トランプ氏「油田に兵残す」 米、シリアから全面撤収のはずが

2019年11月3日 02時00分

10月26日、シリア北東部カミシュリ付近を通る米軍の車両=AP・共同

 【ワシントン=金杉貴雄、カイロ=奥田哲平】トランプ米政権の対シリア政策が二転三転している。駐留米軍の全面撤収を進めてシリア北東部へのトルコ軍侵攻を許したのもつかの間、新たに東部デリゾールの油田地帯に派遣。トランプ大統領は十月二十七日、米企業に油田操業を担わせる可能性に言及したが、専門家は国際法違反を指摘する。
 トランプ氏は過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者バグダディ容疑者死亡を明らかにする中で、シリア東部の油田に言及。「石油確保のため兵を残す。エクソンモービルやわれわれの偉大な企業の一つと取引し、適切にやる。地下に大量の石油があり、富を広げる」と語った。
 シリア駐留を巡っては、米政府は十月七日に「ISを打ち負かした以上、近隣にいる必要はない」として約千人の部隊撤収を開始。IS掃討作戦で米軍と連携したクルド人勢力を見捨てるとの批判を受け、「IS勢力拡大の阻止」を名目に一部を残留させる方針に転換した形だ。派遣部隊は五百人規模になるという。
 シリア東部デリゾール県の油田は、クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」が掌握しており、エスパー国防長官は石油の取引収入がSDFの兵力維持に役立つと強調。一方で、シリア国内の駐留継続でロシアやアサド政権をけん制するカードを握る狙いもあるとみられる。
 シリア内戦はアサド政権軍の優位が決定的だが、石油産出は内戦前の十分の一に落ち込み、欧米の経済制裁もあって深刻な燃料不足に苦しむ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、元米軍高官が十月中旬にトランプ氏と面会し、米軍が撤収すれば油田がイランの手に渡るとも忠告した。
 米企業が油田操業するという方針に対し、米メディアも専門家の「現実性のない話」との見方を紹介。英紙ガーディアンは「戦争犯罪の可能性」と伝えた。油田の所有権はアサド政権にあり、内戦で設備も失われて多額の投資が必要だ。米公共ラジオ(NPR)は、米軍撤収に反対する与党議員らにとって、油田は「取引好きのトランプ氏の本能に訴えかける手段だったのかもしれない」と指摘した。

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