ほとんどの人が予想していなかったリバイバルだ。BicepやLorenzo Senniなどのアーティストが新解釈のトラック群をリリースし、Nina KravizなどのDJがセットに組み込んでいることで、あのトランスが復活を遂げている。この事実をサプライズに思う人もいるだろう。なにしろ、ダンスミュージックの純粋主義者たちに鼻で笑われ、口の悪い人たちにはメインストリームだ、ベタベタだと冷笑されていたのだから。しかし、スタジアムを埋め尽くすこのメジャージャンルのベストトラックの中には、特別な光を放っている名曲がいくつか存在するのだ。
トランスはアシッドハウスとテクノのドラッグ寄りの交差点が出身地だ。ドイツとオランダのレイブシーンから発展していったこのジャンルの音楽的なルーツは、Jean-Michel Jarreの『Oxygene』(邦題『幻想惑星』)、Tangerine Dreamの「Love On a Real Train」、Manuel Göttschingの『E2-E4』のようなエレクトロニック・ミュージックのパイオニアたちが生み出した初期トラック群まで遡ることができる。
トランスの本質は、反復が生み出す多幸感を生み出そうという意識と、そのためのギャラクティックなメロディの重用にある。1990年代初頭の初期トラック群は、その「瞬間に没頭する至福」をパーフェクトに捉えているが、2000年頃の後期トラック群は、ハードでスピーディなものになっていた。そして、21世紀を迎えると、トランスは英国のダンスミュージックシーンの中で最大の利益を生み出すジャンルに成長し、このジャンルのトップDJたちはイビサなどのギグで天文学的桁数の報酬を要求するようになっていた。これが反感を買うことになった。
しかし、それ以降のテクノやハウスシーンはプロデューサーたちは、トランスの超越感覚を自分たちの作品に組み込もうと試行錯誤を重ね、上質でモダンなトランスチューンをリリースしてきた。そしてこれが結果的に、このジャンル全体の復活に繋がった。2017年の終わりを祝うパーティラッシュに向けて、ピークタイムを支えてくれるトランスクラシックベスト10を紹介しておこう。
1:KLF「What Time is Love?」(Pure Trance Mix)
水晶玉を覗き込んだ英国のダンスミュージックシーンを代表する2人、Jimmy CautyとBill Drummondは、そこに奇妙な未来を見出していた。1988年に彼らがリリースした「What Time is Love」には、リスナーをトランス状態にする旋回するようなトリッピーなリフと、ビヨビヨとしたアシッドサウンド、雲の中から差し込む光のようなシンセパッドが持ち込まれており、このサウンドはシーンに多大な影響を与えた。
2:Jam & Spoon「Stella」
フランクフルト出身の2人組Jam & Spoonによるこのトラックは、最終的にはセルフリミックスの方が高い人気を獲得することになったが、オリジナルの方が初期トランスのバレアリックなエッセンスを上手く捉えている。刺激的なテクノへと昇華していくスムーズなシンセ、スパニッシュギター的なフレーズ、そして力強いビートが「Stella」を真のイビサアンセムのひとつに押し上げている。
3:Ramirez「Hablando」(Accordeon Mix)
アコーディオンサウンドはトランスではレアだ。むしろ、そうあって欲しい。しかし、それでもRamirezの「Habland」が名曲であることに変わりはない。アコーディオンのリフ、スペイン語のフレーズ、強力なパーカッションなどが特徴的なこのトラックは、最近Radio Slaveによってリミックスされた。この事実もトランス復活の証左と言えるだろう。
4:Age of Love「Age of Love」(Jam & Spoon Mix)
「Come On / Dance With Me」というフレーズが盛り込まれているイタリア人デュオAge of Loveのこのトラックは典型的なトランスだ。ビルドアップしていくリフ、スピリチュアル風のコーラス、そして興奮を呼び込む派手なブレイクを備えているこのトラックは、過去に何回もリミックスされており(最近はSolomunもリミックスした)、最先端を追い求めるダンスミュージックシーンの中でさえも長年プレイされ続けている貴重なトランスチューンのひとつだ。
5:CJ Bolland「Camargue」
ベルギー人プロデューサーのCJ Bollandは、R&S Recordsからリリースされた一連のハードテクノヒットで有名だが、この強烈なトランスチューンは彼の最高傑作と言えるだろう。見事なオルガンコードと跳ねるベースが特徴的なこのスピードトラックは、Bicepがプレイしてもおかしくない。
6:Paul van Dyk「For an Angel」
現在もトランスのトップDJのひとりとして活躍しているドイツ人Paul van Dykは、1998年にリリースされたこのトランスクラシックの生みの親でもある。1990年代後半らしいスピードとパワーが感じられるこのトラックには、刺激的なベースラインとタイトルに相応しい美しいピアノフレーズが盛り込まれている。
7:Nathan Fake「The Sky was Pink」(James Holden Mix)
ほとんどの人が覚えていないと思うが、エレクトロニック・ミュージックのエクスペリメンタリストで、2017年のベストアルバムの1枚に数えられるアルバム『The Animal Spirits』をリリースしたJames Holdenはトランスからキャリアをスタートさせている("Horizons"をチェックしてもらいたい)。そして、このリミックスは彼の最高傑作だ。トランス的なリフを備えたこの静かだが激しいトラックは、Hot Chipなど数多くのファンに愛されている。
8:Sasha/Emerson「Scorchio」
SashaことAlexander CoeもDarren Emersonもこのトラックをそこまで評価しないはずだが、「Scorchio」はパーフェクトなトランスチューンだ。ベースのアルペジオがビルドアップしていくと、巨大なスーパークラブでプレイされるためにデザインされた強烈なメロディと共に派手なシンセが鳴り響く。
9:Booka Shade「Mandarine Girl」
2000年代後半のテックハウスブームを代表するアーティストBooka Shadeが手掛けたこのクラシックトラックはBPMこそ抑え気味だが、その他の部分は強烈なトランスだ。地中深くから天に届くようにうねるリフ、リスナーの耳にじわりと染みこんでいくベースラインと壮大なムードを誇っているこのトラックは、トランスが様々なジャンルに取り入れられてきたことを示す好例だ。
10:Bicep「Orca」
ベルファスト出身で現在はロンドンを拠点に活動しているデュオBicepは、ここ最近音楽性をトランスにシフトしているが、このスタイルも彼らに似合っている。特に、2017年にNinja Tuneからリリースされたデビューアルバムのオープニングを飾るこのブレイクビーツ的要素を盛り込んだ美しいチューンは、実に彼等らしい。