どうする!? 太陽光パネルの“終活”

どうする!? 太陽光パネルの“終活”
日本が“太陽光ブーム”に沸いたのは2009年。
家庭用の太陽光発電を普及させるための制度を国が導入し、太陽光発電は一気に身近なものになりました。
それから10年余り。住宅の屋根などに設置したパネルを取り外したいという人が、今後、急増するとみられているのです。
でも、パネルって、どう処分したらいいのでしょうか?
太陽光パネルの“終活”。徹底取材しました。
(仙台放送局記者 高垣祐郷/おはよう日本ディレクター 石川理詩)

屋根に60枚のパネル 電気代の節約に

「まさに黒川発電所、ですね…」

こう話すのは、埼玉県川口市の黒川輝さん(84)です。
自宅を新築したのは21年前。

その際、電気代の節約につなげようと屋根におよそ60枚の太陽光パネルを設置しました。

費用は700万円ほどかかりましたが、施工した工務店から「今なら補助金が出る」と勧められ、導入を決めました。

費用の1割ほどを補助金でまかなうことができたといいます。
黒川さん
「新築したときに家をオール電化にして電気料金が増える見通しだったので、太陽光発電を導入して電気代を節約したいと考えました。
パネルの設置費用は高額でしたが、国の補助金も出るし、損はしないと思ったんです」

転機は2009年 太陽光ブーム到来!

こちらは、家庭用の太陽光発電の推移を示したグラフです。
日本で家庭用の太陽光発電設備の販売が始まったのは1993年。

当時の平均的な設置費用は1500万円ほどと高額だったこともあり、多くの人にとってはまだ“高根の花”でした。

しかし、翌年の1994年には国の補助制度も始まり、少しずつ導入する家庭が増えていきました。

黒川さんが家を新築したのも、ちょうどこのころです。

そして、家庭用の太陽光発電が一気に広まったのが2009年。

家庭用の太陽光発電を普及させようと、国が、家庭で使い切れなかった電気を電力会社が高値で買い取ることを約束する制度を導入したのです。

この“優遇措置”の導入をきっかけに、太陽光発電は急速に普及。

“太陽光ブーム”が到来したといわれました。

ブームから10年… 老朽化する太陽光パネル

「すっかり古くなっちゃって…」その“太陽光ブーム”から10年余り。

黒川さんの住宅の太陽光発電の設備は老朽化が進んでいました。

去年は発電した電気を変換する2つの装置のうちの1つが故障。
メーカーに問い合わせたところ、装置を修理するのは難しく、担当者からは「新品に替えるしかないが、費用は20万円から30万円ほどかかる」と言われたといいます。

年金暮らしの黒川さん夫婦。

一度に20万円以上の出費は重い負担です。

また、太陽光発電に使われるパネルの寿命は、一般的に20年から30年ほどとされています。

黒川さんの住宅のパネルは設置から20年以上たっていて、パネルがいつまで使えるのかも分からない状態です。

買い取り価格 5分の1以下に

さらに電気の買い取り価格も大きく値下がりしています。
黒川さんのように、国の買い取り制度が始まった2009年から太陽光発電を導入している家庭の電気は、1キロワットアワーあたり『48円』で、電力会社が買い取ってくれていました。

しかし、高値での買い取り期間は“10年間限定”。

3年前に、この“優遇措置”が切れ、その後、電力会社から提示された買い取り価格は『8円50銭』。
以前の5分の1以下に大きく値下がりしたのです。

家庭で余った電気を電力会社に売ることで、月に数千円の収入を得られることもあったという黒川さん。

“設備の老朽化”と“売電価格の急落”というダブルパンチで、太陽光発電をやめたいと考えるようになったといいます。
黒川さん
「売電価格が下がっても、毎月の電気代分を相殺できるくらいにはなると期待していましたが、実際には、全然足元にも及ばない感じなってしまいました。
うちの家がある地域は地盤が弱いと言われていて、地震の時に、老朽化したパネルで事故が起きないかも心配です。
だから、できるだけ早く屋根のパネルを取り外したいと思っています」

“大廃棄時代” 家庭用パネルは一足先に

迫り来る、太陽光パネルの“大廃棄時代”

太陽光発電が急速に広がった日本では、2040年ごろには現在のおよそ200倍にあたる年間80万トンもの使用済み太陽光パネルが排出されると試算されています。

この中で、一足先に排出量が増えると見られているのが家庭用パネル。

太陽光パネルのメーカーなどでつくる業界団体は、2030年には年間2万5000トン以上の家庭用パネルが排出されると試算しているのです。

家庭用パネル どう処理する?

屋根の太陽光パネルを取り外したいと考えている黒川さん。

ただ、困っていることがあるといいます。

不要になったパネルをどう処理したらいいのか分からないというのです。
黒川さん
「パネルを設置した施工業者はもうつぶれてしまいましたし、処理方法をメーカーなどに問い合わせても、たらい回しにされている状態です。撤去の方法が分からないことが今の悩みなんです」
不要になった家庭用の太陽光パネル。いったい、どう処分すればいいのでしょうか?

国の担当者に聞いてみました。
環境省 リサイクル推進室
「老朽化したパネルに触れると、感電したり、破損した表面のガラス部分でケガをしたりするおそれがあります。このため、一般的には『産業廃棄物』として専門業者に依頼して撤去してほしいと考えています」
環境省によると、専門業者には、パネルの販売店や工務店、それにパネルや住宅のメーカーなどが含まれるんだそうです。

それでは撤去にかかる費用はどの程度なのでしょうか?

私たちはパネルの販売店やメーカーなど20社余りに取材しました。
パネル販売店
「これまでの撤去費用は20万円ほどで、取り外したパネルを中古品として販売していました。最近は古くなって中古品として売れないものが増えているため、リサイクルに回しています。リサイクルには費用がかかるため、今の撤去費用は50万円近くに値上がりしています」

別のパネル販売店
「費用が安くて済む場合は20万円くらいですが、家が大きかったり、屋根の傾きが急だったりして大規模な足場を組む必要がある場合は、100万円を超える可能性もあります」
撤去費用は10万円代から100万円以上と業者や家の環境によってまちまちのようです。

また、大手のメーカーからは、こんな声もありました。
大手住宅メーカー
「パネルを撤去したことが一度もないので分からない」

大手パネルメーカー
「パネルの撤去には対応していない」

大手パネルメーカー代理店
「とりあえずパネルを購入した店に相談すべきでは」
ただ、黒川さんのようにパネルを購入した販売店や施工業者がすでになくなっていたり、訪問販売で買ったため、問い合わせ先が分からなかったりするケースも少なくありません。

専門家は、家庭から出る使用済みパネルの大量廃棄が始まるまでに、わかりやすい処分の仕組みづくりが欠かせないと指摘しています。
東京大学 村上准教授
「太陽光ブームの時は、パネルの設置後の対応を十分に行わない“売り切り型”の販売業者も多かったため、今になって処理に困る事態が起きています。
一般の人が使用済みのパネルを適切に処理できる業者を見極めるのは難しい状況です。
国や自治体が処理業者をリストアップするなど、体制整備を進めるべきだと思います」

ヨーロッパ 回収システムが確立

家庭用パネルの大量廃棄にどう対応すればいいのか。

取材を進めると、日本のヒントになりそうな事例が海外にあることが分かりました。

環境への取り組みで先行するフランスです。

2007年にヨーロッパの太陽光発電のメーカー6社などが共同でNPOを設立。
フランスでは使用済みのパネルを回収し、リサイクルする取り組みが始まっています。
その仕組みです。
1.太陽光発電の設備を購入する際、ユーザーはパネルなどの代金に加えて、リサイクル費用も事前に支払う必要があります。

2.集まったリサイクル費用はNPOが管理。費用を前もって支払っているため、使い終わったあとの追加の負担は少なくて済みます。
この仕組みなどによって、年間5000トン以上の使用済みパネルがリサイクルされているといいます。

このNPOは去年、日本にも支部を設立。

日本でも有効なパネルの回収システムを構築できないか、去年7月から半年間、国内で実証実験を行うなど、事業化に向けて課題の洗い出しを進めています。
NPOのアドバイザー役 東北大学 白鳥教授
「フランスでは多くの使用済みパネルがリサイクルに回るシステムが機能しています。
日本でもパネルの処分がスムーズに進むよう、国や自治体とも連携して有効な仕組みを検討していきたいと思っています」

どう進める? 太陽光パネルの“終活”

自治体も、使用済みの太陽光パネルの回収に向けた実証実験を始めています。

2030年には、最大で5000戸の家庭からパネルが排出されると試算されている東京都。
都などは、太陽光パネルの設置データと住民へのアンケートをもとに地域別の排出量を試算し、AI=人工知能で効率的なパネルの運搬ルートを提案。
リサイクルなどにつなげようという研究を進めています。

脱炭素社会の実現の柱として期待されている太陽光発電。

太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電された電気の買い取り費用は、私たちが毎月支払う電気料金に上乗せされていて、その負担額は、標準的な家庭で年間1万円を超えています。
役目を終えてリタイアしたあとの“終活”をどうするのか。

決してあいまいにせず、私たち自身の問題として考えなくてはならないと強く感じました。
仙台放送局記者
高垣 祐郷
平成26年入局
山口局 秋田局を経て3年前から現所属
おはよう日本ディレクター
石川 理詩
平成28年入局
首都圏放送センター 千葉局を経て2年前から現所属