一教会の活動に関してしっかり評価した上で、『公共の福祉を害する活動を行っていた』と認めて解散命令の請求を行うことは評価できる」と話しています。

また、今回の請求ではこれまでのケースとは異なり、民法上の不法行為を根拠に行われることについては、「『人を殺してない』とか『詐欺』と明確に判断されるような事件を多発させてないから、問題がないということにはならない。少なくとも信者を不幸にしないことと、一般社会に対して危害を加えないという、宗教法人としての最低ラインを確認したといえる。これを満たさない場合は法人としては認められないいうある種の基準を示したのだろう」と分析しています。

その上で請求後の対応について「社会がどう対応していくのかは非常に大きな問題だ。献金を取り戻したいという元信者や現役信者のために継続して相談できる機関を設けるとともに、脱会した信者の精神的ケアも必要になる」として、支援体制を整える必要があると話していました。

田近肇教授「裁判所が改めて事実認定する必要」

憲法が専門で宗教法人法に詳しい近畿大学の田近肇教授は、「解散命令を請求する際にも審議会の意見を聴くなど、法律上は必要ないはずのことを行ったところからみても、憲法が保障している『信教の自由』への配慮が現れている」という見方を示しました。

請求を決めた根拠として文部科学省が
▽被害の大きさや苦痛の程度
▽物品販売や献金勧誘のマニュアルの存在
▽昭和55年以降、継続的に被害が続いている
点などを挙げていることを受け、田近教授は「悪質性と組織性についてはそれなりに説得力がある」とした一方、継続性については「賠償が命じられた判決や和解の具体的な数字が示されているが、時期はわからず、昔の話の可能性もある」と述べ、今後の審理の争点になると指摘しました。

初めて民法上の不法行為を根拠に解散命令の請求がされることについて、「オウム真理教や明覚寺の場合は刑事事件化されていて、裁判所が詳しい事実認定をしていたのに対し、今回はそれがなく旧統一教会の行為が本当に組織性や悪質性、継続性があるのか、裁判所が改めて事実を認定していく必要がある。その分、裁判所の審理に時間がかかるなど影響があるのではないか」と話しています。

その上で「直感的には霊感商法は詐欺ではないかと思うかもしれないが、通常の宗教活動との境界線はどこにあるのか改めて問われると判断が難しく、その意味で裁判所は難しい判断を迫られる」と指摘した上で、「法律論よりもむしろ、文部科学省が請求を決めた具体的な中身に関する事実認定が、命令を出すかどうかの判断の分かれ目になる」との見方を示しました。

被害を訴えている男性「やっとスタートライン」

旧統一教会に対する解散命令の請求を文部科学省が決定したことを受けて、立憲民主党や共産党などは、国会内で会合を開きました。

元妻が信者で、多額の献金被害を訴えている橋田達夫さんは、会合に出席したあと記者団に対し「ひとつの通過点としてここまで来たことに感謝しかないが、解散命令請求を出さないと解散命令は出ないので、やっとスタートラインだ。旧統一教会の財産を保全する法整備は絶対に必要だ」と述べました。

また母親が多額の献金被害を受けた60代の女性は「解散命令請求が出るのはよかったが、被害者救済はこれからが大変だ。旧統一教会の財産の保全は、どれほど急いでも急ぎすぎることはない。深刻な被害者がいることをまず第一に考えて、与野党が一丸となって早急に法案を作ってほしい」と述べました。

解散命令の請求 所轄庁や検察官などが行う

解散命令の請求は、文部科学省や自治体といった所轄庁や、信者などの利害関係者、それに検察官が行うことができます。

また、宗教法人法では、解散命令について定めた81条の1項にある5つの事由に該当する場合、裁判所が解散を命令できるとしています。

文部科学省は教団について「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をした疑いがあるとして、質問権を行使して調べていました。

去年10月の国会で岸田総理大臣は、行為の「組織性、悪質性、継続性」などが認められる場合、解散命令請求の要件として民法上の不法行為も入りうると答弁していました。

請求後は東京地裁が判断

宗教法人の解散命令が請求されると、その法人が本部を置く都道府県にある地方裁判所が審理を担当することになっていて、旧統一教会の場合は東京地方裁判所が解散を命じるかどうか判断することになります。

解散命令請求の審理は通常の裁判と異なり非公開で行われ、裁判所は解散命令を請求した側と教団側の双方の意見を聞いたうえで、命令を出すかどうか判断します。

地方裁判所の判断に対しては請求した側と教団側のどちらも不服を申し立てることができ、審理が高等裁判所や最高裁判所まで続くこともあります。

地裁の判断に対して不服の申し立てがされると、解散命令の効力は停止されます。その後、高等裁判所で解散を命じる判断が出た場合、その時点から効力が生じ、宗教法人の解散に関する手続きが始まることになります。

命令が出されると宗教法人としては解散

解散命令が出されると、宗教法人としては解散となり、固定資産税の非課税などの優遇措置が受けられなくなり、財産を処分しなければならなくなります。

財産については
▽清算手続きの結果、借金が残れば清算人が裁判所に破産手続きの開始を申し立てます。
▽財産が残れば法人の規則に従って処分され、規則がなければ他の宗教団体や公益事業のために譲渡するか、国庫に帰属します。

宗教法人は解散しても宗教上の行為が禁止されるわけではありません。引き続き信者が教義を信仰し、任意の宗教団体として活動を続けることは可能です。

過去には「オウム真理教」と「明覚寺」

これまでに国や地方自治体などの所轄庁が「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」という理由で、解散命令を請求した事例は▽1995年のオウム真理教、▽1999年の明覚寺の2件があります。

いずれも地方裁判所が解散命令を出したあと教団側が不服を申し立て、最高裁判所まで争われた結果、最終的に解散命令が出されました。請求から解散命令の確定まで、オウム真理教が7か月、明覚寺は3年かかりました。

このうち、地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教については、東京地方検察庁と東京都が請求し、最高裁判所が「大量殺人を目的として毒ガスであるサリンを大量に生成することを計画した上、多数の信者を動員し、計画的、組織的にサリンを生成した。法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」などとしました。

また、和歌山県に本部があった明覚寺は、教団幹部などが詐欺事件で有罪判決を受けたことなどが解散命令の根拠となりました。

いずれも教団幹部が刑事罰を受けていますが、旧統一教会に関しては過去に幹部の刑事責任が問われたことはなく、民法の不法行為を根拠に解散命令が請求されるのは初めてです。

審議会 大学教授など19人で構成

宗教法人審議会は文部科学大臣の諮問機関で、現在は宗教団体の幹部や大学教授など19人の委員で構成されています。

宗教法人法では「質問権」を行使する際は、宗教法人審議会に質問項目の案を諮問するよう定められていて、旧統一教会に対する7回の質問権の行使の際は、いずれも「相当」と認める答申が出されていました。

一方、解散命令の請求については、審議会への諮問は法律上、必要ありませんが、文部科学省は信教の自由に配慮し、慎重に手続きを進めるために意見を聞いているものとみられます。

行政罰の「過料」を科すよう求めた際も同様で、9月6日の宗教法人審議会では「過料」を科すよう求める方針が表明され、出席した委員から「相当だ」という意見が出された上で、文部科学省は翌日、東京地方裁判所に過料を科すよう通知しています。

これまでに「質問権」を7回行使

去年10月、旧統一教会をめぐる高額な献金やいわゆる「霊感商法」の問題を受けて、岸田総理大臣は当時の永岡文部科学大臣に「質問権」の行使による調査の実施を指示しました。

「質問権」は、宗教法人法で解散命令に該当する疑いがある場合に行使できると定められていますが、1996年に改正法が施行されてから、実際に行使されたことはありませんでした。

そこで専門家会議が立ち上げられ、
▽宗教法人に所属する人が法令違反を繰り返しているケース
▽その被害が重大なケース
などが「質問権」を行使する対象になるなどとする基準が設けられました。

文部科学省は、旧統一教会や信者の不法行為を認めた民事裁判の判決が22件あり、賠償額が少なくとも14億円になることなどから、宗教法人審議会に諮った上で去年11月、1回目の質問権を行使しました。

ことし7月までに質問権を7回行使し、
▽組織運営
▽財産・収支
▽献金
など、500余りの項目について報告を求めました。

これに対し、教団側の回答は、1回目の「質問権」には大きめの段ボール8箱分、2回目は小型の段ボール12箱分でしたが、回を重ねるごとに回答量は減少し、最後の7回目はレターパック1通分と宅配用紙袋1つ分でした。

国が裁判所に提出する証拠資料

文部科学省は、教団側が100項目以上で回答を拒否しているとして、9月7日、行政罰の過料を科すよう東京地方裁判所に通知しました。

その一方で、文部科学省は
▽旧統一教会と交渉してきた弁護士
▽被害を訴える元信者
などへの聞き取りも行い、献金集めの手法など教団の実態について調査を進めてきました。