『スラムダンク』の映画公開により、アニメのオープニングで登場する鎌倉高校前駅そばの踏切が再び熱気を帯びている。新型コロナの一服も重なり、国内外から観光客が平日・休日問わず押し寄せる。周辺住民は、「お金をかけて遊びに来ている観光客を拒むことはできないが、限界に来ていると思う」。本紙連載『聖地〜光と影〜』の後編では、地元住民の視点から踏切周辺について考える。
「車で踏切にさしかかると、人がぶわっとなっているのが怖い。できれば通りたくない」
そう語るのは、4年ほど前に運転する車が観光客と接触した50代の地元男性だ。仕事中、海方向へ坂を下る。徐行で踏切手前にさしかかると、撮影に夢中になっていた外国人女性が急に車道へと飛び出し、女性の脚と後輪が接触してしまった。
同じくコロナ前、車で接触事故に巻き込まれたのは市内60代男性。踏切手前の坂道を海方向へ下り出したところで、反対車線を登って来た車とミラー同士が接触。男性は左車線を走行していたものの、対向のドライバーは密集する観光客に気を取られて反対車線にはみ出していることに気づかなかったという。60代男性は以降、「あの道を敬遠するようになった」。
住民が遠慮する現実
踏切付近は、平日約30人、休日は70〜100人の観光客が同時に滞在する状態が続く。車道に出ての撮影や民家敷地内への侵入、ごみの投棄、違法駐車など事故以外にも問題が山積みだ。
付近の市道は駅利用者が通るほか、小中学校や鎌倉高校の通学路でもある。江ノ電を使う鎌倉高生徒は「歩道が毎日混雑しているので、車道を通らざるを得ない時もあって危険」。ベビーカーを押していた地元の40代女性は「歩道が観光客でふさがっていて、『すみません』と言いながら通っています」。70代男性住民は車で買い物に出かける際、踏切付近の混雑を避けようと朝9時前までに家を出るなど、生活者が観光客に遠慮する事態となっている。
混雑する踏切周辺の対策として、鎌倉市と江ノ島電鉄が2017年から実施しているのが、交通誘導を行う警備員の配置だ。主に土日や大型連休、中国の祝日に、警備員1人が観光客に注意を促す。しかし現在、警備員のいない平日も観光客が殺到。今年5月の定例会見で松尾崇市長は「警備員の配置拡大も検討したい」と述べている。
また踏切前には、英語と中国語、韓国語で「車道や民家に立ち入らないように」と書かれた看板を設置。市広報課でも、今年4月からツイッターを活用し、外国語で「車道や線路近くで撮影することは大変危険です」と呼びかけている。
対策会議の再開模索
周辺住民や自治会などからは、現状の対策だけでは不十分という声もあがる。
周辺地域では2019年11月に、自治町内会や学校、警察、江ノ電など25人が参加した「外国人等観光客対策連絡会」を開催。個々での取り組みに限度があることを踏まえ、課題の共有と対策を出し合った。会合は継続実施を予定していたが、直後からの新型コロナ流行で休止中だ。
長年に渡って踏切問題に取り組んできた自治会員は、住民の高齢化に触れ「人が密集するあそこでもしブレーキとアクセルを踏み間違えたら。何か起きてからでは遅い」と訴える。近隣の七里ガ浜二丁目自治会は、「命に関わる事故を防ぐためにも、連絡会の再開を検討したい」。 〈了〉
鎌倉版のローカルニュース最新6件
|
|
|
|
|
|