■スポーツカーにとっての"腰"‥‥‥シャシーフレーム

 運動体は、すべてが最高といわれる部品を集めても、"腰"がしっかりしていないために宝の持ち腐れに終わる場合がある。  テレビ中継でプロ野球を見ていると、解説者達はよく"腰"のことを話題にする。
 スポーツカーでも、"腰"が大切だ。では、スポーツカーにとっての"腰"とは何か?
 それは、フレームなのである。
 フレームは見えない部分ではあるが、そのクルマの運動性能を左右する鍵を握っているといってもよい。パワーユニットが出す力をはじめ、ドライバーの想いを確実に路面へ伝えるだけではなく、あらゆる入力をしっかりと受けとめ、それらの情報をドライバーへ正確にフィードバック出来ること。それほど強靭な構造を持っていることが必要なのだ。
 もう一つ大切なことは、乗員の安全を守ることだ。
 衝突時の乗員への衝撃を弱めながら、最終的に必要な空間を確保できる構造。このためには単に強いだけでは駄目で、いかに上手にその衝撃力を吸収できるかという柔軟性が求められてもいる。
フレーム構造を検討するにあたり、小野たちは様々な可能性を検討した。
レーシングバージョンのCadwellは、スチールチューブを溶接で組み合わせたスペースフレームを採用している。東京アールアンドデーがかつて開発し、世界的な注目を集めた高性能電気自動車IZAは、押し出し成形のアルミ合金材と、アルミ鋳物を溶接で組み上げた独特な構造を持っていた。また東京アールアンドデーはF-1マシンのようなカーボンファイバー・モノコック製造実績も持っている。
様々な可能性の中から小野たちが選んだのはレーシングCadwellと同じスチールチューブによるスペースフレームであった。これはいまでも数多くのレーシングカテゴリーにおいて採用されていることからもわかるように、長い歴史を持ち、正しく設計されれば軽量、高剛性、高強度を高次元で両立する最適な構造なのである。
特に長期間使われることを前提とするロードゴーイングスポーツカーにとっては、修理の容易さ、耐久性についての実績も大切な要件であった。
 スチールチューブスペースフレームに関して豊富な実績をもつ東京アールアンドデーの基本設計は、さらに英国の技術によりリファインされ、軽量、高剛性、高強度を両立させつつ、更に衝突時の安全性にも配慮されたものにまとめあげられた。

●サスペンション
 ミッドシップタイプの優れた運動性能を最大限に引きだすのに優れた基本特性を持つサスペンションが、ダブルウイッシュボーン形式であることは、F-1をはじめレーシングカーに採用されていることからも納得できることと思う。
これは、数あるサスペンション型式の中でも、アラインメントやジオメトリーの設定自由度が高く、それぞれの場に適した走りの巾をひろげられる可能性を持っている。
「CR」プロジェクトでも、四輪に独自の設計になるダブルウイッシュボーン形式の採用が決定された。こうして高い限界性能を獲得するとともに、ダンパーにはレース経験もふくめて長い歴史と実績を持つSHOWA製を採用することを決定。
 こうして、応答性に優れ、高い安定性とグリップ性能を実現するサスペンションが完成したのである。

●ブレーキ
 "走り"の性能が優れものであればあるだけ、それを上まわる"止まる"性能がなければならない。このクルマには少し贅沢かなとも思える、数クラス上の実力を持ったディスクブレーキを、4輪共に採用している。
 そして当然ながら、ディスクは冷却性能が高く、対フェード性に優れるベンチレーテッドタイプが採用されている。

●ステアリング
 ハンドルを握るのを楽しくしてくれる、応答性に優れたシャープな操舵感。
 それを可能にするために、ケース、ラックの高剛性化をはかり、低フリクションでロードフィールをドライバーにリニアに伝える専用ラックアンドピニオンステアリングギアボックスを採用している。