■「窃盗団報道問題」検証報告
2002年8月8日 テレビ東京

7月4日(木)に設置されたテレビ東京「窃盗団報道問題検証委員会」は当事者であるデスク、記者をはじめとする当該の報道局関係者、並びに社長以下幹部など23名(延べ50名)を対象に計70時間余の聞き取り調査を行い、その結果を基に、検証を行いました。検証に当っては、テレビ東京自身のメディア責任と自浄能力において事態を明らかにすべく、事実関係の公正かつ客観的な把握を最大のポイントとしました。



「窃盗団報道問題」の経緯

5月27日(月)の『ニュースウオッチ』(午前11時〜)と『TXNニュースアイ』(午後4時55分〜)で「スクープ 犯行・逮捕の一部始終」として中国人を中心とする窃盗団の逮捕の模様を放送しました。事件は5月25日(土)未明に東京・江戸川区の会社に5人の窃盗団が侵入し、警視庁が中国人を含む3人を窃盗未遂の現行犯で逮捕、残りの2人が逃走したというものです。担当した報道局ニュース取材部は、今年の重点取材のテーマとして、急増する外国人犯罪の実態とその背景を継続的に報道することとし、その一環として本件の取材を進めてきました。 
取材そのものは、5月13日(月)午後、窃盗団の一員だという情報提供者(以下提供者)からかかってきた電話を受けた記者が、翌14日(火)、15日(水)に提供者宅を取材で訪れ、提供者から「犯行計画がある。自分も逮捕されれば、窃盗団から手が切れる。警察に連絡して欲しい」などの情報を得たところから始まりました。取材は記者が中心となりデスクとの相談の中で進められました。しかし、放送日の5月27日(月)から1ヶ月程経過した6月25日(火)にデスクが新聞社の取材を受け、そのことを報道局長に報告したことから、この取材が犯行グループの一員である提供者の情報提供に基づくものであること、取材の過程で提供者の家族の避難用として金銭を渡していたことや、記者とデスク以外に取材手法や内容を把握していた者がいなかったことなどが初めて明らかとなりました。
7月2日(火)に新聞に記事が掲載され、取材に金銭を介在させていた問題など、取材手法におけるご批判をいただきました。この問題で7月3日(水)関係者の処分を発表、翌4日(木)に「窃盗団報道問題検証委員会」を設置し、事実関係の把握を中心に検証を進めてまいりました。




検証委員会が問題とした点

(1)情報提供者が犯罪者である可能性を認識しながら取材を進めた問題
(2)取材に金銭を介在させた問題
(3)警察に事前に犯罪情報を伝えていたこと
(4)被害者への事前連絡に関すること


以上4点を中心に検証した結果、あらたに
◎ 取材過程で介在した金額が39万1千円であったこと
◎ 捜査当局に対し、窃盗団3人の顔写真を渡したことなどの事実がわかりました。




検証委員会の考え方

窃盗団報道の誤りは、より慎重で冷静な取材姿勢と検討が要請される性格の 取材内容であるにもかかわらず、そうした姿勢が希薄であった結果生じたものといえます。記者が窃盗団と手を切りたいという提供者並びに提供者の家族に取材行為を超えた"人助け的な感情"を抱くようになったこともありました。そうしたことも結果として冷静な取材姿勢を鈍らせ、「取材に金銭を介在させた問題」を生じさせるなどの結果からすれば、報道に携わる者としては、こうしたことに慎重であるべき上司のデスクの判断とともに問題がありました。
さらに、記者とデスクの2人だけで話を進めていたということもあり、結果、初動における判断の誤りが生じ、その後の取材過程に大きな影響を及ぼすこととなりました。
今回のような取材をする場合は、報道することで、国民の知る権利に奉仕し、公益に適うとの判断が報道機関としての社会的責任において総合的になされた場合にのみ、初めて慎重に取材、放送の検討がされるべきものです。今回はこうした姿勢が希薄であったといわざるをえません。また、結果的に取材上の誤りを見逃すこととなった報道局のチェック体制の在り方も大きな問題であり、再発防止の最大のポイントです。
金銭問題については、記事が掲載された7月2日(火)の記者会見の席上「情報提供者の家族の身の安全を確保するために記者が緊急避難用として金銭を渡していたことが誤解を招いたことについて、テレビ東京として遺憾に思います。」との考えを示していました。                  
しかし、検証の結果、避難用であるか否かを問わず、多額の金銭を取材に介在させたことは、その後の記者と提供者との取材上の関係や、取材の在り方、さらには取材活動によって取得する情報そのものまでも歪めるおそれのある極めて危険な行為であることを再確認し、深刻に受け止めています。取材と金銭の関係については、報道モラルの上からもあらためて厳しい規定を検討するなど再発防止に取り組みます。 
記者が、警察へ事前に犯罪情報を伝えていたのは当然の市民的義務であり、これが主な理由でした。加えて、取材行為において撮影し入手した窃盗団3人の顔写真を事前に渡していたのは、記者が逮捕を確実にし提供者の家族の身の安全を図りたいとする強い思いからのものでした。しかし本来の取材、放送目的以外に使用したのは事実であり、報道機関の使命、役割、また警察との関係の上からもあってはならないことでした。
被害者への事前連絡については、記者らは事前情報を警察に通報した上、義務は果たしていることから、この情報の下でいかに被害対象を保護するかは、警察が最もよく対応しうる機関であって、捜査上の問題との兼ね合いも考慮しなければならない問題でした。警察に一任し、報道機関が立ち入るべきではないと判断し、被害者への連絡は差し控えました。結果として被害者の方に対する思いに欠けていたことは遺憾に思っております。


窃盗団報道は「スクープ 犯行・逮捕の一部始終」というタイトルで放送されました。"逮捕の瞬間"の映像部分が強調され、スタジオの情報とコメントも外国人犯罪の増加を述べるに止まるなど内容に乏しく、結果、誤った取材手法とともに、"安易な映像スクープ主義""視聴率狙いの衝撃映像"などとして厳しい批判を受けました。テレビの報道現場には、より刺激的な映像を求める考えや取材姿勢があることも事実です。しかし大切なことは、そうした姿勢が映像の面白さ、特異性に止まることなく何のための報道かという観点において、その取材意図や取材成果が、具体的な報道価値として伝わらなければ、同様の批判に晒されることとなります。 
また、犯罪者を取材対象とし、いわば犯行計画を取材するような形で進められた今回の取材に対し、取材・報道価値と報道の社会的責任の問題など、テレビ報道の在り方を問うことの意義も提起されたことを真剣に受け止めています。  
「窃盗団報道問題」は、報道に携わる一人一人が報道倫理を踏まえ、取材者の力量を鍛え、求められる明確な責任に基づく報道姿勢と価値判断を保ち続け、取材、報道に当ることが基本であることをあらためて認識させました。こうした認識を日々の取材・報道活動の中で深めていくことが、本来の意味での報道チェック体制の核であることを確認しました。



再発防止に向けて

(1)報道チェック体制の整備
  検証の結果、取材・編集・放送に至る放送管理体制の見直し、チェック体制の強化と、活発な意見交換の気風の醸成、報道に携わる者としての責任の自覚が再発防止策の重要ポイントであることが明らかとなりました。今後、報道局の再発防止に向けた取り組みの中で、総合的な改善を目指します。
   
 
@放送チェック体制の整備・強化
  取材情報などの共有化と取材、編集、放送チェック体制を整備・強化します。
   
A報道問題研修会の定期開催の実施
  事例研究を中心に報道姿勢、取材手法、報道倫理などについて外部識者も交えた研修会を定期的に開催します。
   
B報道法務・倫理体制の整備
  取材、放送段階における取材手法、法的チェック、報道倫理などに関する相談機能を整備し、意識の向上を図ります。
   
(2)報道倫理ガイドラインの見直し
  今回の事態を受け、報道倫理ガイドラインの見直しを行い、特に、取材と金銭、犯罪者並びに反社会的集団に対する項目を検討、追加しました。報道問題研修会などを通して、かかる事態の再発防止を徹底していきます。


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