前代未聞の道路大陥没事故が起こった博多の町で、今度は相撲界に激震が走った。13日に初日を迎える大相撲九州場所(福岡国際センター)を前に、角界の名物行事が“存続危機”に直面。毎年九州場所前に開かれていた「横綱会」が昨年から2年連続で見送られることになったのだ。昨年11月に日本相撲協会の北の湖前理事長(元横綱)、今年7月に先代九重親方(元横綱千代の富士)が相次いで死去したことが表向きの理由。その一方で、背景には元横綱同士の深刻な対立の構図も絡んでいるという。

「横綱会」とは元横綱の親方や現役横綱が一堂に会する親睦会のこと。その歴史は古く、発足は1953年にまでさかのぼる。近年は年1回、九州場所前に福岡市内の一流ホテルや高級料亭などで食事会が開かれるのが恒例となっていた。番付社会の頂点に立った者だけが参加を許される、大相撲における“殿堂”のような存在でもある。

 昨年は北の湖前理事長の体調不良により横綱会が取りやめになった。それ以前にも、元横綱隆の里(当時の鳴戸親方)が急死した2011年に中止になった例などがある。今回の見送りの直接的な理由は、大横綱が相次いで死去したこと。ただ、その背景には別の要因も絡んでいるという。角界関係者は「今年も横綱会は開かれない。もちろん横綱が亡くなったこともあるが、開いても頭数が揃わないという事情もあったと聞いている」と明かす。

 3年前は大鵬、そして昨年と今年は北の湖と千代の富士…。昭和の大横綱が次々にこの世を去った。数年前と比べても、横綱経験者の人数自体が急減。元横綱の親方は日本相撲協会の八角理事長(53=元北勝海)をはじめ、芝田山親方(54=元大乃国)、武蔵川親方(45=元武蔵丸)、貴乃花親方(44)、伊勢ヶ浜親方(56=元旭富士)の5人だけとなった。

 現在の協会の規約では親方になるためには日本国籍の保有が必須条件。98年の三代目若乃花を最後に和製横綱が誕生しておらず、元横綱の親方が減少するのは当然の流れだ。さらに、今年3月の理事長選をめぐって八角理事長の主流派と貴乃花、伊勢ヶ浜親方の非主流派の対立が深刻化。今もなお、大きなしこりは残ったままだ。

 大横綱を筆頭に十数人がズラリと顔を並べていた過去の横綱会ならいざ知らず、こぢんまりとした人数で集まっても主流派と非主流派で気まずい雰囲気が漂うだけ。仮に横綱会を開いたとしても、互いに無言状態が続いたとしたら…。その場に居合わせるであろう白鵬(31=宮城野)ら3人の現役横綱にとっては、迷惑以外の何物でもないだろう。

 前出関係者は「八角理事長と貴乃花親方の関係が変わらない限り、もう横綱会が開かれることはないのでは」と今後の見通しを示す。その言葉通りであれば、大横綱の喪中期間が明ける来年以降も横綱会は事実上の休眠状態が続くことになる。しかも、次回の九州場所前は2年に1度の理事選を控えている重要な時期だ。両陣営の間で水面下の駆け引きが激化する時期と重なるだけに、なおさら再開される可能性は低い。

 横綱会は現役横綱と、引退した先輩横綱がヒザを突き合わせて語り合う貴重な機会でもあった。そこには横綱としての気構えや横綱だけが知る苦労話の伝承も含まれる。60年以上の伝統を誇る名物行事は、このまま“自然消滅”の道をたどってしまうのだろうか――。