岸田首相 対ロシア追加制裁公表 資産凍結や半導体輸出規制など

ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻を受けて、岸田総理大臣は25日朝、記者会見し、今回の侵攻は明白な国際法違反だと厳しく非難し、追加の制裁措置として、ロシアの個人・団体の資産凍結やロシアに対する半導体の輸出規制などを行う考えを示しました。

ウクライナ情勢をめぐるG7=主要7か国の緊急首脳会議を踏まえ、岸田総理大臣は25日朝、NSC=国家安全保障会議の閣僚会合を開き、追加の制裁措置などをめぐって協議したあと、記者会見を行いました。

この中で岸田総理大臣は「国際社会の懸命の努力にもかかわらず行われた今回のロシア軍によるウクライナへの侵攻は、力による一方的な現状変更の試みであり、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法違反だ。国際秩序の根幹を揺るがす行為として断じて許容できず、厳しく非難する」と述べました。

そのうえで「わが国の安全保障の観点からも決して看過できない。G7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、ロシアに対して、軍の即時撤収、国際法の順守を強く求める」と述べました。

そして、追加の制裁措置として、
▽資産凍結とビザの発給停止によるロシアの個人・団体などへの制裁、
▽ロシアの金融機関を対象とする資産凍結、
▽ロシアの軍事関連団体に対する輸出や半導体などの輸出に対する規制を行う考えを示しました。

また、岸田総理大臣は、ウクライナに在留する日本人およそ120人の安全確保に向け、最大限努力すると強調し、西部のリビウに設けた臨時の連絡事務所で、隣国のポーランドに陸路で退避する場合の支援などを行うほか、ポーランドから他国に移動するためのチャーター機をすでに手配していると説明しました。

さらに、首脳外交を積極的に行うとともに、さまざまなレベルでG7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、事態の打開に向けた外交努力を進めていくと強調しました。

また、今回の事態でエネルギーの安定供給に直ちに大きな支障が出ることはないという認識を示したうえで、「IEA=国際エネルギー機関や関係国と協議を行っている国際協調での備蓄放出や、産油国・産ガス国への増産の働きかけなど、関係国や国際機関とも連携しながら必要な対策を機動的に講じ、国際的なエネルギー市場の安定化とわが国へのエネルギー安定供給の確保に万全を期していきたい」と述べました。

そして、原油価格の高騰が続く中、国民生活や企業活動への悪影響を最小限にするため、当面、石油元売り会社に対する補助金を大幅に拡充・強化し、小売価格の急騰を抑制する考えを明らかにしました。

“制裁は関係国と緊密に調整し決定”

岸田総理大臣は「この制裁については、アメリカやEUをはじめとする関係国と緊密に意思疎通を図り、情報交換を行った上で決定したものであり、G7=主要7か国をはじめとする国際社会の連帯の強さを示すことができると考えている。今後については状況を見ながら、引き続きそうした連帯を大事にしながら対応を考えていく」と述べました。

また「2014年のクリミア併合の時と比べて、アメリカやヨーロッパ諸国と緊密に連携していると感じるが、どのような考えで措置を打ち出したのか」と問われたのに対し、「2014年当時と比べ、大きく変化している国際情勢をしっかり考えたうえで、特にG7=主要7か国をはじめとする国際社会の連帯・連携が重要だという認識のもとに緊密な調整を行い 関係国と調整の結果、決定した」と述べました。

そのうえで、「引き続き情勢の変化も見ながら連携を大事にし、今後の取り組みについて考えていくというのがわが国の対応だ」と述べました。

“力による現状変更は決して許されない”

また岸田総理大臣は、「台湾海峡や尖閣諸島、それに北方領土をめぐる問題にどう影響するか」と質問されたのに対し、「今回の侵攻はヨーロッパのみならず、アジアを含む国際社会の秩序にかかわる問題だ」と指摘しました。

そのうえで、「アジアを含む他の地域でも、力による現状変更は決して許されないという意思を、G7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携する形で、ともに強く発信していくことが重要だ。こういった姿勢を示すことが、今回のような国際法違反、国連憲章に反するような行為を抑制することにつながると信じる。ぜひ、こうした連携のもとでの発信をしっかり行っていきたい」と述べました。

“北方領土交渉への影響など予断することは控える”

また岸田総理大臣は「北方領土問題に関するわが国の立場は変わらないが、北方領土交渉やそれに関連した共同経済活動への影響については、現時点で予断することは控えたい」と述べました。

さらに、「プーチン大統領と長らく友好関係にある安倍元総理大臣の派遣や、中国への働きかけなど日本独自の施策は考えているか」と問われたのに対し、「いま指摘があったことについては何も予定はないが、今後は状況の変化をしっかり踏まえながら、何が適切なのか状況の変化に応じて機動的に考えていくことは大事だ」と述べました。

“原油高騰による国民生活などへの悪影響を最小限に”

岸田総理大臣は、原油価格の高騰対策として、ガソリン税の上乗せ分の課税を停止する、いわゆる「トリガー条項」の凍結解除を検討するかと問われたのに対し、「まずは燃油価格の激変緩和事業の大幅な拡充や強化により、小売価格の急騰を抑制したい。今後、さらに原油価格が上昇し続けた場合の対応については、国民生活や企業活動への悪影響を最小限に抑えることができるよう、何が実効的で有効な措置かという観点から、あらゆる選択肢を排除することなく政府全体でしっかり検討し対応したい」と述べました。

輸出に対する規制の内容

政府は追加の制裁措置のうち、ロシアの軍事関連団体に対する輸出や半導体などの輸出に対する規制を行う方針です。

すでに2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを併合したことに対して日本は軍事転用可能な製品については、輸出管理を厳格化しました。

今回はこうした製品について、国の審査をさらに厳しくします。

また、ロシアの軍事関連団体に輸出する際の支払いを禁止する措置を速やかに実施するとしています。

さらにロシア向けの輸出規制対象となる品目を増やします。

具体的には先端技術を使った製品に加えて一般向けの半導体などが新たに対象になる見通しです。

先端技術の製品や半導体に輸出規制をかけることでロシアの軍需産業などに打撃を与える狙いがあるものと見られています。

輸出規制は外為法=外国為替及び外国貿易法のもと、政令や省令の整備が必要で、政府は手続きを急ぐことにしています。