在庫衣料は「宝の山」 決め手は目利き力? オフプライスストアは消費者・メーカーともWINWIN

2022年7月15日 12時30分
 大量の売れ残り商品の扱いが課題になっているアパレル業界で、複数のメーカーの洋服や靴などの在庫を集めて割安価格で売る「オフプライスストア」が注目されている。消費者はお目当ての衣料品を安く買え、メーカー側には在庫を減らせる利点がある。米国ではオフプライスストアの市場が拡大。売上高が4兆円を超える企業も出てきた。在庫に「宝」は埋もれているか。(押川恵理子)

◆1年以上前、でも新品で3~8割引き

 5月下旬、川崎市のJR川崎駅前の商業施設に、カラフルな夏服や落ち着いた色合いのスーツが飾られていた。値札には定価と割引価格が表示され、3〜8割引きの表記が目立つ。1年以上前の在庫が大半だが、いずれも新品だ。

衣服や生活雑貨など値引きされたブランド商品が並ぶ「アンドブリッジ川崎DICE店」=川崎市川崎区で

 5月3日にオープンしたオフプライスストア「&Bridge(アンドブリッジ)」(東京)の川崎DICE(ダイス)店。自社商品のみを扱うアウトレット店と違い、複数メーカーの商品約1万点を販売している。
 横浜市の40代の女性会社員は「知らないメーカーの商品など発見があって面白い。好みの色やサイズが合う掘り出し物が見つかれば最高」と品定め。川崎市の20代の男子大学生も「古着が好きなので2、3年前の服でも気にならない。靴や雑貨も多く、見ていて楽しい」と話した。
 アンドブリッジはアパレル大手のワールドと、商品在庫の売買などを手がけるゴードン・ブラザーズ・ジャパン(東京)が2019年8月に設立し、首都圏に5店舗を構える。
 ゴードンの高い商品調達力を生かして国内外約700のメーカーの商品をそろえる。アンドブリッジの広報担当者は「いろいろな企業の余剰在庫を解消する場になり、SDGs(持続可能な開発目標)にも通じる」とアピール。廃棄処分する商品を減らそうと、他社の製品を含めた中古衣料の回収コーナーも設けた。

店内に設置されている不用な衣料品などを回収するリサイクルボックス=川崎市川崎区で

 販売コストを抑えるため店員数は3〜5人に絞り、衣類を並べる棚は中古品や倉庫のワゴンを活用する。一方で展示はワールド社員の「専門家」が担い「コストを抑えつつ商品を面白く見せている」と担当者。21年3月期決算で早くも黒字化を達成し、首都圏を中心に店舗を増やす計画だ。

◆1年足らずで撤退した例も

 このほか19年春にオフプライスストアに参入したゲオクリア(名古屋市)も先月中旬、横浜市に「Luck Rack(ラックラック)」の20店目を開業。24年までに50店への拡大を目指している。

ゲオクリアが開業した「ラックラック」20店舗目のノースポート・モール港北店=横浜市で(同社提供)

 ただディスカウント店のドン・キホーテのように、20年3月に愛知県内に1号店を開業したものの1年足らずで撤退した例もある。オフプライスストアに詳しい小島ファッションマーケティング(東京)の小島健輔代表は「売れ残り品を集めただけでは古着店の方が魅力的。世界中の在庫から『お宝商品』を見つけられる企業だけが生き残るだろう」と予想する。

◆廃棄衣料の97%は家庭から…品切れ避け過剰生産も

 環境省の推計によると、中古を含む2020年の衣類の廃棄量は51万トン余りで、このうち約97%が家庭から出された。一方、20年の衣類の新規供給量は82万トン。このうち14%が売れ残り、最終的に全体の0.3%の約2000トンが廃棄されたとみられている。
 アパレル企業の生産拠点は中国など海外に多く、売れ行きに応じた速やかな追加生産が難しい。品切れを避けようと多めに生産する傾向があり、これが余剰在庫が生じやすい要因だ。
 業界では需要に応じた追加生産を可能にするため、百貨店ブランドを中心に国内生産に切り替える動きもある。低価格のファストファッションでも注文を先に受け、インターネットで販売する中国の新興企業が売り上げを伸ばしている。

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