■パワーユニットを求めて‥‥‥市販エンジンからの選択

 新たなスポーツカー創りを目指す者にとっては、パワーユニットまで自前で用意するのが確かに理想だろう。しかし、そのためには膨大な時間と多大な資金を必要とする。小野たちはいままでの経験から、量産車のパワーユニットを使っても、理想的な形がとれると考えた。ちなみに、出発点でもある「Cadwell」も、市販エンジンを搭載している。この「Cadwell」が、同じエンジンでも車両重量がもとの量産車にくらべて飛躍的に軽い場合、まるで高度なチューニングをしたように高性能を発揮することを証明しているのである。それも、高い耐久性を維持したままで、である。
 そんな理由から、市販車のパワーユニットのなかから理想とするパワーユニットさがしを行うことになった。
クルマの動力性能を決定づける最大の要素がパワーユニット、すなわちエンジンであることは誰にも否定できないだろう。スポーツカーの性能が、パワーウエイトレシオの尺度で測られてきたことからもそれは明らかだ。だがもちろん、エンジンに求められるものはパワーだけではない。そのパワーを叩き出す内容にもあるのだ。その肝心の内容こそが、エンジンの個性、特性、味わいというものだ。 諸元・性能等は、カタログや公表されている資料に譲るとして、彼らがどのような哲学をコアにパワーユニットを選択・検証をしたのかをお伝えしよう。
ひとつめは絶対的な出力とトルクである。これはいうまでもないだろう。
その次に、あるいは出力とトルクの絶対値以上に彼らがこだわったのは人間の感覚にあった自然さをともなった高性能ということである。スポーツカーだからといって、高速域だけの性能を云々すればすむことではないという姿勢である。全域においてレスポンスのよいスムーズな吹きあがり、それによって小気味よい加速感を得られることが大切なのだ。大パワーだけというのであれば、過給システムを導入すれば済む話だが、人間の感覚とのズレを生じやすい。そこで、人間の感覚にもっとも近く、アクセルワークに合わせて素直反応する自然吸気(N.A)で、しかも加給されたエンジンに負けない出力、トルクを実現していることを望んだのである。
三つめは、軽量で極力コンパクトにできていることだ。いくら大馬力、大トルクであってもエンジン自体の重量、図体が重く大きくては意味がない。
スポーツカーにとって軽量化は不可欠だ。
搭載コンポーネントの中で比較的大きな比率を占めるエンジンの重量軽減は、走るために生まれてくるスポーツカーには必須なのである。
 そして最後に重要なことは、21世紀に作りつづけられるスポーツカー用パワーユニットとして優れた環境性能をもっていることだ。すなわち有害な排出ガスを極力少なくし、燃料消費もおさえたものであることであった。

彼らの哲学にあったパワーユニット、それがホンダ製の4気筒ユニットであった。ホンダが世界の自動車メーカーのなかでもっともエンジン技術に優れているというのは多くのライバルメーカーでさえ認めることであろう。それだけにホンダからエンジン供給が得られるかどうか、これはこの開発プロジェクトの大きな分かれ目であったはずだ。
小野をはじめとする開発スタッフも、ホンダとの交渉の経緯については、多くを語ってはくれない。しかしホンダからエンジン供給が得られたことでCadwellオンロードバージョンの魅力が格段に高まったのはたしかなのである。