「ディズニー1強」の時代なぜ? 新作映画月イチ公開の“異常事態”でヒット連発の背景とは

東京ウォーカー(全国版)

大ヒット公開中の『ライオン・キング』(C)2019 Disney Enterprises,Inc. All Rights Reserved.


アニメーション『アラジン』から27年経て公開された実写版『アラジン』が興行収入100億円を突破。また、そんな『アラジン』を押しのけて、初登場でランキング首位を獲得したのも、ディズニー/ピクサーの人気シリーズ最新作『トイ・ストーリー4』だった。さらに現在は『ライオン・キング』が公開2週目で動員ランキング1位に躍り出た。4月公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム 』から現在までディズニー映画のヒットが続いているが、なぜこうもヒットが続くのか。2019年のヒット作が軒並みディズニー映画であることに着目し、映画コメンテーターの有村昆氏に、“ディズニー1強の背景”について語ってもらった。

邦画洋画ともにディズニー映画が絶好調!ランキング上位を占めて常に話題作を提供


『トイ・ストーリー4』(C)2019 DisneyPixar. All Rights Reserved.


2019年に入ってから動員ランキングで1位をとった外国映画は、日本では東宝の配給となった『名探偵ピカチュウ』『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を除くと、『アラジン』『シュガー・ラッシュ:オンライン』『アベンジャーズ/エンドゲーム 』『ライオンキング』など、その多くがディズニー作品。ディズニーの寡占状態はアメリカでも同様で、現時点での2019年の年間ランキングの上位4作を『アベンジャーズ/エンドゲーム 』『ライオンキング』『キャプテン・マーベル』『トイ・ストーリー4』とディズニー作品が占めている(8月23日現在)。

なかでもディズニーがついた『アベンジャーズ』は、それまでの世界累計興行収入歴代1位の『アバター』の記録を抜き世界で記録的大ヒットを見せた。国内でも『アラジン』が『美女と野獣』のオープニング成績を超えるスピードでヒットし、『トイ・ストーリー4』は洋画アニメ歴代No.1のオープニングとなって、これまでのトップであった『アナと雪の女王』超えを果たした。

そして、実写化の波も顕著で、間髪入れずに『ライオン・キング』が公開されている。『リトルマーメイド』の実写化決定のニュースも世間をにぎわせた。邦画も、既にファンがついている原作ものを多数映画化している、という点では同じ状況なのにも関わらず、なぜディズニー作品がこれほどヒットするのだろうか。

ディズニー映画がイケイケの理由とは


映画コメンテーターの有村昆氏


【有村昆】理由はいくつかあると思うのですが、まず「ディズニーは新卒を採用しない」んですよ。つまり、1から育てるということをしない。ヘッドハンティングで即戦力しか採らないんです。コンテンツも基本は買いそろえています。ちなみに、コンテンツとしては1937年の『白雪姫』が一番古いんですが、もともとはグリム童話で、それをディズニーが買って自分のコンテンツにしました。

『シンデレラ』も『塔の上のラプンツェル』も『くまのプーさん』も『メリー・ポピンズ』も、もともと原作者がいる作品。それをミュージカルにしたり、音楽をつけたりして、“ディズニー印”のコンテンツにしているんですね。ディズニーはこのビジネスがすごく上手です。作品だけでなく、ピクサーやルーカスフィルム、アベンジャーズもお金を出して買っている。このように、コンテンツビジネスをやっているからディズニーは強いんです。お金を出して、いいクリエイター、コンテンツを買っているんです。

あとは、「映画」「グッズ」「遊園地」をグルグル回してビジネスを活性化させている。ウォルト・ディズニーのアトラクション「カリブの海賊」はいい例ですが、このアトラクションを元にした映画版の作品『パイレーツ・オブ・カリビアン』を観た人は「カリブの海賊」へも行く。グッズも買う。『スター・ウォーズ』も映画へ行って、グッズを買う。アメリカに『スター・ウォーズ』のテーマパークができましたけど、そこへも行く。クロスオーバーで楽しめちゃうんです。

ディズニーは今、毎月1本新作映画が出ているんです。これは”異常事態”です。11月には『アナと雪の女王2』、12月には『スター・ウォーズ』シリーズ最新作も始まるんです。こんなにどんどん、新作を生み出せるのは『パイレーツ・オブ・カリビアン』『アナと雪の女王』が当たったのが大きいでしょうね。

時代ごとに「輝く女性」を描き続けてきたディズニー映画の変遷と“今”


 


――前述の通り、今年は『アナと雪の女王2』の公開も控えていますが、ディズニーのターニングポイントの1つともいえるコンテンツ、アナ雪のヒットの背景は何なのでしょうか?

【有村昆】ディズニーは時代の先を読むのが“半歩早くなった”ということです。ディズニーのプリンセスシリーズは、アメリカにおける女性の考え方の写し鏡ともいうべき表現をしています。約80年前に『白雪姫』が出て、その後『シンデレラ』が出て…という流れがありますが、1930年代から60年代はディズニーが輝いていた時代です。なぜかというと、「いつか待っていれば白馬の王子様がやってくる」という“待つことの美徳”が描かれていて共感を呼んでいたからです。

映画『アラジン』(C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.


ところが、70年代から女性の社会進出が始まると、「女性は家事だけやっていればいいだろうか?」という時代に入った。すると、“待つ”という思想がダサくなったんです。そこでディズニーは、『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』といった、“外の世界へ行く”“身分の格差を超えていく”という物語を描きました。女性がアクティブに男性を見つけに行く、野獣に恋をしにいく、プリンセスが一介の泥棒に恋をする…そんなストーリーを描くことで、またディズニーは輝きました。

アナ雪の「ありのまま」の真意、現代は社会的障壁を超える「ディズニー第3世代」


そして90年代後半から2000年代にまた、女性の生き方の新しい定義が生まれたんですね。ディズニー第1世代のテーマが“王子様とプリンセス”、第2世代が“女性の自立”“身分の格差を超える”だとすると、今の『アナと雪の女王』以降の第3世代は“社会的障壁を超える”“LGBT”なんです。LGBTについては、日本ではやっと、ドラマなどでフィーチャーされるようになってきていますけど、ディズニーでは4年前からやっているんですね。

ディズニーは公式に認めていないのですが、『アナと雪の女王』ではそれが顕著でした。“結婚しようと思った王子様が悪者だった”というのは、先述の「第1世代の否定」なんです。トナカイを相棒に持つクリストフとの愛は、真実の愛じゃなかった。ヒーローではなかったクリストフと、“主人公が結ばれていない”というのは、第2世代の“身分の格差を超えた愛”の否定にもなるわけです。そして、世界的にも話題になったラスト。この作品は、エルサとアナの“姉妹愛の物語”だったんです。とはいえ、これは姉妹愛ではなくて同性愛を表現しているともいわれています。エルサが「ありのままの~」と歌っているのはカミングアウトだといわれているんです。これが第3世代の始まりです。

『美女と野獣』のガストンの子分ル・フウは、ディズニー長編アニメ初のゲイ・キャラクターです。『アラジン』では#me too問題を入れ込むかのように、女性の自立を歌う楽曲が映画オリジナルで追加されています。さらに現在、企画中の実写版『リトル・マーメイド』では、主演のアリエル役に、黒人の歌手であり 女優のハリー・ベイリーが起用されることも発表されました。これは「もう肌の色や性別で考えるのはやめよう」というメッセージ。ディズニーが素晴らしいのは、このように、次の考え方を提言するのが早いところなんです。ヒットメーカーは時代の空気を見越して、その空気になる何年も前からストーリーを作っているんですね。先読み力、スピード感もディズニーの強みです。

でも、なぜ時代の半歩先を行けるのかというと、最初の話に戻りますが、お金を出してコンテンツを買っているから。お金を出していい人材、コンテンツを買い、楽しい演出と時代背景を盛り込んだディズニー印の作品をどんどん生み出していく。それをお客さんもお金を出してどんどん消費する。ディズニーは、お金のシステムをよく分かっているんですね。

(有村昆・ありむらこん)映画コメンテーター。マレーシア生まれ、東京育ち。年間500本の映画を鑑賞。最新作からB級映画まで幅広い見識を持つ。テレビ番組や雑誌などで映画コメンテーターとして活躍しているほか、長年ラジオ番組のパーソナリティとしても活動。

加藤由盛

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