日本書紀の天孫降臨神話に、天から下界に降りる神が「真床追衾(まとこおうふすま)」という掛け布団にくるまれていた、という趣旨の不思議な記述がある。かつて国文学者の故・折口信夫(しのぶ)は、天皇の即位に伴う大嘗祭(だいじょうさい)の神座に置かれる衾(布団)が「真床追衾」に由来し、新天皇に天皇霊をつけることに儀式の意義があったとの説を唱えた。そもそもなぜ儀式に「衾」が登場するのか。その疑問をユーラシア北方遊牧民の思想や伝統から解き明かし、折口説を補強する新説が昨年、発表された。謎に包まれた大嘗祭。その核心に迫る考察とは。
秘儀伝来のルーツ
折口は昭和3年、即位する天皇が衾にくるまって物忌みし、天皇としての威力の根源となる霊魂「天皇霊」を憑依(ひょうい)させることで神格を得る「秘儀」があるとし、これが大嘗祭の最も重要な意義であると主張した。