大阪 通学路の危険なブロック塀 対策済は1割余 なぜ進まない?

5年前、大阪府北部で震度6弱の揺れを観測した地震では、小学校のブロック塀が倒れ、下敷きになった女子児童が死亡しました。この地震のあと、大阪府内の自治体が小中学校の通学路にあるブロック塀を点検した結果、およそ8800か所が「危険」とされた一方、撤去などの対策が確認されているのは1割余りにとどまることがNHKの取材でわかりました。

無くならない被害

2018年6月に発生した大阪府北部を震源とする地震では、震度6弱の激しい揺れを観測した高槻市で、小学校に設置されたブロック塀が倒れ、通学途中だった小学4年生の女の子が下敷きになって死亡しました。

宮城県沖地震(1978年)の被害の様子

実は、地震で倒れたブロック塀の下敷きになるなどして死亡するケースは、これまでに何度も繰り返されています。

当初、この問題が注目されたのは1978年の「宮城県沖地震」です。この時、宮城県で9人がブロック塀の倒壊で死亡しました。

これをきっかけに対策の必要性が指摘されてきましたが、その後も2005年の「福岡県西方沖地震」、2016年の「熊本地震」でも倒壊したブロック塀で犠牲者が出ました。

そして5年前・2018年の大阪北部の地震でも女の子が亡くなったのです。

通学路の「危険なブロック塀」対策済 わずか1割余

地震から5年となるのを前に、今回、小中学校の通学路にあるブロック塀の安全対策の現状について大阪府内の43の市町村すべてに取材したところ、地震後の各自治体の点検で、およそ8800か所のブロック塀が、法令で定められた基準より高いとか、傾いているなどの理由で「危険」とされていたことがわかりました。

しかし「危険」とされたブロック塀のうち、これまでに撤去などの対策が確認されているのはおよそ1100か所で、全体の1割余りにとどまっていました。

全体の4分の1にあたるおよそ2200か所については対策がとられておらず、残りのおよそ5500か所は、対策がとられたかをどうかを自治体が把握していませんでした。

各自治体によりますと、通学路のブロック塀の多くは住宅などの私有地に設置されていて、所有者に撤去するなどの意思がなければ対策を進めるのは難しいということです。中には、状況が変わらないことから通学路のルートを変更したケースもありました。

高槻市 住宅を1軒1軒訪問して

高槻市では、5年前の地震後の点検で、通学路にあるおよそ90か所のブロック塀が危険とされましたが、このうちおよそ25か所は対策がとられないまま残っています。

これらはすべて民間の所有だということで、市は撤去を促していますが、危険性が十分には伝わらないとか、撤去に関する費用がかかるといった理由で思うように進まないといいます。

一方、金銭的な負担を軽減するため、大阪府内では、高槻市を含めて現時点で19の市と町が、危険なブロック塀を撤去するための費用を補助する制度を設けています。

高槻市の場合、道路や公園に面している高さ80センチ以上のブロック塀が対象で、補助額は1平方メートル当たり1万3000円、最大300万円までです。

多くの児童が通る通学路では、市の担当者が住宅を1軒1軒訪問し、撤去を呼びかける取り組みを続けています。

今月5日に訪れた高さ1.5メートルほどのブロック塀がある住宅では、担当者は倒れたときの危険性を訴えながら、補助金の制度や必要な手続きを説明していました。

住人の男性はこれまで危険性を認識していなかったということで、担当者の説明を聞いたあと「撤去を検討します」と答えていました。

高槻市が補助制度を設けたのは地震の翌月で、ことしの3月までの4年8か月間に合わせて578件の申請があったということです。

高槻市審査指導課/釘村和克さん
「ブロック塀は個人の所有物なので、所有者に危険性を十分理解してもらえないと、対策はなかなか進みません。地震から5年が経過し、当時の記憶や恐怖が少しずつ薄れていくなかでも『二度と繰り返さない』という気持ちで取り組みを続けていきたい」

ブロック塀をフェンスに変えた男性

前川孝夫さん(92)は、高槻市の補助制度を使って、去年7月、自宅のブロック塀を撤去しました。

前川さんの自宅は、およそ50年前に建てられ、以前は道路に面して高さ2メートルのブロック塀が設置されていました。

この道路は近くにある小学校の通学路になっていて、5年前の地震のあと、ブロック塀を自宅の壁に固定する応急的な工事を行いました。

それでも、自宅の前を子どもたちが通る姿を見るたび、不安な気持ちになっていたということで、去年、撤去に踏み切りました。

前川さんの背中を押したのは、息子と娘から言われた「地震ではあちこちでブロック塀が倒れている。このまま放っておいてもし事故が起きたら一生悔いが残るで」ということばでした。

撤去費用は36万円余りでしたが、市の補助制度を使ったことで自己負担は3万円余りに抑えられました。

ただ、撤去したブロック塀の代わりとしてフェンスを設置するのに100万円余りが必要で、補助の対象にはならないため自己負担することになりました。

ブロック塀を撤去した前川孝夫さん
「早く対処しなければいけないとずっと思っていましたが、撤去に加えてフェンスを設置するとなると大きな額がかかるので、なかなか手をつけられませんでした。子どもたちが毎朝、家の前を通るのを見てブロック塀を撤去してよかったなと安どしています」

“自分の身を自分で守る” 子どもたちに指導 高槻市

通学路にある危険なブロック塀の撤去が進まないなか、高槻市では、地震発生時などに子どもたちが自分の身を自分で守ることができるよう指導しています。

その1つが小学校ごとに作られる「校区安全マップ」を使った取り組みです。

この地図はすべての児童に配られていて、引き渡し訓練などで児童と保護者が一緒に下校する際、事故などの危険がありそうな場所や、危険なブロック塀がある場所などを確認して書き込み、地図を完成させてほしいと呼びかけています。

日頃から危険な場所を把握しておくことで、いざというときに子どもたちだけでも安全を確保できるようにするのがねらいです。

今月5日、芝生小学校に通う6年生の女子児童は、学校からの帰り道、母親と一緒に地図を見ながら危険な場所を確認していました。

児童は「地震が起きると、ブロック塀や電柱の上に設置されている電灯が落ちてくるのではないかと怖くなります。危ないところがいろいろあるなと思ったので、改めて2人で確認できてよかったです」と話していました。

こうした指導は、ふだんの授業の中でも行われています。

今月13日に行われた地震が起きた時の行動について考える授業では「たかつき安全NOTE」という独自の教材が使われていました。

この教材は、5年前の地震をきっかけに、災害や交通事故などから自分の身を守れるよう、必要な知識を学んでもらうためにつくられました。地震が起きるとブロック塀に亀裂が入り、倒壊する危険があることもイラストなどを使って紹介されています。

小学校の低学年用、高学年用、中学生用があり、市内すべての児童・生徒に配られています。

芝生小学校/池田和香奈 教諭
「いざという時に、子どもたちが自分の身を守るためにどんな行動をとればいいのか判断できるよう、事前に子どもたちと一緒に考える機会をたくさん作っていきたいです」

専門家「自治体が粘り強く対策を」

ブロック塀の防災対策について詳しい専門家は、自治体が粘り強く対策に取り組み続けることが大切だと指摘しています。

東北工業大学/最知正芳 名誉教授
「ブロック塀は個人の所有であっても片側は公共の空間に面していて、誰かが下敷きになれば命が失われてしまう。自治体は『個人の所有物だから対処できない』と済ませてしまうのではなく、地道に向き合う必要がある」

さらに、対策を進めるためには、所有者に意識を変えてもらうことも重要だと強調します。

東北工業大学/最知正芳 名誉教授
「所有者の中には『たかが塀だ』と思っている人もいるかもしれないが、塀が倒れて被害が出れば、責任を問われる可能性があると認識するべきだ。また、コンクリートは劣化するものなので、常に状態を見て、不具合がある場合にはしっかり対策をしてほしい」

そのうえで、所有者が負担する撤去などにかかる費用をいかに抑えるかも重要で、たとえば、ブロック塀全体を撤去するのではなく、上の一部だけを撤去して軽いアルミの柵に取り替えるといった工夫や、自治体が撤去費用を補助する制度を長く続けていくことなどが必要だと指摘しました。

学校の敷地内の危険なブロック塀は8割撤去

通学路での対策が進まない一方、学校の敷地内にある危険なブロック塀については、大阪府内では8割の学校で撤去を終えています。

文部科学省は、5年前の地震発生の翌日、小中学校などの敷地内にあるブロック塀の安全性を点検するよう、全国の都道府県などに通知を出しました。

学校内のブロック塀の状況について調べるため、NHKが大阪府内すべての市町村に取材したところ、およそ760の小中学校で、当時、敷地内のブロック塀が「危険」とされていたことがわかりました。

その後の対策の状況についても尋ねたところ「危険」とされたブロック塀があった学校のおよそ8割にあたる、およそ620校で撤去を終えていました。

これ以外の学校の中には工事の予定が決まっているところがある一方、隣接する土地の所有者との調整に時間がかかるなど、撤去までにさらに時間がかかるケースもありました。