有明海の2カ所の干潟が「ラムサール条約」登録湿地に


2015年5月29日、ウルグアイで開催された「ラムサール条約」の第12回締約国会議で、九州有明海にある2カ所の干潟を含む国内の4カ所の湿地が、条約登録湿地として認められました。有明海は、日本の干潟の約4割に相当する広大な干潟を擁した、多くの渡り鳥が飛来する自然豊かな場所です。また、ノリ養殖やムツゴロウ、ワラスボなどの特産種の漁業も盛んで、身近な海として人々の生活を支えてきました。条約への登録は、この日本を代表する湿地の自然環境が、国際的にも重要である事が認められたことの証であり、今後のさらなる保全と、持続可能な海の利用の促進が期待されます。

国内のラムサール条約登録地が50カ所に

日本の環境省は2015年4月22日、「ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)」に、九州は有明海の2カ所の干潟を含む、計4カ所の湿地を推薦することを、中央環境審議会野生生物小委員会で報告しました。

ラムサール条約では、世界各地に存在する、水鳥の生息地をはじめとした貴重な湿地環境を、国際的な保護区として登録し、適切な保全措置を講じるよう加盟各国に求めています。

今回、4カ所が正式に登録されたことで、日本のラムサール条約登録湿地は50カ所になりましたが、この条約への登録はこれまでにも、国内で湿地保全にかかわる多くの関係者にとって、大きな目標となってきました。

登録された4カ所の湿地は、次の通りです。

  • 東よか干潟(佐賀県佐賀市)
  • 肥前鹿島干潟(佐賀県鹿島市)
  • 涸沼(茨城県鉾田市、茨城町、大洗町)
  • 芳ヶ平湿地群(群馬県中之条町、草津町)

中でも、東よか干潟と肥前鹿島干潟は、有明海の奥部に位置し、その広大な泥質干潟は渡り鳥の一大渡来地として、国際的にもその重要性が高く評価されてきました。

また、その法的な保護を確かなものとするため、政府は2015年5月1日、この2つの干潟を国指定鳥獣保護区特別保護地区に指定。

漁業などの生業を維持しつつ、大規模な開発行為からは原則的に守られる形で、今後の保全が推進されてゆくことになりました。

肥前鹿島干潟

シギ・チドリネットワークからラムサール登録地へ

肥前鹿島干潟については、ラムサール条約の登録湿地と同様、国際的に重要な湿地であることを示す「シギ・チドリネットワーク」に2002年から参加してきました。

ネットワークでの登録名称は「鹿島新籠(かしましんごもり)」。国内では5番目のネットワーク参加地です。

このシギ・チドリネットワークは、渡り鳥の生息地を国際的なネットワークで結び、国境を越えて保全をめざす活動のひとつで、WWFジャパンもネットワークが発足した1996年より、その普及と参加地の拡大に取り組みました。

このネットワークの特徴のひとつは、登録を希望する参加地が、必ずしも「保護区」でなくてもよい、ということです。

ラムサール条約の登録湿地の場合は、その国が法律で対象となる湿地を保護区に定めていることが、登録の条件になっていますので、この点が大きく違います。

より、敷居を低くしながらも、その湿地環境が持つ国際的な重要性を明らかにし、保全へのステップとしてゆくことが、このネットワークの意義であり、役割でもあります。

肥前鹿島干潟はネットワーク参加当時、まだ猟区とされていましたが、2003年に県指定の鳥獣保護区となり、保護の機運の高まりを受けて今回、国指定鳥獣保護区特別保護地区に指定されました。

多くの場合、シギ・チドリ類のような渡り鳥の生息地は、人の生活の場と近接しているため、法律で保護区に指定すると、漁業や農業、開発行為に影響が及ぶのではないか、という懸念が、地元の関係者から生じがちです。

そのため、肥前鹿島干潟では、保護区への指定を必要としない「シギ・チドリネットワーク」への参加からはじめて、干潟の保全に対する住民や関係者の理解を段階的に深め、取り組みを充実させてきました。

鹿島市のネットワーク参加を支援してきたWWFジャパンも、自然保護と地域振興の両立をテーマに、鹿島市の行政、地域振興団体、学校などと連携し、エコツアー、環境教育などを展開。

こうした活動を通じて、2004年に地元での自然保護を推進する「多良岳~有明海・水環境保護団体『水の会』」が設立され、地域が主体となった取り組みが始まりました。

山から海へ流れ、そしてふたたび雨となって山へと降り注ぐ水の循環の中で育まれた鹿島の自然と人、暮らしについて学び、伝えていく『水の会』の活動は、シギ・チドリネットワーク参加から国指定の保護区に指定されるまで、実に13年を要した肥前鹿島干潟の保全を確実に前進させてきた、一つの貴重な成功事例と言えるでしょう。

なお、シギ・チドリネットワークは、現在では東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップのフライウェイネットワークへと移行し、同様の取り組みを続けています。

曙光の鹿島干潟。漁に出る人の姿があった

干潟を代表する生きもの。シオマネキとムツゴロウ

ハマシギの群。渡り鳥のシーズンには大群が見られる。

鹿島市での取り組みの一つ「ガタリンピック」。観光とは縁遠いと思われていた干潟を巧みに利用した干潟を丸ごと体感する運動会。今や海外でも同様のイベントが行なわれている。

鹿島ふるさとの海作品コンクール入選作品

東よか干潟

日本最大のシギ・チドリ類の渡来地保護区

肥前鹿島干潟の東方に位置する東よか干潟も、有明海奥部の重要な干潟として知られてきました。

シギ、チドリなどの渡り鳥の重要な飛来地を、生息数調査によって明らかにする、環境省「モニタリングサイト1000」。この事業の前身であり、以前WWFジャパンが事務局を務めていた環境省「シギ・チドリ類個体数変動モニタリング調査」の分析結果でも、東よか干潟は生物の生息地として、その重要性が明らかにされていました。

とりわけ1997年に強行された国営諫早湾干拓事業にともなう潮受け堤防閉め切り以降は、諫早湾干潟から移ったと考えられるシギ・チドリ類の渡来数が急増し、今では日本一の渡来地となっています。

こうしたデータをもとに、WWFジャパンは佐賀県や東与賀町(2007年佐賀市に合併)に対して、干潟の重要性に関する情報を提供するとともに、繰り返し保全の必要性を訴えてきました。

東与賀町役場や佐賀野鳥の会と協力して、探鳥会を開催し、町広報には東よか干潟の魅力を伝える連載を実施。保護区への指定を視野に入れた活動を展開しました。

佐賀空港が近いこと、利害関係者との調整や合意が困難であること、また特段の開発計画がないことなどから、長い間保護区登録には至りませんでした。

しかし今回、多くの関係者の努力の積み重ねにより、ついにラムサール条約への登録が実現したのです。

東よか干潟。広大な干潟が広がる

ダイシャクシギやズグロカモメなども数多く飛来する

有明海の「ワイズユース」をめざして

日本を代表する干潟が広がる有明海で、渡り鳥の渡来地を保護区に指定することは、長い間、難しいとされてきました。

およそ15年前、「有明海異変」が発生して、ノリ養殖やタイラギ漁(二枚貝)に大きな被害が生じ、それに伴い、自然の干潟の持つ恵みと、水の浄化機能が広く知られるようになってからも、それは変わることがありませんでした。

しかし、こうした問題の背景に、諫早湾干拓事業や、有明海に流れ込む河川への堰の設置などの影響があることが指摘され、干潟の保全を求める声が確実に大きくなる中で、政府もついに動きを見せました。

2012年、熊本県荒尾市の荒尾干潟が、有明海の干潟では初めて、ラムサール条約の登録地に指定されたのです。

そして今回、東よかと肥前鹿島の干潟を新たに加え、現在では、有明海に3カ所の条約登録地が数えられることになりました。

ここに至る道筋には、地域の人々や自然保護団体の関係者による、息の長い取り組み、そして行政の理解と協力がありました。

何より、身近な自然である湿地は、そうした地域の人々の生活や、社会活動と深い関わりを持っています。

そのため、ラムサール条約では、人間の行為を規制して湿地を守るばかりではなく、湿地から得られる恵みを維持しながら、湿地を活用し、暮らしを豊かにしていく「ワイズユース(賢明な利用)」を提唱してきました。

干潟が法的な保護の対象となっても、漁業の妨げにはならず、むしろ健全な海洋環境から、海の恵みを将来にわたって享受してゆく。そうした共存の在り方を示したものです。

ラムサール登録湿地は、国設の保護区として、国の管理下に置かれるため、これらの湿地では今後、保全に向け、資金面や人材面での拡充が行なわれる見込みです。

干潟の自然を守りながら、人の生活も守っていく。そんな取り組みが、有明海全体に広がっていくことが期待されます。

有明海で盛んに行なわれているノリの養殖

諫早湾の潮受け堤防。1997年に閉鎖され「有明海異変」の原因となっている

WWFの白保~鹿島子ども交流会

有明海の恵み

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